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ダイソン日本法人初代社長のゴードン・トム氏が語る、日本市場で生きる「伸ばす」マーケティング

ゴードン・トム氏

 外国人ビジネスマンがよく口にする不満は「日本はいまだに鎖国を続けている」「日本の障壁は高い」「日本の流通は閉ざされている」というものだ。ダイソン日本法人初代社長のゴードン・トム氏はその障害を次々に乗り越えてきた。同氏が日本市場で成功した秘密とは。

外資が日本市場で直面する壁を突破したゴードン・トム氏

 

社長就任時、ダイソンの認知度はほとんどゼロだった

 今では誰もが知る掃除機「ダイソン」はジェームス・ダイソン氏が英国で創業。ゴミを遠心分離する「サイクロン技術」を採用し、英国を制覇し、欧州や米国でも成功させ、1998年には日本法人を立ち上げ、それまで英国大使館に勤務していたゴードン・トム氏を社長に据えた。

ゴードン・トム氏

ゴードン・トム氏

 「当時、ダイソンの認知度は、ほとんどゼロでした」とトム氏は言う。

 「そもそも吸引力ということを誰も考えてなかったのです。掃除機は紙パックを取り替えることが当時の常識で、掃除機は吸引力が弱くなるもの、と誰もが考えていました。競合他社もそれを当たり前と思っていたわけです」

 日本人主婦でさえ、当初はこういう意見だった。

 「日本人は透明な掃除機でゴミを見たいとは思いません!」

 大きくて価格も高い、デザインが目立ち過ぎる、たまったゴミが外から見えて気持ち悪い。現在、ダイソンの個性として評価されていることのすべては否定された。

 翌99年に出た初年度の売り上げは、総代理店に丸投げしていた時と変わらず、わずか数千台だった。

キャッチフレーズの日本語転換でダイソンが大ヒット

 トム氏は地道な広報活動と、家電量販店へと販路を広げる努力を重ねた。仕入れ担当者のところに日本人の営業部長と出向いて、商品を置いてもらうようお願いし、知ってもらう。

 転機が訪れたのは日本向けの小型軽量商品DC12が発売された2004年だ。それまで福岡ローカルだけでCMを打ったことはあったが、このときは全国ネットでCMを打つことにした。

 英国で使われている「No Loss of Suction(減じない吸引力)」というキャッチフレーズをうまい日本語に転換した。

 「ダイソン。吸引力の変わらない、ただひとつの掃除機」。

 このナレーションで締めくくられるCMには、既存の掃除機CMの定番、可愛い奥さまが掃除をする姿など出てこなかった。DC12の画像と機能を説明するだけで、最後は、皆が気にかけていなかった「吸引力」という言葉で締めくくられる。

 DC12は爆発的に売れた。05年時点で金額シェアで14%となった。家電王国日本で、外資メーカーの商品が国産品と互角に戦う数少ない例となった。

 「テレビで見た人が量販店に押し掛けました。皆、名前は覚えていないけど、変な色の掃除機を見たから、買いたい、と言うわけです。量販店は、その変な掃除機が棚にないとお客は競合他社に向かうわけですから、それはとても恐ろしいわけです」

 09年にはダイソンの日本での認知度を100%近くにまで高め、トム氏は自分の役割には区切りがついたと考え、故国に帰り、コンサルティングの会社を設立。そこに依頼してきたのが、スウェーデンの掃除機会社エレクトロラックスだった。

 

ゴードン・トム氏の「伸ばす」マーケティング手法

 

コンサルタントとして活躍するゴードン・トム氏

 トム氏は日本市場で事業展開する際のアイデアをいくつか出したが、スウェーデン本社は彼の提案が大変気に入り、「いっそ社長になってくれ」という運びとなった。そしてトム氏は東京に舞い戻ってきた。

 当時、エレクトロラックスはお洒落な家電として問屋経由で「フランフラン」に置いてあるだけだった。それだけでは伸びないと判断したトム氏は広報活動と量販店への売り込みで販路を広げていった。

 当初、スティックタイプの掃除機とは誰も馴染みがなかったが、2年半後、12年の段階で、エレクトロラックスの類似品、スティックタイプで量販店にも1つのコーナーが出来上がるほどの存在になった。ここで役割を終えたと判断したトム氏は友人の住むスウェーデンに移住した。

 トム氏のコンサルティング会社はNobasu Consulting Ltd.という。名刺の裏には漢字で「伸」とある。会社を伸ばすコンサルティング会社だ。

 現在は英国ウォーターロジック社の浄水器を日本に浸透させようとしている。

伸ばすマーケティングに必要な広報戦略

 「私は曲がり角に来ている大企業に乗り込んでコストカットするタイプのコンサルタントではなくて、画期的な商品を持つ可能性を秘めた会社を伸ばすことが得意です。伸ばすには、まず、広報です。ダイソンを立ち上げた頃、15年前にはまだウェブは一般的ではありませんでしたから、月刊誌や週刊誌、特に掃除機でしたから女性誌で広報しました。時にモノ系で取り上げられると技術の話をしました」

 「すると、量販店にご主人が奥さんを引っ張って来て、このサイクロンという技術がすごいんだ、と説明する現象もありました。イベントなどを1回やればいいということではなくて、いろんなプロセスを重ねていかなければいけません。ウェブとか雑誌とか新聞とか、商品レビューサイト、ソーシャル、口コミ、商品説明会、トレーニング、店舗でのデモンストレーション、ありとあらゆる広報活動をやり、やがては量販店も攻めるのです」

 最後に「伸ばす」秘訣を聞いてみた。

 「解決できない問題はありません。解決できないとすれば、それはまだ十分に考え尽くしていないからです。考え尽くしてすべてを試せば、必ず問題は解決できます」

(文=ジャーナリスト/戸田光太郎)

 
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