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「すべてが〝再定義〟される時代の水先案内人になる」 --三木谷浩史(新経済連盟代表理事)

三木谷浩史氏

 変革の時代には、既存の枠組みから脱却することが必要との考えから、新経済連盟を設立した三木谷浩史氏。現在、一般会員と賛助会員を含めて、合計545社が加盟。ITのみならず、医療、教育、エネルギーといった国の方向性を決める重要課題についても議論し、さまざまな政策提言を行っている。果たして新経連は、日本の産業界をリードする存在となれるのか。そこに込められた思いと、日本が進むべき方向性について三木谷氏に聞く。
聞き手=本誌編集長/吉田 浩 写真=森モーリー鷹博

三木谷浩史(新経済連盟代表理事)(みきたに・ひろし)0127_P046-Ph1965年生まれ。神戸市出身。88年一橋大学商学部卒業後、日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)入社。93年米ハーバード大学でMBAを取得。同行を退職し、97年エム・ディー・エム(現楽天)を立ち上げる。同社の会長兼社長を務める傍ら、2010年ITを核としたイノベーション推進を目指す「一般社団法人eビジネス推進連合会」を設立。同組織を母体として、12年に「一般社団法人新経済連盟」をスタート。代表理事に就任する。

三木谷浩史氏が新経済連盟を設立した理由

── 新経連を設立して2年半がたちました。そもそもどんな問題意識があってつくった団体なのでしょうか。

三木谷 もともと僕は、日本興業銀行という重厚長大産業のフラグシップのような組織にいて、その頃は日本の産業を育てる一翼を担っているという自負心もあったし、充実感もありましたが、世の中が大きく変わろうとする中で、新しい産業の形をつくっていかなければならないという思いで楽天を起業しました。楽天は民間企業なので、当然、収益を生み出すことに力を入れてきましたが、一方では世の中を変えていく原動力、いわば現代の亀山社中になろうというのがわれわれの思いでした。
 とはいえ、単独で行動してもなかなか難しいので、団体をつくってやっていこうと。そこで、まずはeビジネス推進連合会をつくりましたが、本来の目的は「イノベーション」「アントレプレナーシップ」「グローバリゼーション」を枠組みとした新しい経済団体をつくることでした。ただし、いきなりそれを実行するのは時期尚早でもあったので、取りあえずeビジネスの推進という形でスタートし、将来的に発展させていこうと考えていました。

── 新経連の設立と時を同じくして経団連を脱退しましたが、経済界の重鎮と三木谷さんの考え方にはそれほどギャップがあったのでしょうか。

三木谷 経団連とは電力産業の構造について、残念ながら考え方が真っ向から対立し、明らかに方向性が違うということで身を引かせていただきました。ただ、それだけではなく、世の中の流れを見ると、インターネットが社会の重要なプラットフォームになっていくのは明らかでした。それは、単純にショッピングができるといったことではなく、ビットコインが出てきて通貨の定義を変えたり、ウエアラブルデバイスやスマートデバイスが登場したり、車も家電も産業用機械もすべてネットにつながっていくインターネット・オブ・シングスが進んだりといったことを考えると、既存の考え方から脱却しなければいけないと思ったのです。
 国は今、ネットニュートラリティーやプライバシーやセキュリティーなど、IT周りの事柄については、ほとんど新経連に尋ねてきます。既存の日本企業の枠組みの中では考えられないことがどんどん出てきて、そちらの重要性が増しているからです。

── 目立った活動として、大衆薬のネット販売解禁や不動産取引におけるネット活用の推進などがありますが、今後はどのようなテーマに取り組むのでしょうか。

三木谷 新経連には14のプロジェクトチームと5つのワーキンググループがあって、さまざまな提案をしています。薬の販売や不動産取引というのは、そのごく一部にすぎず、要するに日本をスマートネイションにしていくことが目的です。例えば、医療、教育、行政手続きのドキュメントなど、さまざまなものをスマートデバイスに載せて電子化していくことによって、日本がもう一度世界から脚光を浴びるようにしたい。紙ベースの既得権益をITの力で壁をぶち壊し、国民に利便性とより豊かな生活ができるプラットフォームを提供するのが、新経連の理念です。

── 2014年11月に欧州を訪問して、特にエストニアの制度に感銘を受けたとのことですが、それほど日本とはIT活用の状況が違うのでしょうか。

三木谷 エストニアでは、会社設立の手続きも、税務申告も、選挙の投票もモバイルでできます。これによってもたらされるのは、多大なる時間の節約です。今、日本は労働力不足と言われていますが、IT化することで人間がやらなくてはならないことが大きく減らせますし、不要な労働から人々を開放すれば、もっとクリエイティブなことに集中できると思います。
 また、日本では料金の問題があります。日本の携帯電話料金はライトユーザーの場合、主要国で2番目に高く、1人当たり月平均で約7300円。4人家族で年間合計30万円以上もの負担です。これは、電力産業と極めて似た話です。もはや、インターネットへのアクセスは、基本的人権に近いという考え方をするべきです。すべてのことを手のひらの上のデバイスでできるようにすれば、過疎地で移動が難しくなってきた高齢者の方たちにとっても、すごくプラスになります。

三木谷浩史氏の安倍政権の成長戦略への評価

── 三木谷さんは産業競争力会議のメンバーでもありますが、安倍政権の成長戦略についてどう評価していますか。

三木谷 今までのところ、非常に評価しています。今回、総選挙を行ったのは、今まで描いてきたプランを実現するために必要だったのでしょう。ただ、描いている画は良いのですが、実行できるかどうかが問題です。

── 13年7月の参議院選挙では、新経連から推薦候補者がいたと思いますが、政治的な活動はIT世代から敬遠されませんか。

三木谷 やり方次第でしょうね。今回の選挙はあまりにも準備期間が短かったので、そうしたことはやりませんでしたが、政治的な議論をソーシャルネットワークの中で盛り上げることは必要だと思いますし、ITの推進を打ち出している候補者については、新経連として応援していくことが重要な責任だと思っています。

── ITの領域に限らず、iPS細胞を開発した京都大学の山中伸弥教授に「イノベーション大賞」を授与するなどしましたが、イノベーション全般を応援していくというスタンスなのでしょうか。

三木谷 基本的には、「イノベーション」と「アントレプレナーシップ」と「グローバリゼーション」の3つを柱にいろんな活動をやっていきたいと考えています。14年12月に行った「失敗力カンファレンス」は即日申し込みが定員になりましたし、4月に行う新経済サミットや、各種政策のための懇談会なども含めて積極的に活動していかないと、日本がどんどん遅れていってしまう気がしています。

── 失敗力カンファレンスというネーミングは面白いと思いますが、三木谷さんが考える失敗力とは何ですか。
三木谷 失敗というのは英訳すると〝Failure〟ではなく、〝Learning Experience〟だということです。失敗なくして成功はないので、どんどん失敗しようと。ただし、失敗から学ばなくてはいけないし、やみくもに博打を張るのではなく、リスクとは何かよく考えてみようということです。僕が興銀を辞めた時、周囲からはよくリスクを取ったねと言われましたが、何にもリスクを取っていないんです。なぜなら、失敗しても必ずゴールドマンサックスなどほかに雇ってくれるところがあるという自信はありましたから(笑)。みんなが直感的にリスクと思っていることは、実はリスクではない。それが失敗力ということですね。

三木谷浩史代表理事が考える新経済連盟の目標とは

── 「リスクとは経済的なことではなく、自分の夢が叶えられないことだ」という発言をよくされていますが、その考えはいつ頃から持たれていますか。
三木谷 いつ頃かは分からないですが、かなり早い段階からそうですね。

── キッカケとなる出来事はあったのですか。
三木谷 やっぱり阪神・淡路大震災ですね。僕は神戸出身ですから、親戚や友達が亡くなったのを見るにつけ、人生は有限資源であると実感しました。最期に自分は良くやったと思えるだろうかと、大事なのはその一点に尽きると思うんです。それは実業家として成功することでも、野球選手として成功することでも、小さなラーメン屋の親父として旨いラーメンを作ることでもいいと思うんですよ。

── 震災は人生観を変えてしまうほどの出来事だったわけですね。
三木谷 当時は興銀に勤めていて、震災の翌日に地元に帰ると火の手はまだ上がっていましたし、自分が生まれ育った場所が、惨憺たる光景になっていましたから。ショックと言うより、何と言うか妙に冷静な自分がそこにいました。これって、やっぱり自分もいつかは死ぬと言うことなんだなと。

── 今後の新経連の目標は。三木谷 新経連としては、未来への水先案内人として機能していきたいと思っています。冷静に見れば分かりますが、社会の構造自体がインターネットの出現とスマートデバイスの出現によってまさに変わろうとしているんです。通貨もメディアも会社も国も、これからは再定義されていく。その中で古い形にこだわっていると、どんどん日本の競争力がなくなっていきます。世界のトレンドに追い付くのではなく、1歩も2歩も前に出なければいけません。それをいかに効率的にやっていくかという感覚を、国の運営に持ち込む必要があるのです。 何となく日本はモノづくり国家と言われていますが、それだけでは食べていけないことに気付かない人たちが国をリードしている。エストニアの首相は35歳。片やスマホも使ったことがない人が日本では国会議員をやっている。これはマズイと。僕も以前は、50歳になったら引退していると思っていましたけどね。

── 個人的なゴールは設定しているのですか。
三木谷 ゴールは特にないですね。行き当たりばったり人生ですから(笑)。ただ、今はとにかく、コロンブスではないけど、あの辺に大陸があると思って進んでいる感じです。その先に何があると設定しているわけではないですが、日本という国が良い方向に向かう手助けになりたいと思っています。

 
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