トラブルの原因は「言葉」にあり
仕事の進め方の違いや職務態度の問題などが原因で、組織内で感情的な衝突が生じ、トラブルが発生する、ということはよくあります。そもそも家族や友人同士であっても人間が集まれば気持ちの行き違いというのは起こるものですから、それ自体は仕方のないことかもしれませんが、同じ組織内で頻発するとなると、経営者としても看過できませんよね。
そういう感情がぶつかるトラブルの原因の多くは「言葉の使い方」だと、私はつねづね感じています。
子どもたちの様子を見ていても、相手の気持ちへの配慮のない言葉が聞こえた直後には、ほぼ間違いなく言い争いが始まり、ときにはお互いに手が出るケンカも勃発します。
例えば、あるおもちゃを使いたいときに、「これ、ぼくの!」とか「これ、私の!」などと自分の気持ちだけを言葉にして、そのおもちゃを自分のものにしようとする子どもというのはたくさんいます。たまたま別の子も同じおもちゃを使いたいと思っていた場合は「違う!ぼくの!」「私の!」と互いが同じ主張をし、それがケンカにつながるのです。
子育ての場面で行う言葉のトレーニング
そこで、私の保育園では、かならず「言葉のトレーニング」を与えるようにしています。その際、「これ、ぼくの!」ではなく、「ぼく、このおもちゃを使いたいんだけど、使ってもいい?」という「交渉の言葉」を使えるように指導することはもちろんですが、その言葉をどう受け取るか、という受け手側に対する指導も同時に行います。
つまりそれは、言葉の背景にある、相手の気持ちを汲み取るトレーニング。「これ、使っていい?」と言われたときに、それは自分への配慮としてかけてくれた言葉だと理解できるようになると、「ぼくも使いたいから、交代で使おう」という提案もできるようになるのです。
子どもたちには、友だちと楽しく過ごすために、どういう言葉を選んで伝え、そしてどう受け取るのか、という考え方を普段から共有させることも心掛けています。この「共有」によって、相手がどんな気持ちでその言葉を発しているのかを想像できるようになりますので、お互いを思いやる寛容さも身に付くのです。
大人の場合も、感情的な対立を生み出す原因の多くは、言葉のチョイスにあります。相手の感情を必要以上に波立たせない言葉を選び、お互いに丁寧な会話を心掛けることを組織の共通認識としておくことは、無用なトラブルを避ける上でとても有効です。
組織内で交わされる会話にそっと耳を傾け、「不適切な言葉」が行き交っていると感じたときは、その言葉を発している人物のみを叱責するのではなく、組織全体を対象に言葉の使い方のケアをすることをお勧めします。
言葉の選び方で子どものモチベーションも変わる
言葉というのは、人を傷つける武器にもなりますが、もちろん力強い励ましにもなりえます。
誰かの言葉に救われたという経験は誰しもきっと持っていることでしょう。人材育成においても、いかに適切に言葉をチョイスするかということを常に意識することはとても大切だと思います。
例えば同じ状況を表現するにしても、「これができたら素晴らしいね。でも、やるのは大変だよね」という言葉と、「やるのは大変だね。でも、できたら素晴らしいよね」という言葉では、その言葉をかけられた側のモチベーションが変わってくることは想像に難くないでしょう。
部下がミスをしたときでも、例えば、「上司として、早く気付いてやれなくて申し訳なかった」といううまいフォローの言葉をかけてあげられれば(それが本心がどうかは別としても)、当人は自分の非をむしろ素直に受け入れ、正しく反省し、次に生かすことができます。
準備が間に合わなかったとき、「先生がもっと早くに声を掛けてあげればよかったね」というひと言をかけてあげるだけで、子どもたちは「そんなことないよ。ぼくたちがもっと急げばよかったんだ」と自分たちの非を素直に認め、次は早めに準備をするように心掛けようという気持ちになってくれます。「なんで早くやらないの?」とガミガミ怒るより、必要な反省や行動の改善をうまく引き出すことができるのです。
人材育成においても「ものは言いよう」。あなたも一度、自分の言葉のチョイスを見直してみませんか?
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