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主役不在の2015年 混沌の中、日本が進むべき道--寺島実郎(日本総合研究所理事長)

日本総合研究所理事長 寺島実郎氏

「リーマンショック再び」のシナリオ

寺島実郎

寺島実郎(てらしま・じつろう)
1947年生まれ。北海道出身。73年早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了三井物産株式会社に入社。米国三井物産ワシントン事務所長、三井物産業務部総合情報室長、三井物産戦略研究所所長、同会長などを歴任。2009年多摩大学学長、10年一般財団法人日本総合研究所理事長に就任。

 ロンドン・エコノミスト発行の『ザ・ワールド・イン2015』を読むと、〝disorder〟という言葉が頻繁に出てきて、2015年は非常に不透明感にあふれている。秩序を失い、リーダーなき世界に向かっていく混沌とした展望が見える。すべての当事者が不機嫌な時代とでも言えばよいだろうか。例えば14年の主役だったロシアは、金融が不調で、石油価格も1バレル70ドルを割る苦境にあえぎ、ともすると15年はマイナス成長に陥るかもしれない。米国も中間選挙におけるオバマの大敗が象徴するように、混迷している。米国が世界に掲げていた「自由と民主主義の国・アメリカ」という松明が消え始め、リーダーとしてのレジティマシー(正統性)を失ってきている。欧州は統合の危機で非常に厳しい局面にある。高笑いしている者が誰もいない時代に入ってきている。

 一番注目すべき米国は、外交、安全保障、軍事の分野で世界をグリップする力が一段と萎えて迷走する一方、経済は活況を呈する状況が同時進行している。

 米国経済の活況には2つの要素がある。ひとつは、化石燃料革命。天然ガスに加えて、原油の生産量においても、米国が世界一になった。13年には、米国の原油の生産量が1231万バレルとなってサウジアラビアやロシアを抜き、14年上半期の実績では1340万バレルにも増え、20年までに1650万バレルに達するだろうと予測されている。そうなると、米国の産業競争力が化学工業を中心に強くなり、さらに製品化したガソリンなどの輸出で、外貨を稼ぐという流れができる。双子の赤字は急速に解消され、2年前まで9・6%もあった失業率が14年10月には5・8%まで落ちている。化石燃料革命が、米国経済を押し上げる要素になっていることは間違いない。

 2つめは、IT革命が第2幕に入り、次世代ICT革命と呼ぶべき状況になったことだ。1990年代、本来は軍事目的で開発されたARPANETが、冷戦が終わり技術開放されて、インターネットとして登場した。それが今や次のステージ、つまりビッグデータの時代に入った。大量のデータ解析を、経済の生産性や産業の効率を高めるため戦略的に活用することが、米国の産業力に大きな追い風になっている。研究開発から、流通、生産に至るまで、ビッグデータの要素が組み込まれており、ICT革命が、米国の産業に活力を与えている。

 だが、果たして米国経済は盤石なのか。15年の潜在リスクシナリオとして一番注目すべきなのが、「リーマンショック再び」だと思う。金融危機が起こる可能性が高まり、臨界点に迫っているというのが私の見解だ。

 ICT革命の成果を吸収して、ものすごい勢いで付加価値を膨らませている分野はどこか。それは金融セクターである。このセクターに、ネットワークでつながる情報基盤が出来上がったことによって、ビジネスモデルが劇的に変わった。

 01年のエンロン崩壊、08年のリーマンショックを経て、今年はさらにリーマンショックから7年目になる。強欲なウォールストリートを縛るためオバマが10年に金融規制法を作ったが、懲りない人々がまた金融を肥大化させている。背景には世界中の超金融緩和があり、ジャブジャブになっているお金を相手に、新たな金融派生型商品を売り込むビジネスモデルが生まれ、ヘッジファンドやノンバンク、MMFといった「シャドーバンク」が跋扈している。今、世界中が超金融緩和の中にあって、行き場を失ったマネーに対して、ハイイールド債のようなリスクの高い、債権をまぜこぜにしたものが、高利息を謳って売り込まれている。

 14年10月末に米国はQE3を収束させて、金融引き締めの局面に入った。そうした状況下で、リスクの高い金融派生型商品の運命はどうなるのか。リーマンショックを経験しても一向に懲りていない。世界中が「みんなで渡れば怖くない」とばかりに、リフレ経済学、つまり、金融緩和して株価を上げて、やがてはみんなにも恩恵が回ってきますよという経済学の中にはまっている。アベノミクスとは、そのものずばりの政策だ。

危ない橋を渡って支えられた株価

 日本という国は、経済の基盤である技術と産業力を磨き、実体経済を大事にし、マネーゲームを是としない、という考え方で国家を形成してきた。しかし、いつのまにかウォールストリートの波に飲まれて、アベノミクスに拍手を送るようになった。

寺島実郎 14年12月の解散総選挙では、大メディアを中心に自公圧勝報道がなされているが、自民だけで310議席は堅いと言われていたのが、291議席しか取れなかった。小選挙区では選択肢がなかったが、比例区において、このまま自公圧勝では危ないと踏みとどまった結果が291という数字だ。

 投票率が52・7%だったということは、国民の半分は選挙に行かなかったということ。理由は、政治的無関心か、政治不信か、無力感だろう。問題は、比例区における自民党の得票率で、その数値は33・1%しかない。52・7%と33・1%を掛ければ17・4%にすぎない。有権者の2割に満たない人の支持を得ただけなのに、6割以上の議席を確保する。有権者の17%が支持したにすぎない党が、6割以上の議席を獲得するシステムに、国民が凍り付いてますます政治不信を深めている。しかも、税金を上げる一方、政治家は自分たちの身は切らず、ますます国民は政治不信、無力感を感じる局面にある。

 政権が安定し、アベノミクス万歳になりそうな局面だったが、選挙以降の株価は大きく下落している。理由を明かすと、選挙が終わるまでは年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が年金を株式市場に投入して日経平均1万7千円台を維持していたからだ。14年10月末の異次元金融緩和から5週間たったが、この間、外資が2・2兆円の買い越し、日本の法人機関投資家が0・4兆円の買い越し、日本人の個人投資家は3・1兆円の売り越しだから、常識的には株価は落ちるはずだが、年金を突っ込んで株価を支えていた。

 年金制度を維持するには、年利1・7%で運用しなければならないという。今は国債金利が0・5%程度だから、GPIFの立場で考えたら、リスクを取ってでも勝負に出るという気持ちも分からなくはない。しかし、その国債の価値をそこまで毀損したのは誰なのか。ムーディーズによる日本国債の格付けは、今や中国や韓国より下になった。日本のリスクを世界は見ている。あふれたお金の行き場がなくなり、「あなたの国の国債で運用するよりはましだよ」との誘いに乗り、苦し紛れに危うい賭けに突っ込んでいく。そのツケは、経済の流れに逆スピンがかかった時、一気に払わされるだろう。

エネルギーと食糧で産業構造の軸を

 こうした局面で企業ができることは、資産、人材、技術といった自社の経営資源を見つめ直して、どのようなプロジェクトに立ち向かい、本当の意味での実体経済を良くするかを考えることだ。そこでヒントになるのが前述の米国の話だ。

 日本経済の弱点は、相も変わらず食とエネルギーを海外に依存していること。この2つを外部に依存しないための戦略を着々と打たなければいけない。エネルギーで言えば、メタンハイドレートなどの海洋資源の開発があるし、食についても現在の海外からの購入分6兆4千億円を1兆円減らし、海外に1兆円輸出できたら、日本の産業構造の軸は安定する。このように、自身の虚弱性を補完していく戦略を果敢に打たなければいけない。

さらに、モノづくり国家を標榜するなら、自動車産業に過剰に依存せず、外貨を稼げる新しいプロダクトサイクルを生み出す。これが本当の意味での成長戦略の第3の矢だが、相も変わらず第1の矢と第2の矢を繰り返している。

 次世代ICT革命については、まさに今日本が取り組まなければいけないテーマだ。ICTファクターによって、産業の競争力を向上させ、情報技術革命の成果を次のステージに生かしていく。それはすべての企業に関係のあることで、ビッグデータの時代に自分の企業はどう生き延びるのかを真剣に模索していない企業は、一気に衰退していくだろう。

 アベノミクス万歳といった空気で、もっと財政出動しろ、景気浮揚しろと言っても、第3の矢に具体的なプロジェクトが見えないのが現状だ。それを現実に実行していくのが産業界であり、それをサポートする産業政策が必要だ。時代はもうそういうところに来ている。(談)

(文=本誌編集長/吉田 浩 写真=森モーリー鷹博)

 
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