媒体資料
経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

総選挙を終えてどうなるニッポン!?

新春特別座談会

 2014年12月に実施された衆院選は自公で326議席で、解散前とさして変わらぬ数字となった。とはいえ、衆院で3分の2以上の信任を得た安倍晋三政権。3年連続で国政選挙を3回戦い、連続勝利したため、長期政権説が早くも出始めている。しかし、一方でそう簡単に進まないのが永田町だとの声もある。それでは15年、果たして〝安倍丸〟はどのような舵取りをしていくのか。

 何が注目の施策として進んでいくものなのか。そこで、本誌では「公を生きる」の対談でお馴染の德川家広氏、「永田町ウォッチング」執筆陣の鈴木哲夫氏、山田厚俊氏の3氏による鼎談を総選挙後、開催した。題して「総選挙を終えて どうなるニッポン!?」。90分におよぶ議論から、永田町の深層をお届けする。

安倍首相は岸信介ではなく田中角栄

── 〝年の瀬総選挙〟は自公で326議席で3分の2を維持。また、投票率は戦後最低の52・66%を記録。あらためて、今回の解散総選挙をどう評価しますか。

鈴木哲夫

鈴木哲夫(すずき・てつお)
政治ジャーナリスト
1958年生まれ。フジテレビ政治部、日本BS放送報道局長などを経てフリー。20年以上にわたって永田町を取材、豊富な政治家人脈で永田町の人間ドラマを精力的に描く。テレビ・ラジオでコメンテーターとしても活躍。近著に『ブレる日本政治』(ベストセラーズ)、『政治報道のカラクリ』(イーストプレス社)など。

鈴木 何で選挙をやったのか、ますます分からなくなりました。自民党は4議席減らし、公明党が微増でした。選挙後、3分の2確保と報じられましたが、選挙前も3分の2はあったわけです。となるとこの選挙の意味とは、国民のための選挙ではなく、安倍首相が向こう4年間の衆議院任期を得るためのものだったということでしかありません。解散権に縛られずに済む、呪縛にとらわれないで自由に4年間を保証するんだと、そのための解散だと見ていいと思う。だからこれは「安倍首相の、安倍首相による、安倍首相のための解散」と呼ぶ人がいましたが、そのとおりだったということでしょう。

山田 同感です。アベノミクスの失敗隠しの解散という見方もありました。そのため、先に信任を得る前倒し解散だったという見方です。また、低投票率に関しては、ある世論調査でアベノミクスの評価を聞くと「評価しない」が一番多くて約4割、格差について問うと「広がった」が約4割。つまり、安倍政権に批判的な声が高いにもかかわらず、自民党に投票するという結果でした。今の政権はどうしようもないけど「変化より継続」を望んだ結果ということになります。

德川 今回の解散が打算による解散、自分の権力欲のために解散したと有権者に受け止められているとすれば、それ自体で支持率を下げる要因になります。これから4年間、巨大与党を背景にしてやりたいことをやれるかと言えば、そうではないでしょう。支持率や株価が下がった場合、政権運営は途端に難しくなると思います。今回の解散は自公で議席は増えたが、弱くなったのではないでしょうか。

山田厚俊

山田厚俊(やまだ・あつとし)
ジャーナリスト
1961年生まれ。建設業界紙、タウン紙記者を経て95年、元大阪読売社会部長の黒田清氏が代表を務める「黒田ジャーナル」で阪神・淡路大震災の取材に参加。その後、テレビ制作に携わり、週刊誌で活動を始める。現在、フリージャーナリストとして主に週刊誌、ビジネス誌で執筆。

鈴木 今回の解散総選挙のベースにあるのは、最終コーナーで憲法改正をやりたい、ここに向けての逆算したカレンダーがあると見ています。安倍首相は憲法改正に向けてひた走っているように見えます。仮に、アベノミクスによる経済の立て直しが最大の政治目標であれば、もっと違うやり方があったのではないでしょうか。経済政策は憲法改正へ支持を高めていくためのもののような気がします。

德川 黒田東彦日銀総裁による大型金融緩和、いわゆる〝黒田バズーカ〟をよく見ると、実は外的要因による効果でしかありません。13年4月の1回目はユーロ危機が再燃しそうだったのでユーロ圏の国債を大量購入、14年10月の2回目は米国で量的緩和(QE3)が終わって株価が下がった瞬間に行い、米国株が跳ね上がったのです。つまり、日本の景気とは関係がありませんでした。特に1回目には、安倍政権になる直前に始まっていた円安株高の基調が順調に続いていたので、金融緩和をさらに進める必要はなかったと思います。アベノミクスの第2の矢、財政出動は規模が小さく、しかも公共事業は人手不足で進まない、第3の矢の成長戦略は、実は実態がない。ところが株価は高いことに加えて原発再稼働に対して財界の期待が高い。それが追い風になっていたことは否めません。

山田 そういえば13年秋、安倍首相は第3の矢について周辺に対し「そんなもの必要がない。東京五輪開催があるから大丈夫」と言ったそうです。結局、最後は公共事業の拡大で乗り切ろうということでしょう。

德川 岸信介ではなく田中角栄、なんですね(笑)。

山田 なるほど。そうですね。

德川 バブル崩壊以降、日本の企業は変容してきました。正社員から契約社員、工場は海外に移し、国内の雇用がボロボロになりました。分配が悪化しているので消費が縮小していて成長が止まっている。例えば、国民の多くが終身雇用だと思っていれば、住宅ローンを組みますが、契約社員だと組めません。住宅購入をするかしないかで、一人頭の生涯消費は数千万円違ってくる。自動車で数百万円です。生涯消費が伸びれば雇用も伸びて、それが終身雇用を強化する。単純化すれば、そういう話です。それがなくなった結果の長期低迷なわけですから、金融緩和や、雇用をさらに流動化させる成長戦略では、どうしようもない。

地域主権は必ずしもバラ色ではない

德川家広

德川家広(とくがわ・いえひろ)
1965年東京都生まれ。政治経済評論家。翻訳家。徳川宗家19代目にあたる。慶応義塾大学卒業後、米ミシガン大大学院で経済学修士号を取得。国連食糧農業機関(FAO)ローマ本部、ヴェトナム・ハノイ支部に勤務後、米コロンビア大大学院で政治学修士号を取得。『自分を守る経済学』『日本政治の大転換』など著書、訳書多数。

── とは言え、アベノミクスの成否が安倍政権の命運を握っていると言って過言ではありません。

鈴木 今までのやり方を見ていると、中央省庁のヒモ付き予算で法律もそのままだったりしています。要は、予算も権限も霞が関です。昨年に引き続き、今年も地方創生がメーンテーマでしょう。道州制がいいとは言わないが、自治の仕組みを根本的に変えていかないと成り立たないと考えています。

德川 そのとおりですね。もう少し、痛みを伴った改革が必要でしょう。しかし、バッサリ切られるべき人たちが一番強いポジションにいるわけです。県庁や電力会社などの組織が、まさにそれに該当します。

山田 地方では自治体職員やJA職員の高給ぶりが際立っています。地方公務員と地方議員の削減は急務ですね。

鈴木 都道府県庁という行政組織は、3分の2は要らないかもしれませんね。

德川 そうですね。しかし、バッサリ切ると村が消えます。県でも消滅するところが出てくる。

鈴木 地域主権というのは、必ずしも地方にとってバラ色の未来ではない。権限と予算が地方に降りてきたら、地方が自立して何がやれるかが問題となってくる。竹下登内閣時の1988〜89年、ふるさと創生事業で各市町村に対し1億円を支給しました。その際、多くの自治体が自治省に電話して「どう使えばいいのか」と聞いたという。どんなに権限を移譲しても知恵も能力もない自治体がいかに多いかが分かります。地域主権を実行するということは、なくなっていく自治体ができる「地域間競争」だということを覚悟しなければならない。ここが語られていないことが問題だと思っています。

対談の様子德川 全国各地を講演で回ると、景色はどこも素晴らしいですし、海の幸や山の幸に恵まれているところがたくさんある。しかし、「ここは何もない」と地元の皆さんはおっしゃいます。危機感はあるけれどアイデアもないし、リスク・マネーもない。

鈴木 もちろん、観光資源や食材など地方は豊富ですが、地域主権には社会保障の仕組みなどの制度設計を組み替えて地域間競争がなくては成り立たない。この意識が地方には希薄なのではないでしょうか。

德川家広德川 高齢者が投票に行き、若者が投票しない結果、社会保障が手厚くなり、教育に関する公的支出が貧弱なままになったという問題もあります。その好例が、子どもの貧困率が高くなっている事実です。人口減に対する即効性のある施策は、貧困家庭の子どもの支援です。まだ生まれていない子どもについて何かするのではなく、既に生まれている子どもの生産性を上げるわけですね。例えば、全国に200万人いるシングルマザーに対して、子ども1人当たり毎年100万円給付する。教育水準が上がれば10年後、20年後の生産性の向上に直結します。財源は日銀がお札を刷るので賄えばよいでしょう。

山田 大賛成ですね。人口減少は喫緊の課題で、もっと国の施策として前面に打ち出すべきでしょう。シングルマザーでも未亡人、離婚女性、未婚女性で税制が違っています。例えば、「寡婦(夫)控除」の制度は、一部の自治体を除いて未婚女性は適用されていません。また、日本の堕胎は、統計上で年間約20万件。統計に含まれていない数もカウントすると約40万件ともいわれています。この子たちがちゃんと生まれるだけで、少子化問題はだいぶ緩和されるでしょう。単に、待機児童の解消とかを話し合うのではなく、根本的な施策に取り組まなければ、地域主権の前に労働人口も先細りとなります。

進次郎は〝ハンサムな小沢一郎〟になれるか

鈴木 今の子どもの問題もそうなんですが、どこまで政治が仕組みを作り、政策でカバーし、どこから先が自立なのか。「政治が何でもしてくれる」というのを変換しなければダメだと思う。

德川 労働行政と福祉行政、教育行政、産業行政、皆バラバラですね。これらをまとめたほうがいい。どんな職業が発生するのか、その職業に従事し生計を立てるにはどういう教育が必要か、その人の生涯所得から行って、辞めた後はどのようなケアが適切か、という具合です。つまり現在の霞が関には、ライフサイクルをまとめてカバーする役所が存在しない。もちろん、行政の区分けには効率面や政策実施の容易さなど、意味はあります。省庁にまたがる政策問題は、政治が先頭に立って取り組みませんと。

鈴木 まさに政治主導の必要性が説かれているわけですが、今の内閣で「特命大臣」がそれに当たりますよね。政治がある課題に対して横串を入れるわけですが、機能していませんよね。

山田 半年ほど前に、野田聖子総務会長(当時)と話す機会がありました。その時、人口減少対策を今後、どのようにしていけばいいかという議論になり、「例えば、会社でいうホールディングスを内閣府にすればいいじゃないか。人口減少という旗印のホールディングスにして、その下に財務省や厚労省、経産省が置かれる。各省庁の施策は、この内閣府の旗印に沿ったもので立案され、予算編成もされる」というアイデアが出ました。

鈴木 霞が関のホールディングス化って面白いですね。

── 第3の矢についてもっと聞きたい。今すぐ規制を外していいものは何でしょうか。

鈴木 テレビの規制は外すべきでしょう。総務省の認可事業、電波事業を完全自由化したらいい。インターネットがその自由化になってから、弊害も多いけど可能性も広がっています。

德川 もっと簡単な話で言えば全国規模のケーブルテレビ会社、日本版CNNや日本版HBO(米国のドラマ・チャンネル。上質のオリジナル作品を多数制作している)ができてほしい。と言うのも、地上波の東京キー局、地方局はともにCM収入に頼っています。ところが、ケーブル局だと課金方式です。コンテンツが無料で見られる方式のままで自由化すると、悪い方向に向かってしまう。健全化して成長を見込むなら課金で全国ネットワークチャンネルを作ることが望ましいと思います。

鈴木 私がテレビと言ったのは、規制にがんじがらめの世界で30余年過ごしてきたからで、同じように規制に縛られ、今なお護送船団方式の業界はほかにもあるはずです。それを毎年一業界ずつ規制を取っ払っていけば産業の活性化になり、成長の可能性を示すものとなりますね。

新春特別座談会── 最後に、15年政治でキーマンとなる人物は誰でしょうか。

德川 一番の注目は小泉親子ですね。あの進次郎氏が〝ハンサムな小沢一郎〟になれるのか(笑)。

鈴木 なってほしいですね(笑)。進次郎氏が自民党を割って出たら、例えば、河野太郎氏はついていくでしょう。永田町に激震が走りますね。

山田 二階俊博総務会長が気になります。今年9月、総裁選があるため、彼の一挙手一投足には要注目です。

鈴木 総裁選は谷垣禎一幹事長、石破茂地方創生担当相がどう動くか。私は石破氏が出馬すると見ていますが、果たしてどうなるか。9月に向け、党内政局が間違いなく起きる。

德川 二階氏をはじめ、根底にあるキーワードは「中国」です。隣国とどのように付き合っていくのか。そのパイプラインとしても、二階氏の動静には注目したいですね。

(司会=本誌編集長/吉田浩 写真=佐藤元樹)

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界ウェブトップへ戻る