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時価総額は大手並み 小野薬品工業のオプジーボの可能性とリスク

ニュースレポート

 日本の中堅医薬品メーカーである小野薬品工業が開発した「オプジーボ」が、大きな注目を集めている。がん治療の概念をガラリと変えてしまう可能性を持つ新薬は、業界全体に大きなうねりをもたらすかもしれない。

小野薬品独特の開発姿勢が生んだ画期的な新薬オプジーボ

 2014年、世界の製薬業界を席巻した画期的な新薬が、「免疫チェックポイント阻害剤」と呼ばれる抗がん剤だ。その中でも最も有望視されているのが、小野薬品工業が開発し、14年9月に世界に先駆けて日本で製品化した「オプジーボ」(一般名=ニボルマブ)である。

相良 暁

相良 暁・小野薬品工業社長(Photo=時事)

 人体にもともと備わっている免疫の力を100%引き出せば、抗がん剤という毒物を体内に入れるより、ずっと効果的にがん細胞に対抗できるはず。そんな考えに基づく免疫療法は、がんワクチンや細胞治療、果ては根拠不明の健康食品までさまざまあるが、これまでのところ、臨床試験による科学的な検証をクリアし、世界の規制当局の認可を得たケースはほとんどない。

 免疫チェックポイント阻害剤とは、ごく簡単に説明すれば、免疫あるいはがん細胞の表面にある特定の分子に作用し、免疫ががんをウイルスのような異物として認識・攻撃するよう仕向けるという、これまでにないタイプの抗がん剤である。

 ここ数年、がん関連の学会で発表された臨床試験の結果は、どれもセンセーショナルなものだった。白人に多い皮膚がん(悪性黒色腫)を筆頭に、肺がんや腎臓がん、血液がんの一種であるホジキンリンパ腫など、多種多様ながんに対し、劇的な延命効果を示したのだ。

 がん治療の概念を大きく変えてしまう可能性を持った免疫チェックポイント阻害剤を、日本の中堅製薬企業が製品化にまでこぎ着けた。世界の製薬業界の耳目が、小野薬品に集まっているのは、ごく自然なことだろう。

 1717年創業、300周年の節目を2年後に迎える同社は、「化合物オリエント」と称する独特の開発哲学で一目置かれる存在だ。

 製薬会社の多くは、ある特定の疾患領域に狙いを絞り、研究開発投資を集中投下するのが常である。だが小野薬品の場合は、自社研究員が見いだした化合物が、何かの病気の治療に役立てられないかという発想で研究をスタートさせる、独特な文化を保ってきた。

 こうした開発姿勢は、同社に数々のヒット新薬をもたらしたものの、2000年代に入ると、自社研究所が生み出した新製品は途絶え、売り上げ成長という意味では停滞期に入る。

 医薬品ビジネスは、特許が切れると安価なジェネリック(後発医薬品)が参入するため、市場を独占できる新薬こそが成長の源泉だ。だが小野薬品の場合、一時は特許期間中の新薬が売り上げ構成比で2割程度という状況に甘んじ、日本の製薬企業の中でも、とりわけ〝冴えない〟中堅メーカーとしてしか、認知されないようになっていった。こうした不名誉な評価を覆したのがオプジーボである。

 京都大学の本庶佑教授とのつながりが、「PD­–1」という免疫チェックポイントに対する抗体医薬の創出につながったが、実用化には、創薬標的の発見から、20年以上を費やしている。

 「小野薬品の企業価値は、圧倒的にオプジーボ」(証券アナリスト)というのが、証券業界の共通認識だ。

小野薬品のオプジーボ 世界中の製薬企業から垂涎の的に

 今のところ、悪性黒色腫という日本ではあまり患者が多くないとされるマイナーながんにしか使えないが、肺がんや胃がん、腎臓がんといった、より患者数の多いがんを対象とした臨床試験が後期段階にある。

 世界最大の医薬品市場で、薬価を企業が自由に設定できる米国でも、提携する世界大手の米ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)を通じて、14年12月に、悪性黒色腫治療薬として承認を勝ち取った。より患者の多い、肺がん治療薬としても、食品医薬品局(FDA)の認可が得られる見通しだ。

 臨床試験で複数経路の免疫チェックポイントを同時に塞ぐことにより、より強い腫瘍縮小効果が得られることが示唆されており、従来型の抗がん剤などとの組み合わせも期待できる。「免疫チェックポイント阻害剤を持たない製薬企業は、がん分野で戦うのは難しくなるかもしれない」(別の証券アナリスト)と言われる理由もそこにある。

 免疫チェックポイント阻害剤をめぐる開発競争は、この1年で一気に加速し、プレーヤーは小野薬品、BMSを含む数グループに収斂されている。オプジーボと同種のPD–1を標的とする抗体医薬は、小野薬品と米メルク(同MSD)が、PD–1に対応する免疫チェックポイント因子「PD–L1」に対する抗体医薬は、スイス大手のロシュ(日本では子会社の中外製薬)と、英アストラゼネカが、といった具合だ。

 オプジーボの有望なデータが初めて臨床試験で示されたのは、13年11月。過去3年、小野薬品の株価は4千円程度で推移していたが、ここ1年で、1万円を超える水準まで急騰しており、時価総額も1兆円を超えた。これは、日本の製薬大手3社の一角である、第一三共に並ぶ水準だ。

 有望新薬オプジーボの存在は、業績の面でも株価の面でも成長ドライバーとなっており、世界中の製薬企業の垂涎の的だ。それゆえに、同薬を持つ小野薬品は、ここへきて買収リスクが指摘されている。

(文=ジャーナリスト/池田和利)

オプジーボは夢の新薬か亡国の劇薬か

 
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