中国経済の予想は弱気が大勢を占める
2015年のグローバル経済について、楽観論者も悲観論者も今後、不安定な展開になることに関しては共通しているようだ。
グローバルリスクといえば、ウクライナ問題とイスラム国などの地政学的なリスクに加え、欧州の債務問題と中国経済の減速も心配されている。
米国1国が世界経済をけん引する時代が終わり、中国経済に対する期待とその実力についてきちんと考察する必要がある。
15年の中国経済について中国国内の専門家の多くは7%程度の成長になるだろうと弱気の予測を示している。
唯一の楽観論者は世界銀行のチーフエコノミストを務めた北京大学の林毅夫教授(経済学)である。同教授は、中国経済は向こう20年間、年平均8%の成長を維持できると強気であるが、その根拠は明らかではない。
それに対して、海外の中国専門家の多くは中国経済の成り行きについて悲観視している。
米国のアジア研究協会(AAS)が最近開催したシンポジウムでは、米国人研究者の多くは中国経済が高成長に戻ることは不可能であり、中国経済の実力から見て、せいぜい4%程度の成長になると展望している。
最近の原油安はグローバル政治のパワーゲームの結果だが、中国の景気減速とも無関係ではない。
ただし、景気減速は経済運営の結果である。中国のリベラルの経済学者の多くは、今日の景気減速は、胡錦濤政権が実施した4兆元(当時のレートで約56兆円)の財政出動の副作用だと指摘する。
習近平政権下の中国経済は「リコノミクス」から「新常態」へ
習近平政権は胡錦濤政権からたくさんの負の遺産を引き継いだ。
胡錦濤政権において中国社会は極端に不安定化するようになった。その不安定性を克服するために、胡錦濤前国家主席は「和諧社会」作り(調和のとれた社会)を呼び掛けた。「和諧社会」作りは胡錦濤が示した国づくりの方向だが、それを実現するためのミッションは全く示されず、結果的に「和諧社会」作りは絵に描いた餅に終わった。
習近平政権は景気を押し上げる財源を持っておらず、景気減速を前提に経済運営していかざるを得ない。
李克強首相は7%成長を肯定的に受け入れ、構造転換をきちんと図っていくと就任当初から強調した。メディアではリコノミクスと呼ばれているが、実際の中国経済が減速する中、構造転換は遅々として進んでいない。
中国では、構造転換を邪魔しているのは国有企業などの既得権益集団である。構造転換を進めようとする李克強は国有企業の人事権を握っていない。その結果、リコノミクスは一時期中国国内で流行語だったが、14年下期に入りまるで死語のようになっている。
今は、リコノミクスに代わって「新常態」(new normal)という造語が流行っている。
新常態はいかにもポジティブな言葉のように聞こえるが、7%成長が常態化していくという意味である。繰り返しになるが、30年以上にわたり年平均2桁成長を続けてきた中国経済は7%成長に減速しても自然なことである。問題はいかに7%成長を持続しながら構造転換を図っていくかにある。
習近平による中国経済の新時代は到来するか
あらためて習近平政権誕生の意味を考えてみたい。
ポスト鄧小平の歴代指導者(胡耀邦、趙紫陽、江沢民と胡錦濤)のいずれも鄧小平によって指名された人物だった。唯一、習近平は鄧小平によって指名されたのではなく、党の長老の間の人気によって国家主席に選ばれトップとなった。
習近平は鄧小平路線を踏襲する義務などない。むしろ鄧小平路線は既に行き詰ったので、習近平政権の誕生は鄧小平時代の終焉を意味し、中国を新時代に導くことが義務付けられている。
鄧小平路線は高成長を成し遂げたが、幹部の腐敗が横行し格差も信じられないほど拡大した。一部の者が先に豊かになるのを奨励する「先富論」を打ち出したが、大多数がボトムアップされず、格差が拡大し、社会不安の原因になっている。
習近平は反腐敗キャンペーンを展開し国民の支持を得ている。むろん、反腐敗を強化するだけで中国社会が安定するわけではない。腐敗した幹部を摘発するだけでは不十分で、幹部が腐敗しないような制度を創る必要がある。
制度上、習近平の任期は残り8年程度だが、長いようで短い。習近平国家主席が遂げないといけない改革は山ほどあるからである。それらにプライオリティをつけて、順番に改革していかなければならない。
15年は習近平改革が本格化する改革元年になるかもしれない。今年から中央政府帰属の国有企業幹部の年収は当該企業従業員の平均年収の8倍以内に抑制される規定が発表された。
このような大胆な改革はさらなる国民の支持を得ることになるだろう。ただし、この改革の成果と効果を常態化するためには、国民による監督・監視が不可欠である。
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