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「社会に必要なロボットを世の中に普及させていきたい」--田中一正(大和ハウス工業 理事)

大和ハウス工業 理事 田中一正氏

 大和ハウス工業では、サイバーダインのロボットスーツ「HAL」をはじめ、さまざまなロボットの販売を手掛けている。住宅メーカーとロボットの組み合わせは一見、違和感もあるが、将来の住居のあり方としてロボットのある暮らしを提案する。大和ハウスのロボット事業について、ロボット事業推進室長の田中一正氏に聞いた。

大和ハウスがロボット事業に参入した背景

田中一正

田中一正(たなか・かずまさ)
1952年生まれ、滋賀県出身。75年立命館大学理工学部卒業、大和ハウス工業株式会社入社。東日本シルバーエイジ研究所長、西日本シルバーエイジ研究所長、総合技術研究所副所長などを歴任。2008年にロボット事業を立ち上げ、現在、理事、ヒューマン・ケア事業推進部長兼ロボット事業推進室長を務める。

 大和ハウス工業がロボット事業を手掛ける理由は、超高齢社会に対応するためである。事業化に尽力した理事でロボット事業推進室長の田中一正氏は次のように語る。

 「私どもは住宅メーカーですので、大和ハウスの住宅を建てていただいたお客さまが例えば高齢になっても、あるいは障害をお持ちになっても、大和ハウスの住宅にずっと住み続けていただく支援ができないかと思っていました。いわゆる生活支援、障害者および高齢者の自立支援にロボットが使えるのではないかと思っていました」

 また、田中氏は、過去に大和ハウスのシルバーエイジ研究所に在籍し、高齢者の住まい方を研究していた。日本の超高齢社会の課題をロボットにより解決できるのではないかという発想で、ロボットの事業化に取り組み始めた。

 大和ハウスでは、次世代商品やサービスの開発にあたって、樋口武男会長が「アスフカケツノ(明日の人・街・暮らしに不可欠)」というキーワードを掲げている。ロボットの事業化に際してもホビー的、エンターテインメント的なものではなく、「本当に世の中のために必要な、人のためになるものを普及させていきたい」(田中氏)という考えが貫かれている。

 直接のきっかけはサイバーダインのロボットスーツ「HAL(ハル)」だという。田中氏が総合技術研究所で産学連携に取り組んでいた時にサイバーダイン社長の山海嘉之氏と出会った。

ロボットスーツ「HAL」

ロボットスーツ「HAL」

 「HALを見て本当に人のためになり、社会に必要なロボットだと思いました。なんとかこれを普及させていきたい、世の中に出していきたいと思いました」と田中氏は語る。

 田中氏が中心となって、大和ハウスは2008年1月にロボット事業推進室を立ち上げ、事業開始した。まずHALについて09年4月から全国販売を開始した。続いて10年11月にメンタルコミットメントロボット「パロ」、12年10月に狭小空間点検ロボット「moogle(モーグル)」、13年4月に自動排泄処理ロボット「マインレット爽」の発売を開始している。

 HALは人が動こうとする際に発生する微弱な生体電位信号を身体に取り付けたセンサで感知し、各関節のパワーユニットを稼働させ装着者の動作をアシストする。動作がしにくくなっている高齢者や障害者の自立動作を支援するもので、これにより健康寿命を延ばすことができる。大和ハウスでは「HAL福祉用」の下肢タイプを全国の医療機関や介護施設向けに展開、現在、約170の施設に導入されている。

メンタルコミットメントロボット「パロ」

メンタルコミットメントロボット「パロ」

 パロはアザラシ型ロボットで、アニマルセラピーと同様の効果を実現する。産業総合技術研究所 知能システム研究部門 主任研究員の柴田崇徳氏が開発した。全身のセンサにより人が触れると反応し、生き物らしい動作をする。また、本物のアザラシを元に作った鳴き声を発する。さらに人工知能により自分の名前を認識し、呼ばれると反応するようになる。本物のペットが飼えない方のパートナーとして導入されるほか、精神的ケアのツールとして医療・介護・福祉施設で導入され、認知症の症状の改善に効果が出ているという。米国でもFDA(食品医薬品局)の承認をとり、医療機器になっている。全世界で3500体の導入実績がある。

自動排泄処理ロボット「マインレット爽」

自動排泄処理ロボット「マインレット爽」

 マインレット爽は、要介護4ないし5の寝たきりの人が対象の自動排泄処理ロボットで、エヌウィックが開発した。内蔵センサが排尿、排便を感知し排泄と同時に排泄物を吸引し、温水で局部を洗浄し除湿までを自動で行う。寝たきりの人のQOL(生活の質)を向上させ、介護者の負担も軽減できる。介護保険「貸与」品目の対象機器となっている。

 moogleは、住宅の床下などの狭小空間を点検するもので、大和ハウスが開発した。「HALやパロは大学やベンチャーの凄い技術を世の中に出していきたいと思い、出資や販売をしていますが、moogleは現場からのニーズ」だという。住宅はだいたい5年おきに定期的に床下を点検するが、作業員が床下に潜って点検することは負担が大きい。その負担を軽減するニーズで開発を始めたという。

 販売先は住宅メーカーやリフォーム業者、シロアリ駆除の業者で、住宅メーカーには大和ハウスの競合も含まれるが、ロボットで点検することを業界の標準にしたいという想いで、競合への導入も進めている。

住宅メーカーならではのロボット事業

田中一正 ロボット事業の拡大を進めていくが、その方向性について、田中氏は次のように語る。

 「3つ考えていて、ひとつは今やっているような障害者・高齢者の自立動作を支援するもの。2つめが少子高齢社会において、女性や高齢者の社会進出を支援していくもので、moogleはそれに入ると思います。3つめは住宅メーカーですので、居住空間の中に、ロボット技術だけでなく、ICT技術まで含め、健康管理から介護支援、見守りのための技術を導入した住宅を作ってみたいと思っています」

 住宅そのものが1つのロボットのようになり、人々の健康を管理する可能性も出てくる。

 「いずれはロボットと共生する時代が来ると思います。今は例えばテレビや冷蔵庫、エアコンといった家電は当たり前にわれわれの周りにありますけど、ロボットもわれわれの生活の中で特に意識せずに当たり前にあって、人と共生していく時代が来ると思います。今はロボットが出始めたところで、ロボットを使いこなさなければいけない状況ですが、簡単に使えるようになればいいと思います」

狭小空間点検ロボット「moogle」

狭小空間点検ロボット「moogle」

 今後、ロボット事業をビジネスとして軌道に乗せるためにはまず普及が重要だという。

 「普及させないと、コストも下がらないですし、改善・改良点も明確にフィードバックできません。まず世の中に出していくことが一番で、現場のいろいろなニーズや改善・改良点をメーカーにフィードバックするサイクルをやっています」

 田中氏自身、同事業のスポークスマンとして、さまざまな場面で講演する機会もあるが、普及という点でまだまだロボットのことを知らないという反応が強いという。

「moogle」の作業風景

「moogle」の作業風景

 「HALにしても、パロにしても、ほかの商品でも、こういったものがあることを知らない、見たことがないという反応が多いです。だから、私の最初の役割は知ってもらうことです」

 このため、大和ハウスでは、さまざまな学会やイベントで展示PRに努めている。まずは学会などで専門家に、次の段階では一般の方々に知ってもらう。そのための活動として、昨年5月には神奈川県の「さがみロボット産業特区」にある大和ハウスの厚木の住宅展示場に生活支援ロボットの体験施設をオープンした。大和ハウスの製品だけでなく他社製品も含め多くのロボットを置いたロボットハウスを展示し、ロボットと共生する暮らしを提示している。まずはロボットを知ってもらい、触れてもらうことを、普及の第一歩としている。

 
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