中国では、ここ1年、不動産価格が毎月、下落している。ついに“不動産バブル”が崩壊したと言っても過言ではない。そこで、人々の関心は株式投資へ向かった。ただ、中国経済の先行きは決して明るくない。そのため、“株バブル”となる危険性をはらむ。
さて、昨年5月以来、習近平政権は「新常態」(ニュー・ノーマル)を掲げて、経済減速を容認する方針を打ち出した。「新常態」とは、大ざっぱに言うと、経済を自然に任せる(市場に任せる)という意味だろう。
昨年、民間会社がデフォルト(債務不履行)に陥った際、中国政府は救済した。ところが、今年に入ると一転して、国有企業、河北省保定市の保定天威集団有限公司(中国南方工業集団公司〔=中国兵器装備集団公司〕の子会社)のデフォルトを救っていない。
また、中央企業(国有資産監督管理委員会が管理・監督)、中国第二重型機械集団公司(四川省徳陽市)もデフォルトするハメに陥った。今後、民間企業はもとより、国有企業や中央企業までに至るまで、多くの企業でデフォルトする公算が大きい。
中国の預金・貸出金利は景気を映す鏡
周知のように、中国政府はしばしば数字を捏造するので、多くの数字はあてにならない。しかし、景気判断するにあたり、信用できる数字がある。銀行の預金金利と貸出金利である。これを見れば、手に取るように景気動向がわかるだろう。
最近、中国人民銀行(中央銀行)が半年で、3度(昨年11月、今年3月と5月)、利下げを行っている。1年定期預金利は3.00→2.75→2.50%と下がっている。また、1年以上5年までの貸出金利は、6.00→5.75→5.5%と下落した。この最後(今年5月)の「預金金利2.50%、貸出金利5.5%」はどんな意味を持つのだろうか。
ここで、2008年9月15日に起きた「リーマンショック」後の状況を振り返ってみよう。
中国政府は、この危機に際して、同年9月(16日)、10月(2回)、11月、12月(23日)と矢継ぎ早に5回も利下げを実行した。景気の落ち込みを回避しようという強い意図が読み取れる。
わずか3ヶ月あまりで、1年定期預金金利が、4.14〔据え置き〕→3.87→3.60→2.52→2.25%と下降した。また、1年以上3年まで(当時)の貸出金利は、7.29→7.02→6.75→5.67→5.4%と下落している。
2008年12月の「預金金利2.25%、貸出金利5.4%」は、その後、2010年10月まで続く。この預金・貸出金利は、2007年以降、現在に至るまでの最低金利である。現在の「預金金利2.50%、貸出金利5.5%」は、その次に低い。
けれども、貸出金利の場合、2008年12月、1年~3年が5.4%、3年~5年が5.76%である。そうすると、見方によっては、2015年5月の貸出金利こそが、2007年以降、実質的に最低レベルと言えなくもない。
この数字が、中国の実体経済を如実に物語るのではないだろうか。中国経済はすでに「未知の危険水域」に入ったと考えられる。
景気浮揚策はAIIBと「一帯一路」
実は、胡錦濤政権は「リーマンショック」後、4兆元とも40兆元とも言われる財政出動を行い、見事なV字回復を遂げた(その結果、財政赤字が大幅に膨らんだことは言うまでもない)。
習近平政権は、胡政権とは違って、財政出動をしない。巨額の財政赤字を抱えるため、おそらく、したくても、財政出動できないのだろう。他方、本来、景気が悪い時には、政府を含めて消費に励めば良い。だが、習政権は「贅沢禁止令」を布告し、かえって、国内消費を冷え込ませている。
ところで、かつて江沢民政権や胡錦濤政権は、なぜ「保8」(8%の経済成長)を固執していたのか。それは、毎年、新規労働力参入者(1000万~1500万人)に職を与えるためである。そうしないと社会不安が増大するだろう。
中国では、毎年20万件~30万件「集団的騒乱事件」が起きている。今後、「騒乱事件」激増は必至と見られる。国内治安費が国防費を上回っているゆえんだろう。
習近平政権が、「新常態」のままで経済政策に手をこまねいていれば、ますます社会不安が増大する。しかし、(不動産投資を含め)内需の喚起は難しい。
そこで、習政権は海外に活路を見出そうとした。その一つが、アジアインフラ投資銀行である(AIIBには57ヶ国が創立メンバーとして参加することになったが、我が国と米国は見送った)。もう一つが「一帯一路」の(陸と海の)「新シルクロード」構想である。これらが順調に進むか否かは、ひょっとして、日米の関わり方次第かもしれない。
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