実力伯仲の女子サッカー 米国に敗れたなでしこジャパン
なでしこジャパン(サッカー日本女子代表)の連覇なるか、に注目が集まった女子W杯カナダ大会。なでしこは決勝で米国に2対5と大敗したものの、その戦いぶりは見事だった。
女子サッカーにおいて、オリンピックとW杯は2大大会だが、直近3大会でのなでしこの成績は優勝(ドイツW杯)、準優勝(ロンドン五輪)、準優勝(カナダW杯)と非の打ち所がない。
今回も1次リーグのスイス戦を皮切りに、カメルーン戦、エクアドル戦、決勝トーナメント1回戦のオランダ戦、準々決勝のオーストラリア戦、準決勝のイングランド戦と、すべて1点差を制して勝ち上がってきた。
世界の女子サッカーの実力が伯仲している現在、1点差のゲームをモノにできるのはチームに底力が備わっている証拠である。
それでも、五輪王者の壁は厚かった。なでしこは、いきなり開始16分で4点を奪われた。米国の息をもつかせぬ猛攻の前に為す術がなかった。
前半3分と5分の失点は、いずれもセットプレーによるもの。低いクロスをMFカーライ・ロイドに決められた。
なでしこの平均身長が163・5センチなのに対し、米国は169・3センチ。米国は高さをいかし、ハイボールを入れてくるかと思われた。
ところが、彼女たちが選択したのはグラウンダーのボール。なでしこにとっては虚を突かれたかたちとなった。
これで浮き足立つなというほうが無理である。3点目はDF岩清水梓のクリアミスをMFローレン・ホリデーに拾われ、4点目はGK海堀あゆみが飛び出していたところをロイドに狙われた。
ロイドは3得点。決勝でのハットトリックは女子W杯史上、初めてだった。
それでも諦めないのが、なでしこの真骨頂だ。0対4から2点を返し、もしやの期待を抱かせたが、後半9分の失点で万事休した。
振り返れば4年前の戴冠は無欲がもたらしたものだった。「あれよあれよという間に優勝していた感じでした」と佐々木則夫監督。
その翌年のロンドン五輪でもなでしこは決勝に進出し、追う立場から追われる立場になった。
だから大会前、佐々木は自らに言い聞かせるように、こう語ったのだ。
「前回優勝したからといって“チャンピオンでござい”なんてやっていたら、確実に足をすくわれます。目の前の相手に対し、必死になって戦うよりほかに、連覇への道はないと思っています」
なでしこに学び個から組織を活かすチームに進化した米国
欧米の強豪と比較して、なでしこが上回っているのは緻密な戦術とコレクティブ(集団的)な組織力である。
それゆえ、前回優勝した際には「走ってパスをつなぐ“女性版バルセロナ”のようなチーム」と称えられたのである。
キャプテンマークを澤穂希から受け継いだ宮間あやは語っていた。
「フィジカルの強さは“決定的な勝利の要因にならない”けれども、フィジカルの弱さが“負ける要因にはなる”。ある程度、フィジカルのトレーニングは必要です。だけど、それによって勝つのではなく、違う点で勝負をすることが大事だと思っています」
これは的を射た指摘だった。宮間は日本と米国の間に横たわるのは「違いであって差ではない」とも語っていた。
ところが今回のW杯、米国は持ち前のパワーとスピードに加え、なでしこがおはこにしていた組織力を重視し、磨きをかけてきた。
米国の顔といえば、これまではサッカー女子代表史上最多得点記録を持つFWアビー・ワンバックだった。
彼女はロンドン五輪でも5ゴールを記録して、米国の金メダル獲得に貢献。その年のFIFA女子最優秀選手賞を受賞した。
そのワンバックが、今回はサブの役割を担った。決勝の日本戦は後半34分からの出場だった。
米国はワンバックがいなくても勝てるチームを目指し、それに成功した。
個の力から組織力へ――。米国がなでしこの影響を受けたのは言うまでもない。
なでしこジャパンがさらなる進化を遂げるには
その意味で近年のなでしこの台頭は、女子サッカーにイノベーションをもたらすものだった。
だが、先行者が利益を得られる期間は限られている。1次リーグの3試合、すべてが接戦だったことでも分かるように、世界ランキング4位のなでしこといえども、もはや楽に勝てる相手はいない。
世界各国の実力が急接近する中、工夫なき継続は、後退にすぎない。さらなる進化をとげるには、今以上のイノベーションが求められる。
果たして来年のリオデジャネイロ五輪で、なでしこは、世界を相手にどんな“違い”を見せられるのか。
(にのみや・せいじゅん)1960年愛媛県生まれ。スポーツ紙、流通紙記者を経て、スポーツジャーナリストとして独立。『勝者の思考法』『スポーツ名勝負物語』『天才たちのプロ野球』『プロ野球の職人たち』『プロ野球「衝撃の昭和史」』など著書多数。HP「スポーツコミュニケーションズ」が連日更新中。最新刊は『広島カープ最強のベストナイン』。
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