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経産省の電炉再編要請を突っぱねる鉄鋼業界

ニュースレポート

「産業競争力強化法第50条に基づく調査の活用も積極的に検討する」——。経済産業省が6月中旬にまとめた「金属素材競争力強化プラン」が波紋を呼んでいる。ターゲットは普通鋼電炉業界。果たして官主導の業界再編は進むのか。 文=ジャーナリスト/山下 勝

経産省が望む電炉再編への壁①鉄鋼業界のファンドアレルギー

 普通鋼電炉各社の主要生産品である建設用鋼材は先細りが確実で、その上、電気料金の引き上げなどの影響で廃業や拠点の統廃合が相次いでいる。それでも、依然として中堅企業を中心に約30社がひしめく。このままでは共倒れが避けられないと、統合・合併による規模拡大で競争力を高め、生き残りを図らせることを経産省は目指している。

 これに真っ向から反旗を翻したのが鉄鋼業界。日本鉄鋼連盟の柿木厚司会長(JFEスチール社長)がすぐさま、「そこだけが大きく取り上げられ、大変遺憾。競争力の維持、向上にどのような選択肢を取るのかは、個社の判断だ」と不快感を示すなど、業界を挙げて猛反発した。

 特に盟主である新日鉄住金は共英製鋼や大阪製鉄などに出資するなど、グループ内に多数の普通鋼電炉を抱えており、経産省では内心、新日鉄住金が再編を主導すべきだと考えている。

 しかも、ライバルのJFEスチールは東日本大震災を契機に、傘下の普通鋼電炉を集約している。だが、新日鉄住金の幹部は「当社と電炉とでは生産しているものが違う。緩やかな関係で良い」と語り、グループ内での統合・再編には極めて消極的。経産省の意向を一瞥にもしていない。

 そもそも、普通鋼電炉の再編は今に始まった話ではない。2007年には旧新日本製鉄系の大阪製鉄が、三井物産系の東京鋼鉄を完全子会社化することによる再編を計画。ところが、東京鋼鉄の大株主の外資系投資ファンドが「株式交換比率が低過ぎる」として、反対を表明。これに個人株主の多くが賛同し、株主総会で否決された。これにより両社の経営統合は白紙となり、いまだに2社はそのままの形で存続している。

 当時は「ハゲタカ」とも呼ばれた外資系投資ファンドによる株の買い占めが盛んで、鉄鋼メーカーは相次いで買収防衛策を導入。ファンドに対するアレルギーが鉄鋼企業の経営者や社員に完全に刷り込まれた。今また、業界再編が高らかに叫ばれれば、それによって株価上昇や合併の際のプレミアムを期待するファンドに株を買い占められるのは明らか。ファンドアレルギー体質となった鉄鋼会社にとって、それは悪夢の再来でもある。

経産省が望む電炉再編への壁②公取委へのアレルギー

 もう1つ、業界にとって頭の痛い存在が公正取引委員会だ。09年に共英製鋼と東京鉄鋼が経営統合を正式に決定。しかし、そのわずか半年後に断念するに至った。公取委が事実上、「ノー」を突き付けたためだ。

 昔から鉄鋼業界と公取委が「不倶戴天の敵」なのは有名な話。旧新日本製鉄初代社長の稲山嘉寛氏が「ミスターカルテル」と呼ばれたように、鉄鋼業界と公取委は何十年もの間、緊張関係が続いている。

 00年以降の旧NKKと旧川崎製鉄の経営統合や、旧新日鉄と旧住友金属工業の合併などは世間の注目も大きく、公取委も認めてきてはいるが、より内需に立脚している普通鋼電炉に対しては厳しいスタンスを示している。電炉各社にとっては、せっかく一緒になろうという機運が高まっても、また公取委に邪魔されないか、気が気ではない。

 そこに来て、本来なら業界を支えてくれるはずの経産省が「産業競争力強化法50条」という強権発動までして、再編を強要してきたのだからたまらない。業界を挙げて猛反発するのも当然の成り行きだ。

経産省と鉄鋼業界で広がる温度差

 経産省では、同じように将来の先細りが懸念されている石油元売りや石油化学業界などに50条を適用し、業界再編を促している。中でも石油元売りは再編機運が高まり、7月末の出光興産と昭和シェル石油の合併決定まで発展したかに見える。経産省にとっては、普通鋼電炉でも同様の実績を上げようという思惑もあっただろう。

 しかし、今般の石油元売りの再編は50条が決定的な役割を果たしたわけではない。最も大きいのは世界的な原油安の進行だ。オイルメジャーの一角のロイヤル・ダッチ・シェルが石油ビジネスからガスビジネスへと大きく舵を切り、巨額のM&Aを断行。その代わりに、日本の昭和シェル石油の持ち株を売却処分しようと計画。その売却先として出光興産が名乗りを上げたまでだ。

 こうした背景もあって、経産省の態度もトーンダウン。金属素材競争力強化プランの強硬な記述とは裏腹に、現在は「再編はあくまで企業の自主的な判断によるものであり、それを押しつけるつもりは全くない」と無難なコメントに終始している。

 とはいえ、経産省の認識は大きく変わっていない。このまま中堅・中小規模の電炉が林立したまま、国際競争力を失っていった場合、中国や韓国などの巨大な鉄鋼メーカーがいつ日本国内に輸出攻勢をかけてくるか分からない。既に中韓メーカーと日本の電炉は、その規模で彼我の差にある。今のところは品質やデリバリーの面で勝ち目がある上、円安で守られており、心配する必要はないが、建設用鋼材は自動車用鋼材などに比べ、品質面で差がつきにくく、いつ中韓勢に追い付かれるかも分からない。

 「余裕がある今のうちに手を打ったほうが良い」というのが官民共通の思いだが、そこに至るまでの温度差は官民でとてつもなく広がっている。

 
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