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上場に成功するも課題山積の日本郵政

ニュースレポート

株式上場を果たした日本郵政の初値は、予想を大きく上回る快調なスタートとなった。ひとまず市場から歓迎ムードで迎えられた格好だが、グループ3社の成長性、政治介入の可能性等、不安要素が多く、先行きは楽観できないのが現実だ。 文=ジャーナリスト/大森哲也

巨額ののれん代が日本郵便の足かせに

20151201REPORT_YUSEI_YUBIN_YUCHO 3人が次々に新規上場記念の鐘を打ち鳴らした。11月4日、東京証券取引所で行われた日本郵政グループの株式上場を記念するセレモニー。鐘を打ち鳴らしたのは親会社の日本郵政、そして、金融子会社のゆうちょ銀行、かんぽ生命の各トップであり、これによって、前代未聞の3社の同時親子上場が実現した。

 11月4日の初値は売り出し価格を大幅に上回った。民営化銘柄の上場としては、まずは大成功を収めたと言っていい。その秘訣は、売り出し価格の低め設定だった。それをベースにしたPBR(純資産株価倍率)は日本郵政で0・4倍と、東証上場銘柄の中にあっては相当に低いレベルに抑えられた。これにより、政府保有の日本郵政株式の売却益もおのずと限られたものになったため、一部政界からは「もっと高い価格設定でよかったのではないか」(自民党議員)という批判も出たが、それも株式上場が成功したからこそだ。

 もちろん、今回の上場を日本郵政など当事者が喜んでいることは間違いないが、それ以上に恩恵を被ったのが上場主幹事団に名を連ねた証券各社である。この売り出しを通じて、新規口座が大幅に拡大したからだ。「この間、新規口座数は通常の倍以上になった」(準大手証券)といった声が証券各社から挙がっている。結果として、「日本郵政グループの上場を契機に、貯蓄から投資の流れをさらに拡大させたい」(大手証券役員)という勇ましい発言まで飛び出している。

 だが、ある証券会社の市場担当者はこう語る。

 「上場の成功要因が割安感のある条件設定だったということは、今後、日本郵政3社の株価がある程度まで上昇すれば、さらに値上がりしたり、高値をキープしたりするためには新たな材料が必要になる」

 と言うのも、日本郵政グループの場合、その成長シナリオの乏しさがかねて指摘されてきたからだ。むしろ、「株式市場の目からすれば、ネガティブにみえるような構造すら日本郵政グループにはある」(有力アセットマネジメントのアナリスト)という厳しい見方もある。

 その代表格が日本郵政の子会社である日本郵便による買収案件である。日本郵便は今年、オーストラリアの物流会社、トール社を買収したが、市場関係者が口をそろえるのは同買収が破格に高額だったこと。西室泰三・日本郵政社長は「国際物流への進出」の橋頭堡であることを強調するが、高値買収だったことまでは否定できないでいる。

 同社買収では多額ののれん償却を余儀なくされる。さらに被買収企業のトール社も多額のれんを抱えており、「トール社買収ののれん」プラス「トール社保有ののれん」の合計額の償却が今後、は迫られる。その額は5千億円余り、20年均等償却でも毎年250億円程度の収益がのれん償却によって食われることになる。ただでさえ、先細りの郵便事業を中核とする日本郵便は収益力の弱さを露呈している。トール社買収による国際物流路線が新たな収益事業に成長するまで、買収はコスト先行パターンとならざるを得ない。

 そこで、日本郵政ではのれん概念が決算上には表れない控除扱いとなるIFRS(国際会計基準)への移行を準備している。移行準備作業がどの程度のハイペースとなるかが1つの焦点となってきている。

政治家の思惑に左右されるトップ人事

 一方、グループ内の優良企業、ゆうちょ銀行からも目が離せない問題がある。そのひとつが貯金の預入限度額問題。現在、1千万円となっている限度額の3千万円への引き上げが大きなテーマになっているからだ。引き上げの原動力となっているのは自民党のニュー郵政族議員たちだ。その人数は増え続けている。来年7月の参議院議員選挙が近づいてきているからだ。

 郵便局長会を中核とする郵政票を獲得したいという議員たちの願望が、限度額引き上げという永田町の圧力になりつつある。「恐らく、参議院議員選挙がより近くなる来春ごろには、この問題はより現実化する」と、ある自民党議員は言う。もし、実現すると、郵貯の資金吸収力は格段に増して、株式上場で大手証券幹部が豪語した「貯蓄から投資の流れの拡大」どころか、「貯蓄への流れ」を加速しかねない。

 そして、もうひとつ、日本郵政をめぐる大きな焦点は、トップ人事だ。上場実現の最大の功労者と言っていい西室泰三社長の後継人事である。西室氏は現在、続投の意欲を明確にみせているものの、日本郵政周辺ではポスト西室の噂で持ち切りだ。民営化路線を走り、株式上場を実現したとはいえ、日本郵政は依然として株式総数の89%は政府が保有している。そのため政治による関与が入る余地は大きい。その際、最大の標的はトップ人事であり、西室氏が与党の意向にそぐわないスタンスをとれば、ポスト西室の政治的なメカニズムが働きやすくなる。

 例えば、西室氏は貯金の預入限度額の引き上げ問題には慎重な姿勢を鮮明にしているが、これにより参議院議員選挙を控えた議員と摩擦が生じかねない。老練な経営者である西室氏だけに、その時々の事態をうまく潜り抜けるかもしれないが、いずれにせよ話題豊富な上場企業が誕生したことは間違いない。

 

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