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高井昌史・紀伊國屋書店社長インタビュー「本屋は人生を変える出会いの場所」

紀伊國屋書店社長 高井昌史氏

9月10日に発売された作家・村上春樹さんの新刊『職業としての小説家』。その初版10万部のうち、9割を直接買い切るなど、書店の活性化に力を注ぐ紀伊國屋書店の高井昌史社長に、出版文化復権のカギを聞いた。 聞き手=本誌/古賀寛明 写真=佐々木 伸

 

高井昌史・紀伊國屋書店社長が語る「本屋の復権」に必要なこと

 

(たかい・まさし)1947年東京都生まれ。成蹊大学法学部卒業後、71年紀伊國屋書店入社。各地の営業所長などを経て、常務、専務、2008年に代表取締役社長就任。社外役員として、財団法人出版文化産業振興財団常務理事、財団法人図書館振興財団理事、東京都書店商業組合特任理事などを務める。

(たかい・まさし)1947年東京都生まれ。成蹊大学法学部卒業後、71年紀伊國屋書店入社。各地の営業所長などを経て、常務、専務、2008年に代表取締役社長就任。社外役員として、財団法人出版文化産業振興財団常務理事、財団法人図書館振興財団理事、東京都書店商業組合特任理事などを務める。

―― 本離れが進んだ背景にはどんな理由があるんでしょうか。

高井 昨年の日本における出版物の売り上げは1兆6千億円、約20年前の最盛期には2兆6千億円あったわけですから、1兆円ほど市場が縮小したわけです。

 本がよく読まれていた時代は、インターネットやスマートフォンもありませんから、本を読むことが娯楽だったんです。当時、出版界も元気でした。三島由紀夫や松本清張、司馬遼太郎などそうそうたる作家がいました。本が売れ、出版社や本屋が潤い、また新たな本を出して作家も育つという好循環があったんです。

 しかし、少子化や新たなメディアが誕生してきたこともありますが、活字離れが顕著になりましたね。今の親御さんは必ずといっていいほど読み聞かせを行いますが、小学3、4年生になると途端に本を読む習慣がなくなるんです。

―― それは、なぜですか。

高井 子どもの受験戦争が低年齢化したためでしょう。

 学習塾に行くようになり本を読まなくなる。もちろん、塾が悪いわけではないのですが、本離れの原因のひとつに中学、高校、大学の受験が影響するのは確かです。一方で、その時期に本を読み続けると読書は習慣になります。結果を見れば読書量によって国語力が身に付くことは分かっているんですけどね。

 例えば、朝の読書運動、通称「朝読」を積極的に行っている秋田県や石川県、富山県などは、文部科学省の学力テストの成績も良いなど、相関関係が示されています。

―― とはいうものの、なかなか本の復権につながりませんね。

高井 それには2つの環境の改善が必要になります。

 まず、家に本がなければ読書好きにはなりません。僕は以前から、「良書が300冊あれば良い子が育つ」と言っているんです。家に良書をきちんと並べていれば、子どもは自然と手に取ります。

 もうひとつは学校図書館が貧弱なこと。古い本しか置いておらず、司書教諭もいない。地図や百科事典は古ければ役には立ちませんからね。しかし、「朝読」を行う学校の図書室は充実しています。また、ある面で読書は努力が必要です。スポーツと同じで鍛えなければならないんです。でも、一度身に付けるとその習慣は一生続く。そして、本は読むほどに読書スピードも速くなる。すると、さらにまた知識や学力が高まっていきます。

 今、家庭と学校の話をしましたが、読書を習慣付けるのは大人の仕事なんです。昔の寺子屋は読書をしていただけですよ。でも、それが明治における近代化の基盤になったわけですからね。

 

高井昌史・紀伊國屋書店社長が考える本屋を楽しくするためのヒント

 

20151201KINOKUNIYA_P02

シドニー店では千羽鶴をきっかけにコミュニティーが生まれた

―― 市場縮小の中で紀伊國屋はどういった対策を。

高井 われわれは、ビジネスとして海外に活路を求め、知を守る使命としては外商を強化して大学の図書館にしっかりとした学術書を購入してもらっています。日本は、科学技術大国を目指すのですから、世界と競争してもらうためには予算云々ではなく、もっと学術書などを集めてほしいと声を上げています。例えば、新宿本店には蔵書が120万冊ありますが、年に1冊も売れていない本がたくさんあります。本は、読まれるものだけを置いていてはだめなんです。知を守るというのは、たとえ10年に一回しか読まれないとしても、世界の良書を収集して公開する。それが図書館の務めですからね。

―― 海外に活路を求めると仰いましたが。

高井 現在、日本に66店、海外に27店舗があって、新宿本店が、いちばん売り上げが高く、続いて梅田本店、新宿南店と続きます。そして4位は札幌本店や福岡本店ではなく、シンガポール本店です。その次の5位がドバイ店。このドバイ店は勢いがあり、もうすぐシンガポール本店を抜くと思います。今後も、海外の店舗が売り上げの上位に入って来るでしょうね。

―― 話を日本のお店に戻しますがどんな書店を目指しますか。

高井 本屋を楽しくしたいですね。読者参加型の店づくりをしていきたいと考えています。

 実は、そのヒントも海外店にあるんです。海外27店舗のうち、例えばシドニー店では、折り紙で千羽鶴を折る催しを行ったそうです。そうしてできた千羽鶴を病気で苦しむ子に贈ったところ、それがニュースになり、折鶴をきっかけに店を中心にしたコミュニティーが生まれました。

 そういった店づくりがシドニーだけでなく、サンフランシスコやニューヨークなど多くの海外店舗から聞こえてきます。

 お客さまがコスプレで店舗に集まる日を設けるなど、お客さまが参加するイベントが多数催されています。それを日本でも広げていきたい、そう考えています。

―― 海外店舗の潜在力はどこにあったんでしょうか。

高井 海外店舗で働いているのは、ほぼ現地の人たちです。ドバイ店では22カ国もの国籍の人が働いていますから日本人とは違ういろんな発想が生まれてきますよ。ドバイ店は、ワンフロアで1800坪あります。新宿本店は多層階で1400坪ですから、その大きさが分かると思います。そこに、英語、アラビア語、中国語、日本語と多言語の書籍があるんです。中東には、それほどの質も量も備えている本屋はほかにないわけですから、建築やビジネス、世界の文献を求めてUAEだけでなく、サウジアラビア、クウェート、エジプトなど中東各地から飛行機に乗って来るんです。ドバイの書店はまさに文化の発信地になっているんです。

―― ドバイに出店したその目利きはすごいですね。

高井 じつは王族の方がシンガポール本店を見て、これよりも倍の面積を持つ店をつくってくれと言ってきたんです。

 彼が、なぜそんなことを言うのかというと、ドバイにしても、UAEにしても、本屋がなければ文化が育たないということを知っていたんですね。

 ネット社会と言われますが、やはり本屋は大事なものです。ただ、多くの国ではまだ戦争が続いていますからもっと平和になってほしい。平和じゃないと本を読めませんし、平和じゃないと本屋はできませんからね。

 

文化を支えるために必要な「継続」

 

20151201KINOKUNIYA_P01―― あらためて「文化の発信地」としての本屋の活用法を。

高井 本をネットで購入しても良いのですが、ネットは欲しい本をピンポイントで買いますからほかの本との出会いがありません。本は人生を変える力があるんです。だから、もっと本屋に来て「たまたま」の出会いを見つけてほしいと思います。

 新宿本店は、店の前が待ち合わせでよく使われていますが、店の中で待ち合わせてほしい。店の中なら雨が降っていても、多少遅れても大丈夫ですからね(笑)。

 また、「新劇の甲子園」と呼ばれる新宿の紀伊國屋ホールがあることで、タニマチと言われることもあるんですが、私は、「それはお金のある人がやることで、うちのはやせ我慢の文化だよ」と言っています。文化を支えるには継続しなきゃだめですからね。

―― 最後に、出版文化の未来をどう考えていますか。

高井 最近の米国の統計で電子書籍が頭打ちになり、本屋の復権が始まったといわれています。

 大手チェーンのひとつボーダーズは経営破綻しましたが、バーンズアンドノーブルは一時期の低迷状態を脱しつつありますし、地域に根付いた書店は復活傾向にあります。米国の出版社は今、良い本をできるだけ早く読者に届ける工夫を凝らしています。

 いい作家、いい学者がいい本を書き、そして書店や出版社が元気になり、多くの読者が良書をたくさん読んでいく。それがまた人を育てる。

 この過去にできていた良い循環を取り戻すことが本の復権には必要です。そういった意味では、今がまさに踏ん張りどころではないでしょうか。

 
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