経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

資源安・鉄鋼不況に乗じ、業容拡大に乗り出した新日鉄住金

新日鉄住金は日新製鋼の子会社化と、フランスの鉄鋼メーカーの持ち分法適用会社化を矢継ぎ早に決めた。ブラジルのグループ会社の子会社化も視野に入れる。いずれも資源安や世界的な鉄鋼不況で苦しむ企業を救う形だが、そこには業態拡大に向けた野心がうかがえる。 文=ジャーナリスト/河野 巧

新日鉄住金が苦戦する競合を尻目に相次いでM&Aを発表

 「競争優位って良い表現だね」

 年頭の賀詞交歓会で、新日鉄住金の進藤孝生社長が機嫌良く語らう姿があった。業界紙の見出しにそう掲げられたように、新日鉄住金をはじめ、日本企業は世界でも比較的、優位な業績を維持している。中国経済の急減速によって鋼材需給が世界的に緩み、海外メーカーは軒並み赤字だ。世界トップのアルセロール・ミタル(ルクセンブルク)は、2015年12月期に約9千億円の最終赤字を計上。新日鉄住金がコスト競争力でベンチマークするポスコ(韓国)も、同じく約90億円の最終赤字となった。ポスコに至っては創業来初の赤字転落だ。中国の大半のメーカーもそろって大赤字。米国最大のUSスチール、インドのタタ・スチールなども赤字からなかなか抜け出せない。

 これらの企業は、工場閉鎖や人員削減といった合理化に、資産の切り売りなど、立て直しに悪戦苦闘。特にアルセロール・ミタルは、かつて統合前の旧新日本製鉄や旧住友金属工業が「買収されるのではないか」と恐れたほどの圧倒的な存在だった。それが今や、トップのミタル一族が私財を投げ打ってまで財務再建に取り組まねばならないほど、立場は逆転した。まだ景気が良かった頃、海外メーカーは鉄鉱石や石炭などの原料権益に積極的に資金を投じた。これが昨今の資源安で仇となり、多額の減損損失を計上。また、規模拡大で多くの製鉄所を買収した結果、能力が過剰となり、需給が緩んだ今になって大規模な合理化に追われているわけだ。

 日本勢は資源権益に多少は手を出したものの、大やけどするほどではなかった。また、旧新日鉄と旧住金が経営統合し、両社の高炉を1本ずつ止めることを決めたように、一足先に合理化に着手。統合効果を1千億円単位で創出していった。神戸製鋼所も神戸製鉄所の高炉休止を決め、JFEスチールは傘下の電炉メーカーを再編統合した。これらの措置と従来の高付加価値商品戦略が奏功し、競争優位につながったと言える。こうした状況から、市場関係者からは、とりわけ新日鉄住金に対し、「今がM&Aの最大のチャンスではないか」という声がしばしば漏れていた。

 それが2月1日、一気に顕在化する。朝日新聞が朝刊で日新製鋼の子会社化をスクープ。その日の午後、両社長が並んで会見した。日新製鋼は高炉を1本休止し、固定費を削減するとともに、それによって足りなくなる鋼片(製品の原料となる半製品)を新日鉄住金から供給してもらう。

 前後して同じ日の午前中、フランスの鋼管メーカー・バローレックに15%まで追加出資し、17年度中に持ち分法適用会社化すると発表した。バローレックは油井管に使うシームレス鋼管やそれをつなぐ特殊継手で高い技術を持つ。ところが、昨今の原油安で油田や天然ガス田の開発がストップ。そこに使われる油井管や継手が売れなくなり、ついには運転資金が底をついた。フランス政府が支援に入り、そこに新日鉄住金も資金の出し手として加わった。

 救済条件として、特殊継手の事業により深くかかわれることと、ブラジルの合弁事業のリストラも勝ち取った。特にブラジル合弁は昨年、新日鉄住金も巨額の減損損失を計上させられたいわく付きの案件。バローレック主導では立て直せず、支援の見返りとして新日鉄住金が再建の主導権を奪取した。現地の2つの製鉄所を統合し、高炉を一方に集約する。要するに、原油安で苦境に陥ったパートナーを一見、救済する格好ではあるが、影響下に収めようという新日鉄住金のしたたかさがうかがえる。

新日鉄住金が好機到来で次のターゲットも視野に

 ステンレスが柱の日新製鋼は、ステンレス原料であるニッケルの市況悪化で多額の在庫評価損を計上。業績悪化の大きな要因になっている。つまり、資源安でダメージを受けているという点ではバローレックと共通する。そして出資によってグループ化し、さらに一方の高炉を休止して固定費を抑えるという手法も同じだ。それこそ、旧新日鉄と旧住金の統合に伴い、高炉2基を休止し、合理化効果を上げようという施策につながる。

 そして次のターゲットが、持ち分法適用会社でもあるブラジルの鉄鋼大手・ウジミナスだ。ブラジルも資源安で経済が低迷。マイナス成長に陥り、鉄鋼業界も苦境にあえぐ。ウジミナスも存続の瀬戸際にあり、地元政府による資金支援が検討されている。しかし、ウジミナスをめぐり、新日鉄住金はもう一方の大株主であるテルニウム(アルゼンチン)と対立。にらみ合いが続いている。

 ただ、ここにも好機は到来している。ウジミナスの業績悪化による株価下落で、テルニウムは多額の減損損失を計上。出資金は出資時の約1割まで毀損している。新日鉄住金も持ち分法損失の計上を余儀なくされているが、その額はテルニウムに比べればわずかだ。テルニウムにしてみれば、大損している上に、さらにウジミナスの支援に資金供出する余裕があるのかどうか。新日鉄住金は支援要請に応じ、場合によっては出資増による子会社化まで踏み切る覚悟だ。

 
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