経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

意外に静かな春節 爆買いは終わったのか

2015年の流行語大賞にも選ばれた「爆買い」。その主役である中国人旅行客が多く訪れる春節(旧正月)が今年もやってきた。上海株式市場の急落や人民元の切り下げなど、中国経済の減退がささやかれるなか、実際の消費はどうだったのか、調査した。 文=本誌/古賀寛明

訪日旅行者の消費額なんと3兆4千億円

昨年の訪日外国人観光客は1973万人を数え、一昨年の1341万人から大幅に増加した。13年度にようやく1千万人を突破したことを考えれば、ビザの緩和、円安の後押しはあるものの、ほぼ倍増となったこの数字には驚かされる。なかでも、中国人旅行者は499万人(15年)と、一昨年の241万人の3位から韓国、台湾を抜き1位となった。

また、爆買いという言葉に象徴されるように、消費額の主役も中国人旅行者だ。観光庁の統計(速報値)によれば、昨年1年間の訪日旅行客の消費額は、3兆4771億円。そのうちの40・8%、1兆4174億円が中国の旅行者が消費した額になる。

その中国人の旅行シーズンといえば春節や国慶節(10月1〜7日)が挙げられる。昨年、多くの中国人旅行客が日本を訪れ、また派手な買い物が注目を集めたことで、日本でもよく知られるようになった。とくに春節は中国国内でも、内陸部から沿岸部に出稼ぎに来ていた労働者たちが帰省するため、まさに民族大移動といった様相で、春節前後に交通機関を利用する旅客数の合計は33億人を超えるという報道もある。

財務省が1月の貿易統計で6459億円の貿易赤字を発表しているが、これも春節の2週間前には輸出が止まる影響を受けてのことだ。その春節、今年の休みは大みそかにあたる2月の7日から13日までの7日間。今年も多くの観光客が押し寄せるのではないかと思われていたが、一方で、懸念もあった。

ひとつが、春節に限らず「爆買いは終わった。邯鄲の夢だ」という意見。確かにインバウンドの消費額が一昨年の2兆円から、昨年の3兆4771億円へと、わずか1年で1兆4千億円も増えたというのだから、こんな奇跡はそう起きることではない、という意見。もうひとつが、現実的な中国の景気減退。上海株式市場が昨年秋に暴落したことに加え、人民元の切り下げなど先行きの不安定さを見せていること、加えて彼の国ならではの政治リスクが不安をあおる。

では、どうだったのか。実際に、2月上旬に銀座の中央通りを8丁目から4丁目まで歩いてみたところ、日本語よりも中国語を耳にする方が多かった。ただ、家電やブランド品を抱えきれぬほど持つ旅行者の姿は今回見ていない。

航空会社の利用状況も問い合わせたところ、「春節期間のデータだけを切りとってはいませんが、その時期の中国線はほぼ満席。しかし、その前後も同じ状態で好調が続いている感じ」(大手航空会社社員)という。

爆買いの終わりは地方時代のはじまりか

それもそのはず、あまりに混雑が集中するために、学生などは1月の中旬くらいから冬休みを前倒しているそうなのだ。日本政府観光局(JNTO)の調べによれば、今年1月の訪日外国人数は、前年同月期の52%増の185万人。単月でみても昨年の7月に次いで史上2番目に多い数字を記録している。韓国からの訪日客、51万人には及ばないものの、中国人旅行客47万5千人の伸び率は110%。つまり春節は、既に始まっていたといえる。

荷物

昨年の5月に尖閣問題で先送りされていた羽田の発着枠の問題も解決。中国路線は広がり、地方空港の発着も含めれば便数もかなり増えている。座席数が大幅に増えたことで予約が取れないといったこともなく、静かに増えていたのだ。だが、一方で爆買い自体はどうなったのか。

昨年末に、中国最大の格安航空会社・春秋航空と提携を発表したビックカメラでは、春秋航空を利用して日本に来る顧客に割引クーポンを配布している。店舗には、クーポンを手にした顧客も多く見かけるという。ビックカメラの広報担当者によれば「昨年までのいわゆる爆買いのような状態は少なくなったが、お客さま自体は増えており、売り上げも昨年に比べ伸びている」とのこと。さらに、売れ筋にも変化があらわれているという。昨年の炊飯ジャーやカメラといった商品から、「今年はカメラでいえばレンズ、そして美容機器、中でも美顔器が売れている」(ビックカメラ広報)そうだ。

消費行動、購入商品の変化は、そのまま日本旅行のリピーターが増えていることを意味するようだ。一度目の旅ではおみやげを買う必要があっても、2度目ともなれば自分の欲しい美顔器やエステなど、自分向けの消費に変わる。同時に、それは爆買いの終わりも意味する。しかし、リピーターが増えることは、需要にもまた継続性が生まれることにつながり、悪いことではない。

それよりも、今年どれだけ訪日客が増えるか、それが気がかりだ。春節の時期に前年比110%を記録すれば、さらに増える桜の時期や最盛期の7〜8月はどうなるのか。

願わくはこれを地方活性化のチャンスに変えたい。中国人に限らず日本を2回、3回と旅するリピーターは、地方に興味を持っているという。既に意外な場所が人気といったニュースもよくみかけるようになった。都市部の宿泊施設が足りないという問題を逆手に取り、今こそ地方の魅力を発揮すべき時なのではないだろうか。

経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界ウェブトップへ戻る