経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

英国のEU離脱で再来する自動車メーカー「冬の時代」

英国がEUを離脱した。残留濃厚と見られていたために、株式相場と為替相場は大混乱に陥った。3年前の「黒田バズーカ」によって始まった円安局面は終わりを告げ、わが世の春を謳歌していた自動車メーカーには「冬の時代」が到来した。文=本誌/関 慎夫

リーマンショックの悪夢がやってくる

英国のEU離脱が明らかになった6月24日、日経平均株価は前日より約1300円、値を下げ、年初来最安値の1万4952円で取引を終えた。

それでも週明けの27日には1万5309円と350円近く値を戻したが、今後の円高を見越して、輸出関連を中心に続落した銘柄も多かった。

その代表とも言えるのがマツダだ。マツダは2012年秋には株価が435円まで売り込まれたがその後反転、14年末には3千円を突破、直近でも1700~1900円前後で安定していた。ところが6月24日には一気に200円以上下げて1566円となり、27日も続落し1414円。2日で2割下落した。このため野村証券はレーティングや目標株価を引き下げた。

マツダ以外でも、トヨタ自動車や日産自動車など、大半の自動車メーカーは2日連続で値を下げた。

言わずもがなだが、円高は自動車メーカーの収益を直撃する。トヨタの場合、円が対ドルで1円高くなると、400億円の減益要因となる。トヨタは今期1ドル=105円の前提で営業利益1兆7千億円を見込んでいたが、仮に1ドル=100円になれば2千億円、90円まで進めば6千億円の利益が吹き飛ぶ。このほか、日産で1円につき120億円、富士重工業(スバル)で100億円近い影響がある減益要因になるのだから、英国のEU離脱に震え上がるのは無理もない。

為替以上に問題なのは、世界経済の行方が混沌としてきたことだ、伊勢志摩サミットで安倍首相は、「世界経済はリーマンショック前夜」と語っていたが、仮にそうなったら、自動車メーカーにとっては悪夢の再来だ。

「春」から「冬」へと季節の移った自動車業界(写真はイメージ)

「春」から「冬」へと季節の移った自動車業界(写真はイメージ)

リーマンショック前、為替は1ドル=110円台半場で安定しており、08年3月期、自動車メーカーは空前の好決算に沸いた。

トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、スバルなどが過去最高売り上げと最高利益を記録。ところが09年3月決算では、トヨタ、日産、マツダ、スバルは営業赤字を計上、天国から地獄へ転落した。

結局、リーマン前の利益水準に回復するには、トヨタは6年、日産は8年の歳月が必要だったし、ホンダはまだその水準に届いてもいない。もし、世界経済が再び混乱し、円高が進めば、それと似たような状況が訪れる。もちろん当時より危機管理能力は増しているため、赤字転落ということはないかもしれないが、一方で、今の好決算につながった「黒田バズーカ」を簡単に撃てないぶん、状況が長引く可能性もある。

「冬の時代」はもうそこまで迫っている。

欧州生産拠点の抜本的見直しも

また、英国のEU離脱をきっかけに、グローバルの生産体制を見直す動きも出てきそうだ。

今では日本メーカーが海外で現地生産を行うのは当たり前のことになっているが、欧州で最初の拠点がつくられたのが英国だった。

先鞭をつけたのは日産で、石原俊社長がサッチャー首相(いずれも当時)との間で調印したのが1981年。86年7月には生産を開始した。続いたのがホンダで、92年10月に生産を開始、その2カ月後にはトヨタも英国生産に踏み切った。

当時英国は、外国企業の自動車生産に高いハードルを課していた。部品を輸出し、組み立てだけを行うノックダウン生産では国民の雇用が守れないと、部品の国産比率60%以上を義務付けたのだ。そのため、進出した日本メーカーは、部品メーカー探しから始めなければならず、当初は苦戦が続いた。

しかし生みの苦しみを乗り越えてからは事業は軌道に乗り、3社の英国工場は、各社の世界戦略に不可欠になった。現在の生産能力は合計85万台程度。EU域内は関税が撤廃されているため、そのうちの8割が、欧州諸国へ輸出されていた。

しかし英国がEUを離脱したことで状況は大きく変わった。今後、英国はEUとの間で貿易協定を結ぶことになるが、自動車には最大10%程度の関税がかかるかもしれない。またEU各国から英国への人口の移動も制限されるため、東欧などの安い労働力に頼ることもできなくなる。生産コストの上昇に関税が加わることで、英国産自動車の競争力は低下する。

トヨタは6月24日に「競争力維持、持続的成長の観点から、今後の動向を注意深く見守って検証していく」とのコメントを発表しているが、場合によっては欧州の生産体制を見直す可能性は高い。

日産、ホンダにしても同様、もしくはそれ以上に影響は大きい。トヨタはフランスにも生産工場を持っているため、今後、同工場を増強することである程度の対応が可能だが、日産とホンダは英国のみ。両社は、今後の欧州戦略を根本から再構築する必要に迫られる。

今後2年の間に、英国とEUの新しい関係が始まる。その交渉によっては、離脱の影響はそれほど出ないかもしれない。日本メーカーはそれを願っているだろうが、私企業としてはどうすることもできない経営上のリスクが出現したことだけは間違いない。

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