経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

「朝型勤務」だけじゃない、伊藤忠商事の人材戦略

2016年3月期の連結税引後利益で商社ナンバーワンとなった伊藤忠商事。資源価格低迷の中、非資源分野へシフトした決断が効を奏したが、その裏には、朝型勤務に代表される「働き方改革」があった。商社マンを朝型に変える大胆な取り組みはなぜ、成功したのか。その舞台裏について人事・総務部長の垣見俊之氏に話を聞いた。

朝型勤務導入の背景

3年前に導入した「朝型勤務制度」は多くの方に注目をいただきましたが、その裏には、育児や介護といった時間に制約のある社員が増えていたにもかかわらず、多残業体質の長時間労働が半ば当たり前になっている状態がありました。

さらに、私どもは他の総合商社に比べて社員数が少ないこともあり、人数が少なく、時間に制限があるのであれば、それだけ業務を効率化し、一人一人の生産性を上げなければならなかったのです。

そこで、20時以降の残業を原則禁止にし、朝型勤務制度を導入したのです。当初は、夜型の体質が染みついていますから、「現場を分かっていない」、「残業したくて夜残っているわけじゃない」といった反発がありました。当然、取引先は世界中ですから時差もあります。しかし、逆にそれが不文律となっていました。

過去から残業削減策はやってきていましたが、今回うまくいったのには大きく3つの理由があると思っています。

何よりも、経営トップのリーダーシップがあったことです。社長の岡藤正広は、そもそも多残業は非効率な働き方の結果という考えでしたから、役員会で朝型勤務の取り組み状況を共有し、対応ができていない部署には、きちんとその理由を問いただしていました。次に、組織運営上のキーパーソンである組織長に徹底的に理解してもらうことも重要なことでした。

また、朝型勤務に対して割増賃金を払い、朝食を準備することで、この取り組みが、単にコスト削減ではなく、生産性の向上であり、社員一人一人にとってもメリットがあることを認識してもらいました。

その結果、社員自ら「やってみようか」と思わせることにつながったのです。実際、社員エンゲージメントサーベイという、主体的に会社に貢献しようとする意識の高さを測る調査でも肯定回答が78%に上り、日本の著名大企業50社の平均値に比べても、19%も高い数値となりました。

現在、東京本社で働く約2300人の社員のうち、1100人ほどが朝8時前に出社するようになり明らかに効率も上がっています。30%の社員が行っていた20時以降の残業も、2年たった今では6%に減り、22時以降に10%ほど残業していた社員もほぼゼロになっています。

垣見俊之

伊藤忠商事 人事・総務部長 垣見俊之(写真=山内信也)

伊藤忠が目指す「働きやすい会社から働きがいのある会社」

朝型勤務もそうですが、人事戦略は経営のエンジンとなるものと考えており、人材育成についても同じです。例えば、当社は、中国のCITICと、タイの財閥のCPと戦略的資本提携を行いました。

現在、アジア、特に中国の事業を拡大するために、2017年度末までに中国語人材を1千人まで増員することを目標に掲げています。直近では560人にまで増えましたから、あと1年半で440人を養成しなければなりません。結果にコミットすることが徹底されていますから、制度を導入しただけではなく、運用までフォローしています。

中国にビジネスを展開している度合、中国に駐在した経験者の数などを分析して、カンパニーごとに上級、中級、初級のレベルに合わせ、中国語人材を何人育成してくださいと目標を具体的に定め進めています。

現在、当社は一人一人の能力を高めていくのと同時に、その能力を最大限に発揮するために「健康経営」を標榜しています。健康力という言葉は耳慣れないかとは思いますが、一人一人が最大限のパフォーマンスを発揮するためには、社員の健康力を高めることは必須と考えています。

長時間労働を削減し、メリハリのある働き方をすることで能力をフルに発揮してもらおうと考え、健康をベースにした生産性やモチベーションの向上を目指しています。生産性を上げるためには、職場の環境整備も欠かせません。例えば、この夏には海外出張者が使えるようにシャワーラウンジを社内に設け、出張先から帰って気持ちよく働ける環境を整備しています。

18年4月に新設する統合独身寮もそのひとつです。寮といえばかつては福利厚生的な発想でしたが、当社の場合は経営戦略、人材戦略の一環としてとらえています。健康に留意した食事はもちろん、サウナ・フィットネス機器の充実は、若手社員の健康意識の醸成と共に、社員教育の場としても活用していきます。BCP(事業継続計画)機能はもちろんのこと、地域社会にも貢献する寮とする予定です。

ビジネスは競争であり、しかも、グローバルで継続して勝ち続けなければならないわけですから、そのために徹底的に働ける環境を整備しており、働きがいのある会社を目指しているのです。(談)

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