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全銀協会長会見に官邸が激怒 ベア慎重論の火消しに躍起の三井住友銀行・國部頭取

首相官邸

20170110kantei

首相官邸

銀行業界が2017年春闘での賃上げに消極姿勢と報道されたことに対して、三井住友銀行が火消しに躍起になっている。全国銀行協会会長の國部毅・三井住友銀行頭取の発言に官邸が激怒したからだ。だが、今度は地方銀行を中心に銀行業界が「裏切られた」と反発を強めている。文=ジャーナリスト/岡田一郎

修正された全銀協のホームページ

 「経済の好循環の流れをより強めるには賃上げの勢いを維持することが重要だ。収益が拡大した企業では賃上げが行われることを期待したい。銀行界としてはあまり(収益拡大は)ない。個別の銀行としては、組合の意見を聞いて真摯に検討する」(朝日新聞11月17日付ウェブサイト)

 「収益が拡大した企業で賃上げが行われることを期待したいが、銀行界は(収益拡大には)当てはまらない」(産経新聞11月18日付紙面)

 いずれも11月17日の全銀協会長会見での國部頭取の発言を報じたものだが、この2紙の報道が波紋を呼び、11月18日朝から國部頭取は対応に追われた。

 報道を受け、いち早く反応したのが官邸だ。「首相がなんとか経済活性化に向けて、ベア実施をお願いしているのに、それを銀行業界はあっさり踏みにじるのか」と激怒。これに対し、國部頭取は「ベアの重要性を説いたし、発言の真意が違う。意図的にベア消極的と仕立て上げたでっち上げの記事」との言い訳で押し切った。合わせて金融庁の森信親長官にも釈明電話をかけたもようだ。

 こうした國部頭取のやり取りを受け、三井住友銀行広報部は即座に動き出した。

 財界や日銀の記者クラブに加盟する一般紙各社の記者に電話をか掛け、「産経、朝日の記事にある、『(収益拡大には)当てはまらない』『あまりない』という部分は間違い。正確には(全銀協がベアを決めるわけではないので)当てはまらない、という意味」との何とも苦しい“珍解釈”を武器に「産経新聞、朝日新聞の報道は間違い」と説いて回った。

 全銀協のホームページも修正するよう指示を飛ばした。

 通常、全銀協の会長会見があった18日の翌日に、「会長記者会見の模様」の全文が掲載されるが、正確には、「収益が拡大した企業においては賃上げが行われることを期待したいし、銀行界としてはこれはあまりないので、個別行としては組合の意見を聞きながら、真摯に検討していきたい」と掲載しなければならないところを、「収益が拡大した企業においては、やはり賃金引き上げが行われることを期待したいと思っているし、個別行としても組合の意見を聞きながら、真摯に検討していきたいと思っている」と、「銀行界としてはこれはあまりない」の部分を削除し、まるでなかったようにした。

次の頭取人事への影響

 ここまで躍起になるのはなぜか。

 國部頭取は現在、経団連の副会長も兼務しているだけに、官邸からのクレームに相当危機感を持ったことは間違いない。賃上げ慎重ムードが銀行界の総意と取られることも恐れたようだ。

 だが、何よりも「三井住友銀行が2年連続でベア断念の記事が早々に出ることを恐れた」(全国紙経済部記者)というのが最大の理由といわれている。

 16年春闘においても、三井住友銀行労組は、日本銀行が2月に導入したマイナス金利の影響で銀行収益が低下することが予想されるとして、賃金体系全体を底上げするベアを求めないことをいち早く決めた“前科”がある。

 これが、16年春闘全体における賃上げムードに水を差し、低水準にとどまる流れを決定づけたともいわれている。2年連続で、「三井住友銀行がベア慎重論を経済界に根付かせた張本人」とのレッテルを貼られることを何よりも恐れたというわけだ。

 一方で、國部頭取への反発を強めているのが地方銀行だ。全国地方銀行協会の中西勝則会長(静岡銀行頭取)は11月16日の定例会見で、17年春闘での賃上げに関して「環境は整っているが、業界としては厳しい」と述べ、慎重な見方を示した。この理由として、日銀のマイナス金利政策を背景に、地銀全体の収益環境が悪化していることを挙げており、翌日の全銀協会長会見は、「この流れに合わせて國部さんが追随してくれた」(有力地銀幹部)と歓迎ムードが広がった。これをすぐさま修正したわけで、いわば地銀ははしごを外された格好となったからだ。

 ある有力地銀の幹部は、「所詮、國部さんはそれだけの力量しかない。三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行社長、みずほフィナンシャルグループの佐藤康博社長には到底及ばない」と怒り心頭だ。

 もっとも、現在、三井住友銀行は、トップ人事をめぐり、社内が揺れている。

 三井住友フィナンシャルグループ(FG)は17年6月に、監査役会設置会社から指名委員会等設置会社に移行することを決めた。これに合わせて、銀行、証券、資産運用の各社が並列で持ち株会社の傘下に収まる、持ち株会社中心のグループ体制にする。

 この新体制に向け、トップ人事をめぐる社内抗争が勃発している。國部頭取は、三井住友FGの社長に納まり、銀行の頭取を旧住友銀行出身の副頭取の橘正喜氏か専務の太田純氏に任せるという構想を持つとされるが、旧三井の逆襲も予想される。

 この微妙な時期に、金融庁に睨まれると、國部頭取が描く人事が思いどおりにいかない可能性もある。果たして結末はいかに……。

 
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