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水戸からベトナムへ地域クラブの新戦略――黄川田 賢司(水戸ホーリーホック 国際事業企画マネージャー)

スポーツ産業の活性化を考える上で、食や地域と結び付けるスポーツツーリズムへの期待は高い。ホノルルマラソンは30年以上続くアウトバウンド型の成功例だが、昨今の訪日外国人客を取り込むインバウンド型のスポーツツーリズムも生まれている。ベトナム選手の獲得をきっかけに新たな取り組みを始めたJリーグ・水戸ホーリーホックの黄川田賢司氏に話を聞いた。

ベトナムのメッシにチャーター機も就航

黄川田賢司

2016年10月16日、水戸ホーリーホックの本拠地ケーズデンキスタジアムで、水戸ホーリーホック対横浜FCの試合が行われた。記録の上では、J2リーグ戦の1つの試合でしかないのだが、スタジアムにはいつもと違い、多くのベトナム人の姿が目に付いた。

「茨城×ベトナム親善交流マッチデー」と銘打たれたこの試合には、日本在住のベトナム人に加え、ベトナムからこの試合を観戦するために観光で訪れたお客さん、合わせて約400人がスタンドに陣取っていた。

彼らのお目当ては「ベトナムのメッシ」と呼ばれるグェン・コン・フォン選手。本国ではフェイスブックのフォロワーが170万人もいる国民的スター選手で、ベトナムサッカー期待のホープだ。

一方、対戦相手の横浜FCにも、ベトナムのピルロと呼ばれるグェン・トゥアン・アイン選手がいた。ホーリーホックもこの日のためにチームカラーの青ではなくベトナム国旗をイメージした赤い限定ユニフォームを着用するなど盛り上げたが、残念ながらトゥアン・アイン選手はけがのため出場できず、ベトナムダービーの実現はならなかった。しかし、地域クラブが日本を飛び出し、海外という新たな市場に手を伸ばした記念すべき日だといえる。

もともと茨城県はベトナムとの関係が深く、農業技術や医療、介護の支援を行うなど、密接な関わりがあった。

そうした背景も加わり、「獲得したコン・フォン選手の人気をマーケティングにいかせないか」(国際事業企画マネージャー・黄川田賢司氏)と、いうことで新たな取り組みが始まったのだという。

黄川田氏は、まず日本とベトナムの間を定期就航するベトナム航空に話を持ちこみ、16年シーズンには、ユニフォームのスポンサー契約を結んでいる。

さらに、このマッチデーに合わせ、茨城県や地元企業の茨城交通などと協力し、観戦ツアーを企画。ベトナム航空のチャーター機を茨城空港に迎えた。

「お陰さまでチャーター機も満席になり、搭乗者の内の半数近くが試合も見に来てくれました。試合後には、フォトセッションや、コン・フォン選手との食事会も企画し、来られたお客さんにも喜んでもらえたんじゃないでしょうか」(同氏)。

ただ、ホーリーホックにとってこの事業はきっかけにすぎない。

地方のスポーツクラブだからできること

「このようなスター選手ありきのモデルだと選手次第ということになり、お客さんを呼べる選手がいなければ何もできないわけです」と、黄川田氏。

そうしたことから、スター選手に依存しない新たな取り組みを始めようとしている。

そのひとつが、茨城県がベトナムで進める農業と医療介護支援にホーリーホックも旗振り役として加わろうというのものだ。

例えば農業支援であれば、スマートアグリなど日本の最新技術をベトナムへ持ち込み、広めるといった役割。既に、農業分野で優れたIT技術を持つ企業はあるものの、受け入れ先であるベトナムの地方にパイプがないために、うまくいかないケースがある。

そういった時に、大学や県と連携協定を結び、ベトナムにもパイプを持つ地元のサッカークラブがあれば、企業も安心して任せることができる。

その拠点となるクラブハウスも来年度、水戸の近郊にある城里町に完成予定。行政と共同で使う中学校の廃校を活用したクラブハウスには、サッカークラブとしての機能はもちろん、ベトナムとの関係をより強化する拠点として農業や医療介護の研修も行えるようにし、サッカーでも、コン・フォン選手を目指すベトナムのユース年代の子どもたちを受け入れる施設にしたいと考えている。

これまでプロスポーツクラブといえど興行など、日々の仕事に追われるばかりであったが、SHC(スポーツヒューマンキャピタル)の卒業生のように、プロスポーツクラブにもよりビジネスの視点を持った人材が加わってきている。黄川田氏もそのひとりだ。

同氏は言う。「水戸のポテンシャルは非常に高いと思います。練習場もクラブハウスもようやく整うこれからのクラブです。そのクラブでサッカーに限らない新たな事業を生み出すことが本当の意味での地域のためになることではないでしょうか」。

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