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スノーデン事件は氷山の一角 諜報戦争から国を守るサイバーセキュリティーの今

サイバーセキュリティーイメージ画像

インターネットの普及で情報漏洩やウイルス感染が日常化している。知的財産や個人情報が守りにくくなっただけではない。ISや北朝鮮など「テロ」の危険性が増す中、国レベルの諜報活動は重要性を増すばかり。主要国ではどのように活動しているのか。日本の現状はどうなのか。文=ジャーナリスト/梨元勇俊

諜報活動の主体は通信傍受が基本

20170307サイバーテロ 中国・北京の長富宮飯店は、日本の財界が中国と共同出資して1990年に開業した5つ星クラスの高級ホテルだ。ニューオータニが運営していることもあり、日中経済協会や経団連の関係者など日本人客が多い。

 このホテルではしばしば、妙なことが起こる。携帯電話に日本から見知らぬ番号の電話がかかってくるのだ。電話に出ると、相手は日本の家族や知人からで、発信元の電話番号だけが違う。直前までサクサクつながっていたパソコンや携帯電話の通信回線が、ある瞬間からブチッと切れることも珍しくない。このホテルに何度も泊まっている財界人は、「大事な仕事の電話はホテルを出てからかける。部屋の電話は盗聴されている可能性があるからね」と声を潜める。

 誰にも検証はできないが、長富宮では「電話や電信の通信内容が中国当局に傍受されている」らしい。

 かつて国レベルの諜報活動はスパイなど人を介していたが、インターネットの普及で膨大な情報がやりとりされる今、諜報活動の主体は通信の傍受になっている。なぜなら、コンピューターへの不正侵入やデータの改ざん・破壊などのサイバー攻撃が国の安全保障を脅かすリスクが大きいからだ。膨大な通信データを収集し、保存し、管理・分析してテロリストの割り出しなど自国の安全保障に役立てることは、もはや国際的な常識だ。

 2013年のスノーデン事件を覚えているだろうか。米国家安全保障局(NSA)がテロ対策のために大量の個人情報を極秘裏に収集していたことを元NSA外部契約社員が暴露した事件だ。元契約社員のエドワード・スノーデン氏は米国での訴追を逃れていまもロシアに滞在中だが、同事件で米国情報機関が個人のスマホやパソコンでやりとりしている情報を傍受して、諜報活動に役立てていることが明らかになった。

 主要先進国の諜報活動の転換点になったのは、01年9月の米国同時多発テロだ。9・11以降、米国では中央情報局(CIA)が活動の軸足を従来の秘密工作偏重から情報分析に移した。英語以外の外国語情報の分析にも力点を置き、国家情報長官(DNI)や、国家テロ対策センター(NCTC)も創設した。

 英国も9・11を受け、02年に安全保障・情報問題担当の内閣常任調整官を新設した。同ポストは情報支出財政の監督や公的安全保障委員会などを統括する諜報活動のトップだ。このほか政府内には内務省保安局(MI5)をはじめ、映画「007」シリーズで有名な秘密情報部(MI6)、第2次大戦時に開校した旧政府暗号学校(GC&CS)の流れを汲む政府通信本部(GCHQ)などの組織が連携して情報収集にあたっている。

 ロシアも負けてはいない。連邦軍参謀本部情報総局(GRU)をメーンに連邦保安庁(FSB)などで諜報活動を行っている。

 中国では中華人民共和国国家安全部が絶大な権限を持つ。暗号通信や管理を行う第1局から衛星情報の判読を含む各国の軍事関連映像を所管する第16局、企業をチェックする第17局まである巨大組織で、国内外の通信内容をチェックしている。

急増するサイバー攻撃と遅れる日本の対策

 安全保障対策は通信傍受だけにとどまらない。ときにはサイバー攻撃にヒートアップすることもある。15年12月にウクライナ西部で発生した大規模な停電はその一例で、ハッカーによる電力施設に対するサイバー攻撃だったとウクライナ政府が公式見解を出している。

 サイバー攻撃は電気・ガスなどのインフラ施設や、鉄道や飛行機などの交通網だけがターゲットではない。IoT(モノのインターネット)と呼ばれる第4次産業革命で家電や自動車など身の回りのあらゆるモノにネット接続ができる時代なので個人レベルのごく小さなスポットも攻撃の対象になり得るのだ。日本政府の関係者によれば、こうした小規模の攻撃も含めると、わが国に対するサイバー攻撃は近年急増の一途で15年で約545億1千万パケットと前年の2倍以上を記録している。

 だが、日本のサイバーセキュリティーは正直、お寒い限りだ。サイバーセキュリティー基本法がようやく14年11月に制定され、内閣サイバーセキュリティーセンター(NISC)が所管することになったものの、十分に機能しているとは言い難い。

 通信の傍受は個人情報などプライバシーの保護に抵触する。さらに表現の自由や通信の自由が脅かされる恐れもある。だから日本では通信傍受は、事件が起きた後に裁判所の令状で行う「司法傍受」は認められるが、事件の未然防止を目的にした「行政傍受」は認められていない。他国があたりまえのように実施している盗聴や他人名義のパスポートを発行することもできない。

 諜報活動はギブ・アンド・テークが原則でこちらの情報を提供できなければ他国から機密を教えてもらえない。19年のラグビーワールドカップや翌年の東京五輪は目前に迫っている。大規模なサイバー攻撃で観客の安全が脅かされては国際的な信用を失いかねない。少なくとも安全保障に関する通信傍受に関しては柔軟な対応が必要だ。

 

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