経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

「投資の基準は事業内容より人を見る」―本田直之(レバレッジコンサルティング社長)

成熟社会を迎え、子どもの教育、就職、働き方など、さまざまな面において、これまでのやり方が機能しなくなってきた日本。難病を抱えながら息子とともにハワイに移住し、事業家として成功を収めたイゲット千恵子氏が、これからの日本人に必要な、世界で生き抜く知恵と人生を豊かに送る方法について、ハワイのキーパーソンと語りつくす。

本田直之氏プロフィール

本田直之

本田直之(ほんだ・なおゆき)レバレッジコンサルティング株式会社代表取締役社長。シティバンクなどの外資系企業を経て、バックスグループの経営に参画し、常務取締役としてJASDAQ上場に導く。現在は、日米のベンチャー企業への投資育成事業を行う。サンシャインジュース、ユニオンゲートグループ、Aloha Table、エポック、コーポレート・アドバイザーズ、米国Global Vision Technology社、Viva Japan、東京レストランツファクトリー、アスロニアの取締役や顧問などを兼務。ハワイ、東京に拠点を構え、旅しながら、仕事と遊びの垣根のないライフスタイルを送る。著書に、レバレッジシリーズをはじめ、「脱東京 仕事と遊びの垣根をなくす、あたらしい移住」、「なぜ、日本人シェフは世界で勝負できたのか」等があり、著書累計290万部を突破し、韓国・台湾・中国で翻訳版も発売。このほか、国内、海外での講演や大学やワインスクール講師など幅広い活動を行っている。

本田直之氏のハワイ生活

トライアスロンイベントを始めたきっかけ

イゲット 本田さんは世界中を旅していらっしゃいますが、年間を通じてどの国にどれくらいの割合で行っているのですか?

本田 昨年から今年にかけては、日本の割合を多くしています。ハワイ5カ月、東京3カ月、地方都市2カ月、残り2カ月がヨーロッパ。それ以前は、ハワイ6ヵ月、日本3カ月、ヨーロッパ2カ月、その他の地域といった具合でした。

イゲット ハワイではどんな生活を送っているのでしょうか。

本田 例えば、今日は午前中トライアスロンのバイクのトレーニングをして、そのあと泳いでいました。仕事はある時にするという感じですね。今は座ってずっと何かやるということがほとんどないし、どれが仕事かという括りも難しいです。人と会うのも、旅をするのも、トライアスロンを主催する会社をやっているので、トライアスロンのトレーニングも仕事と言えば仕事です。

イゲット そうなんですね。どんな経緯でトライアスロンのイベントを始めたんですか?

本田 もともとアスロニアという僕が出資している会社が、権利を買ってやり始めたんです。社長はプロのトライアスリートで、10年ほど前にJALがスポンサーを降りたこともあり、権利を買おうという話になりました。その会社は日本にもショップを持っていたり、レースを主催したりしています。

イゲット そうした活動は地域貢献にもなりますし、チームの活動などを通じて、日本人がハワイの人々とコミュニケーションを取れるコミュニティも生まれそうですね。

本田 ハワイローカルのトレーニングチームに入っている日本人もいますし、それらのチームはコーチを雇っているので、ある意味ビジネスでもあるんです。

イゲット ハワイの魅力はどういった部分でしょうか。

本田 過ごしやすい気候ですし、文化的にも人的にも食べ物もすべてですね。サーフィンをするのに波もいいし、体を動かさないともったいない気がします。

イゲット 人のどんな部分が魅力ですか。

本田 アメリカ的でないところいうか….実は僕はアメリカがあまり好きじゃないんです。

イゲット そうなんですか?

本田 アメリカに10年住んでみて、物質主義が強すぎて違う方向に行ってるんじゃないかという気がします。

イゲット ハワイは違うと。

本田 ハワイはアメリカじゃないと思っています。物よりは精神主義ですし、人種もすごくミックスされている。そういう場所だから、凄い車に乗ったり凄い格好をしたりして物質主義に走っても、浮いちゃってカッコ良くないじゃないですか。

米国と日本の違いはどこにあるか

本田直之

本田直之

イゲット 留学されていたアリゾナでは、日本との教育の違いは感じましたか?

本田 ロジカルに物事を捉えて表現しないと何も伝わらない、ということを学びましたね。それと、何かのチームや事業に参加するときは、自分の持つ何かを出さないと意味がない。チームに貢献するという考え方は凄く勉強になりました。

今は明治大学と上智大学で非常勤講師やっていて、よく生徒から「MBAはどうか?」と聞かれるんですが、僕は今の時代には必要ないと思っています。大企業の管理職になりたいなら別ですが、ビジネスを勉強してもあまり意味はない。マーケティングセオリーなどは、自分で本を読めばある程度分かるし、今のベンチャーがやっているのは過去に事例のないことばかりです。下手にケーススタディをやっても、今の事例に当てはまらないことが多くて、それに囚われるほうが怖いと思いますね。

イゲット 私の息子が今16歳で、13年間アメリカで教育を受けさせて分かった違いを『経営者を育てるハワイの親 労働者を育てる日本の親』に書きました。日本では同じ教科書をずっと使って同じ勉強をしているところなど、遅れていると部分が多々あります。子どもたちの未来は今とは全然違う形になると思うので、親が古い考えのまま足を引っ張る状態はまずい。だからお父さん、お母さん世代に「ほかの国はこんなことをやっているんですよ」と伝えたかったんです。

本田 読ませていただきましたが、その部分がすごく良いと思いましたね。日本の教育もMBAもそうですが、優秀な労働者を作る教育です。大体みんなが行きたがるのはコンサルティングファームだったり、外資の金融だったり、何か自分でやろうというところではない。経営的センスを磨くなら、変にそういう教育を受けないほうが良いと思います。

本田直之氏のビジネススタイル

合わない人とは仕事をしない

イゲット 本田さんは常に新しい試みを提案、実行していますが、新たなことに対する恐怖みたいなものはないのですか。

本田 ないですね。それはエリート路線に乗っていないから。乗っちゃうとそこから外れるのが怖くなるじゃないですか。やりたいようにやって、上手くいかなければ変えなければいい。

イゲット さまざまな国の方とビジネスをされる中で、ビジネススタイルや人種による違いにどう対応しているのでしょうか。

本田 僕が通っていたサンダーバード国際経営大学院はインターナショナルビジネスにフォーカスしていたので、世界中から生徒が来ていました。何かプロジェクトをやるにしても、全く違う考え方の人たちと関わるうちに慣れましたね。人種に関係なく、合わない人とは仕事をしないだけですし。

イゲット 合う、合わないの基準はどういうところでしょうか?

本田 何かやるときの温度感というか、まず会社員的な発想の人とは合いませんね。起業家的な発想の人なのか、会社員的なのかというだけです。ハワイでも優秀な起業家たちはルーズではないし、仕事の能力が凄く高い。

ビジネススクールに通っていた時に思ったのは、アメリカ人でも本当に優秀な人たちは、いろんな変なことをいう人たちの意見を全部聞きながら、最終的に自分たちが目指す方向に持って行くんです。ディベートと言っても、実際は単なる言い合いみたいになることがよくあるのですが、それを凄くうまくまとめるのが優秀なリーダー。意外に日本人的だなと感じました。

イゲット 私もアメリカ人は“me, me, me”と自己主張が強いのが当たり前だと思っていたから、どうやってまとめるのかなと思っていましたが、できる人はチームプレイヤーですよね。今、ハワイで女性のリーダーを育成するプログラムに参加しているのですが、そこでもチームプレーを重視しています。うちの息子も小さいうちからそうした環境でトレーニングされているので、勉強になることが多いです。

本田 そういう人とは仕事をしたいと思います。「この人種はこんな感じ」みたいなある程度の方向性はあると思いますが、優秀な人はどの国でも変わらないなと。僕の会社はいろんなところに出資していて、さまざまな会社とパートナーシップを組まないといけない。そこは上下関係ではなくて横並びの感覚でやっています。

投資する会社の基準をどこに置くか

イゲット 投資する会社の基準はどこに置いていますか。

本田 人です。事業内容は計画書を見ても、本当に上手くいくかどうか分からないじゃないですか。1つの事業が上手くいかなくても、上手くいくまで何かをやるような人に投資します。事業プランだけすごくてお金を一杯集めても、上手くいかなくなると逃げちゃう人もいますから。

イゲット 逃げられたことがあるんですか?

本田 ありますよ。最初の頃、アメリカ人の友達に出資していたことがあるんですが、彼は起業に向いてないと会社員になっちゃいました(笑)。まさかそんな発想になるとは思わなかったので面白いなあと。今では、最初に投資した時とは違う事業をやってる会社が何社かあります。

あと、投資の対象になるのは長く知っている人ですね。儲かりそうという観点でやるのは何か違うなと。もちろんリターンが取れればいいですが、応援したいとか上手くいかなくても別にいいやと思える人。だから、普通のベンチャーキャピタルとはちょっと違います。一緒に何か面白いことをやりたいとうのが根本にあって、儲からなくても自己資金なので自分が損するだけですから。

執筆活動とマルチタスクをこなす秘訣

本田直之とイゲット千恵子

本田直之とイゲット千恵子

イゲット 本田さんは今まで何冊ぐらい本を書かれたんですか。

本田 69冊です。

イゲット 凄いですね。本を書くことは本田さんにとってどういう位置付けでしょうか。

本田 20年以上前のアメリカに留学した時から本を書きたいなと思っていました。会社と違って、個人の場合は信頼性を高めるのがすごく難しい。同じようなことをやっていても、知られているかどうかで全く違ってきます。そのことが重要になる時代が来るだろうなと思っていました。あとは、自分の体験や見てきたいろんな良いものを、多くの人に端的に伝えられるのが本を書くということでした。それでインスパイアされて、新しいチャレンジをする人の助けになればいいなと。

イゲット 今後もライフワークとして執筆を続けるのでしょうか。

本田 はい。生活の中で面白いものを見つけて書いているので、日々の行動がネタです。例えば今はシェフや日本酒の作り手、農業、漁業などを営む若いクリエーターを応援して、彼らのプレゼンスを上げることに取り組んでいます。たとえば、フランスでは日本人のフレンチシェフがすごく評価されていて、そのことを5年くらい前に本に書きました。今でこそ、テレビなどでそうしたシェフが取り上げられるようになりましたが、当時はほとんど知られていなかった。

イゲット 日本人のクオリティの高さや、物事を極める部分は世界から認められていますよね。

本田 料理人は毎日、客から上手いだのまずいだの評価されて、工夫しながら味をつくっているので、とても面白いと思っています。

イゲット 究極のクリエイターですよね。

本田 今後はオリジナリティがすごく重要になるので、僕の本を通して知ってもらえれば彼らのブランディングになるでしょう。今、本にするつもりで日経BPのウェブメディアで「賛否両論=オリジナリティ 」というコーナーを連載していますが、面白い人ばかり出てくるのでかなり人気になっています。

イゲット ハワイにも日本のレストランがたくさん出店してますが、苦戦しているところも多いですよね。私も起業して5年経ちますが、最初の頃は毎日が問題解決の連続で、日本での起業よりすごく大変な部分もあると思います。

本田 日本人は独特のオリジナリティあるのに、それを上手く使えていないところがあります。例えば、ハワイで飲食店をやるにも、ちょっとアメリカっぽくしたいと考えてしまって、埋もれてしまうようなケースがある。逆にメチャクチャ日本的にやれば、みんな面白みを感じてくれるかもしれない。

イゲット 日本人のアイデンティティの出し方というか、表現することに慣れてない部分はあると感じますね。ところで、本田さん自身は料理されるんですか?

本田 僕はできないんで、50歳までのあと1年でできるようになろうと考えています(笑)。50歳から60歳にかけて自分で料理するほうに回ろうかなと。将来は料理本を出すようになっているかもしれませんね。

イゲット マルチタスクを効率よくこなす秘訣は何でしょうか。

本田 僕は1つのことをずっと長くやり続けるのが苦手なんです。何個も違うことをやるほうが好き。よく、何が本業かと聞かれるんですが、いろんなものが組み合わさっていて、業界に関係なくいろんなところに出資もしている。ただ、シングルタスクが得意な人もいるので、自分がどこに向いているかを見極めることが大事です。昔は、1つのことをやり続けることが大事だという教えが多かったですが、自分はそれができなくてよく落ち着きがないと言われていました。

イゲット 私もそうでした(笑)

本田 それって個性を潰すことじゃないかと思うんです。僕は先生の言うことに合わせなかったから良かったけど、合わせたために自分はダメだと思いこんでいたら悲惨な人生だったと思います。学生時代は全く違うアルバイトを3つ同時にやっていて、1つの仕事のやり方を別の仕事に応用して、仕事ができると評価されたりしていました。そういうことが、オリジナリティにもつながりますし。

イゲット 今後やりたいことは何ですか。

本田 本を書き続けるし、ウェブの連載もやるし、継続して若手のクリエイター、モノづくりに取り組む人たちを応援するプラットフォームを作れたらいいなと思います。今はアミューズという事務所に所属しているのですが、それもメディアに出ることで活動を知ってもらえると考えたから。自分が出たいというよりは、番組をプロデュースして、いろんな面白い人たちを知ってもらえる場所を作ろうと考えています。

日本とハワイの教育について考えること

イゲット 最近の日本の若い人たちについてどう思いますか。

本田 幅が広いし、優秀な人が多いと思います。オジサンたちは今の若い子たちは草食系だとか物を買わないとか言うけど、「分かってないな」と思いますね。若い子たちにオジサンたちと同じような物欲はないのは当たり前で、車がなくても生きていけるし、ブランド物が欲しいみたいな気持ちもない。むしろ体験を求めるなど、本質的な方向に行っています。今の子たちのほうが進化しているので、そっちを見ないと。

イゲット 大学ではどんな講義をしているんですか?

本田 「先生と親の言うことを信じるな」と。職業の選択は、事実を知っているかどうかなんです。幼稚園の子供がパイロットやお巡りさんになりたいと言うのは、その職業を知っているから。「グーグルを超える会社を作りたい」と絶対言わないのは知らないからです(笑)。生き方もどれが正解かではなく、1人で旅しながら生きるみたいな人生もあるよと。オプションをたくさん見た中で、自分にどれが向いているかを考えないと。

イゲット 日本は1つの正解主義というか、答えがあってそこに向かって引っ張っていく教えですからね。でも、失敗したほうが経験値が増えるという考え方もあると伝えたいですね。

本田 日本の教育も良い部分があると思いますが、みんなが同じことをやるのではなく、もっと選択肢があってもいいと思います。

イゲット 日本の教育も今後変わっていくんでしょうか。

本田 私立の学校しか変えられないと思いますよ。公立は幅広く見ないといけないので、どうしても全員平等主義になってしまいます。今、いろんな地方自治体の人と話す機会が多いのですが、全員を平等に良くしなければいけないという点では同じです。ただ、その中で言えば福岡市はものすごく変化しています。高島宗一郎市長は、「自治体は全員を良くしないといけないが、全員を良くしようとすると全体が悪くなる。だから全体を良くするために何するかを考えないといけない」と言っていました。それでベンチャー企業への投資など、いろんなことをやっている。彼が市長になってから劇的に変わりましたね。

イゲット 日本の地方では、親が経済的な事情から仕送りできないため、優秀な子たちを東京の大学に行かせられないケースが増えていると聞きます。それで、ハワイも優秀な子たちがみんな出ていって、戻ってくるケースが少ないということを思い出しました。

本田 ハワイは学費を安くしないと、戻ってこないでしょうね。

イゲット 家賃も高いから戻ってこなくなるんですよね。日本でも優秀な子たちは、今は割と地方に残ってる気がします。

本田 福岡には移住も増えているんです。2年ほど前に『脱東京』という本を書きましたが、今はインターネットもあるし移動コストも下がっているので、東京にいなくても仕事はできてしまう。僕も旅しながら生きていますが、東京と同じだけ稼げるなら地方にいたほうが可処分所得も可処分時間も増えます。自分のライフスタイルに合う町に住めるようになったということです。

イゲット 家族で移住という選択肢も増えるでしょうね。ハワイは教育費や物価が高いので、限られた人しか来られないという部分はありますが、家族でグローバル化するという意味では、日本に留まらずに移住するライフスタイルもありかなと思います。

イゲット千恵子 (いげっと・ちえこ)(Beauti Therapy LLC社長)。大学卒業後、外資系企業勤務を経てネイルサロンを開業。14年前にハワイに移住し、5年前に起業。敏感肌専門のエステサロン、化粧品会社、美容スクール、通販サイト経営、セミナー、講演活動、教育移住コンサルタントなどをしながら世界を周り、バイリンガルの子供を国際ビジネスマンに育成中。2017年4月『経営者を育てハワイの親 労働者を育てる日本の親』(経済界)を上梓。

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