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技術確立前の起業がブレークスルーを後押し―出雲 充(ユーグレナ社長)

ユーグレナ社長 出雲 充氏

発展途上国で栄養失調に苦しむ人々を救うという志を抱いて起業したのが、ユーグレナの出雲充社長だ。ミドリムシ(学名:ユーグレナ)の特性に着目し、事業化を決断。強い意志で研究開発をやり遂げ、今まで誰も実現していなかったミドリムシの屋外大量培養に成功した。今やミドリムシを用いた製品は健康食品や化粧品で展開しているが、ジェット燃料としての研究が進むなど、未開拓の領域が広がっており、さらなる事業拡大が期待されている。文=村田晋一郎 Photo=佐藤元樹

出雲 充・ユーグレナ社長プロフィール

出雲充

いずも・みつる 1980年生まれ、広島県出身。2002年東京大学農学部卒業、東京三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。05年8月ユーグレナを創業し、代表取締役社長に就任。「日本ベンチャー大賞」内閣総理大臣賞をはじめ受賞多数。

ユーグレナ起業につながったバングラデッシュの体験

栄養失調の子どもを元気に

 出雲充がユーグレナを起業する最初のきっかけは東京大学1年の夏休みにインターンで訪れたバングラデシュでの体験だった。

 世界で最も貧しいと言われる国で、栄養失調に苦しむ人たちを目の当たりにし、この人々の栄養の問題を解決したいと思うようになる。そして栄養の勉強をするために、当時在籍していた文科Ⅲ類から農学部に転部。同時期にユーグレナを一緒に立ち上げることになる1年後輩の鈴木健吾(ユーグレナ取締役 研究開発担当)と出会い、ミドリムシが栄養失調を解決できる可能性があることを知る。

 「ミドリムシをバングラデシュに持って行って、栄養失調の子どもたちに元気になってもらおうと決めた」と出雲はその時の決意を語る。

 当時の問題は研究費がないことだった。そこで鈴木が大学に残って研究を続け、出雲は大学卒業後、東京三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に就職する。銀行に入れば、世の中のお金の流れが分かり、資金調達に役立つかもしれないという思いがあったからだが、結局1年で銀行を辞め、起業の準備に入る。

 そして2005年8月、鈴木ら創業メンバー3人でユーグレナを起業する。この時点でミドリムシの屋外大量培養技術は完成していなかった。しかもミドリムシの屋外大量培養はそれまで世界で誰も実現しておらず、出雲も自信があって起業したわけではなかった。通常、大学発ベンチャーは、ある技術を開発・完成させ、その成果を事業化するが、出雲はその順番の起業では新しいことはできないという。この時の心境を次のように振り返る。

 「技術は完成していなかったですが、先に会社をつくると私も周囲も焦りますよ。もちろん毎日、みんな限界まで研究していたのですが、会社をつくってしまって、何もできないまま潰れるわけにはいきません。そうすると、今日はもう1回だけ実験をしたら帰宅しようという気持ちになります。ほかの人が諦めてしまうところで諦めたら新しいことはできません。あともうひと踏ん張り頑張ろうと思うための動機はいろいろあると思いますが、私の場合、バングラデシュの子どもたちの栄養失調を解決したいという思いで、会社を先につくったことでした」

 先に起業したことが「背水の陣」となり、ブレークスルーにつながったかたちだ。

世界で初めてミドリムシの培養に成功

 そもそもミドリムシの培養は、農芸化学であり、非常に泥臭い世界だ。地味に実験して、うまくいかなくて、また実験して、うまくいかなくて、何十回、何百回、何千回といろいろ実験しているうちに勘が働いてくる領域だという。センスではなく、何回手を動かして、トライアルをやるかが重要となる。

 何百回、何千回と実験を重ねていった結果、05年12月16日、ついに世界で初めてミドリムシの屋外大量培養に成功する。出雲と鈴木がミドリムシをやると決めたのは、東大3年次の00年で、それから5年費やしたことになる。

 しかし出雲らの5年の研究だけで実現できたわけではないという。日本でミドリムシの培養の研究は1980年頃から始まっていた。出雲と鈴木は、ミドリムシの研究を始めるにあたり、北海道から沖縄まで日本中の大学のミドリムシの研究室を訪ね、それまでの研究について教授たちから学んでいった。その意味では、出雲らの成功は日本中のミドリムシ研究者たちの25年の成果が結実したものといえる。

技術的ブレークスルーから事業確立へ

伊藤忠の採用決定を突破口に

 ミドリムシの屋外大量培養には成功したものの、当初は思うように売れず、実際にビジネスが軌道に乗るまでには、さらに約2年半を要した。ミドリムシは全く新しいものであったため、前例や実績を重視する日本の商慣習やベンチャーへの偏見が大きな障壁となった。

 「ミドリムシがどんなに凄くて良い物だと説明しても、なんでベンチャーがそんなすごいことができるのか。本当にすごいなら、アメリカの企業や日本でも大手企業がやっているはずだなど、実績、前例がないから駄目だと言われ続けました」と出雲はその時の苦労を語る。

 突破口になったのは、08年5月に伊藤忠商事が採用したこと。実績がない、他社が手を付けていない新しい製品だったことが、逆に伊藤忠にとってミドリムシを売り出す動機となった。伊藤忠のサポートを受けてからビジネスは順調に展開できているという。

 現在、製品としては飲料と化粧品を中心に展開しているが、ジェット燃料としての研究も進められている。その広がりを出雲は次のように語る。

 「ミドリムシが栄養学的にすごく良いことは、大学3年生の時から確信していましたし、それで一生ミドリムシをやろうと決めましたから、その思いは全く変わっていませんが、ミドリムシの最高に面白いところは、ミドリムシは分かっていないことだらけで、やればやるほど、いろんなことが分かってくることです」

 パートナー会社が、「今こういうところで困っているが、ミドリムシで解決できませんか?」といろんなテーマを与えてきて、研究すればするほど、ジェット燃料に使える、水の清浄に使える、CO2削減効果もあるということが分かってきた。ミドリムシには未開拓の分野が相当にあり、これから大発見が生まれる可能性があることを出雲は確信しているが、その到達点は出雲自身も予見できていないという。

技術開発競争で圧倒的優位に

 それだけ大きな可能性を秘めるミドリムシなら、競合環境が気になるが、出雲はあまり心配していない。

 もともと農芸化学、発酵技術は日本が進んでいる分野であり、他国と比べて研究者の層も厚い。特に微生物を発酵させる技術では、醤油のキッコーマン、乳酸菌のヤクルト、アミノ酸の味の素と、世界でも圧倒的なトップメーカーが揃っている。出雲もビジネスモデルとしてこの3社を意識し、3社のようなビジネス展開をやっていきたいと思っている。

 アメリカにも優秀な研究者はいるだろうが、ミドリムシに関して、日本はアメリカを2周引き離している状況だと出雲は見ている。アメリカは技術で周回遅れの分野があれば、企業買収などあらゆる手を駆使して追い付き追い越そうとするが、これが2周遅れになると、その分野での競争をやめ、別の勝てる分野にリソースをシフトする傾向にあるという。

 「われわれがミドリムシの技術を完成させて、約12年たちますが、12年の差を追い付いて追い越すことは容易ではありません。もちろん油断しているわけではないですが、12年間われわれも何もしていないわけではないので、2周離していれば、技術開発競争では、セーフティーゾーンだと思っています」

ユーグレナが成長するための課題とは

 むしろユーグレナの課題は、事業の成長に合わせた自らの変革だろう。17年9月期には売上高150億円を見込んでいる。5年で5倍以上の急成長となるが、それだけミドリムシの取扱量も急増、需要がひっ迫している状況だ。生産体制を整備するため、生産工場の増産工事を実施し、昨年末の年産80トンから倍増の160トン体制に移行、今年2月に本格稼働を開始した。

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 往々にしてベンチャーは十分な供給能力が備わっていないため、そのコントロールを間違えると、欠品状態や品質の低下を招き、長期的には顧客の信頼を損なう。そしてブランドが確立できないまま、製品がブームで終わってしまうケースがある。ユーグレナとしても、供給体制の整備と供給量のコントロール、品質の維持が急務となっている。

 また、現在の会社の規模は出雲がすべてを把握できているが、今後事業が拡大し、それが困難な規模になっていくと、人の問題が重要になってくる。人の問題について、出雲はその人が優秀であるかどうか以上に個々の能力を十分に発揮できているかを重視している。環境に左右されて本来の実力の半分しか発揮できない人もいれば、2倍活躍できる人もいる。

 そこで、どうしたら2倍活躍できるか、どうしたら半分にならないかを考えて会社を運営してきた。現在の一つの結論は「あ・た・ま(明るく・楽しく・前向きにの頭文字をとってつけたユーグレナ社員の行動指針の一つ)」だと語る。

 「人は明るくて楽しくて前向きな人と一緒にいると、明るくて楽しくてやる気になります。ですから(トップである)私自身が明るくて楽しくて前向きになることが重要で、これは人数に関係なく組織運営で大切なことだと思っています」

 社員一人一人が十分に能力を発揮できる環境を整え、さらなる成長を目指していく。(敬称略)

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