広告掲載
経営者に愛読される雑誌に記事を掲載しませんか?

カリスマQBブレイディの来日でもアメフト人気が盛り上がらない理由

アメフトにおける最重要なポジション=QB

トム・ブレイディ選手

史上最高のクォーターバック(QB)と呼ばれるトム・ブレイディ選手

  史上最高のクォーターバック(QB)、トム・ブレイディが6月21、22日の2日間、来日した。

 「史上最高のQB」と言っても、アメリカンフットボールを知らない人にとってみれば、なんのことかわからないかもしれない。しかしこれをサッカー界に置き換えれば、ブラジルのペレ、ゴルフ界に置き換えればジャック・ニクラス、バスケットならマイケル・ジョーダンと言っていいほどの存在だ。しかもこの3人と違いブレイディはいまだ現役だ。

 プロアメリカンフットボールリーグ「NFL」は、全米でもっとも人気の高いスポーツだ。アメリカにはMLB(野球)、NBA(バスケット)、NHL(アイスホッケー)、そしてNFLの4大プロスポーツがあるが、NFLはダントツの人気を誇る。その証拠がテレビ視聴率で、毎年2月第1日曜日に開かれる「スーパーボウル」(後述)の視聴率は毎年50%に迫り、常に年間トップを記録する。アメリカの歴代視聴率トップ10のうち、スーパーボウルが9を占めている。

 NFLの開幕は毎年9月。17週の間にレギュラーシーズン16試合が行われ、1月にプレーオフ、そして2月にチャンピオンを決めるスーパーボウルが開かれる。

 今年の51回スーパーボウルを制したのはニューイングランド・ペイトリオッツ(以下パッツ)で、アトランタ付・ファルコンズを34対28で下し、2年ぶり5回目の優勝を果たした。そしてこの試合は、スーパーボウル史に刻まれるものとなった。

 それまでの50回のスーパーボウルのうち、最大の逆転劇は10点差をひっくり返したものだった。ところがこの試合、第3クォーター半ばまで28対3でファルコンズがリードしていた。その差25点。常識的には逆転不可能な点差だ。

 ところがそこからパッツの大反撃が始まり、試合終了間際についに28対28と追いつき、オーバータイム(延長戦)に突入。最初に攻撃権を得たパッツはこの攻撃をタッチダウンに結び付け、勝利を収めた。史上最大の逆転劇だった。(今年のスーパーボウルは2月5日だったが、1カ月後の3月28日にはこの試合を振り返るSNSが数多く見られた。それほどまでに3-28からの逆転が強烈だったことの証でもある)

 この逆転劇を演出したのがQBのブレイディだった。

 アメフトにおけるQBの役割は大きく、その能力が勝敗の行方を大きく左右する。野球で言えばピッチャーとキャッチャーを兼ね備えたようなもので、攻撃を考えフォーメーションを指示し、パスを投げる。攻撃の選手はQBを守ることに全力を尽くし、逆に守備選手はQBを潰そうと襲い掛かる。アメリカンフットボールは選手交代が自由だが、NFLのQBはよほどの大差がつかない限り、攻撃の全プレーに参加する。つまり代替の効かない存在なのだ。

最高峰QBブレイディの勝負強さ

 ブレイディはそのQBの中でも最高峰に位置している。

 2000年のドラフト6巡でパッツにピックアップされたが、その順位から見ても当初の評価は高くなかった。しかし01年シーズンには先輩QBのケガもあり先発に定着。するとチームは勢いに乗り、そのまま翌年2月のスーパーボウルを制覇した。パッツの優勝はこれが初めて。ブレイディはこの試合のMVPに選ばれたが、24歳での受賞はQBとしての最年少記録であり、いまだ破られていない。

 その後パッツとブレイディは、04年と05年のスーパーボウルを連覇。

 NFLは戦力均衡に力を入れており、登録選手の年俸総額の上限の厳守が命じられている。その中でスーパーボウルを連覇することは非常に難しく、これ以降、どのチームも果たしていない。そのためパッツの4年に3度の優勝は「Dynasty」(王朝)と高く評されている。

 ブレイディは08年と12年にもスーパーボウルに駒を進めるが、ともにニューヨーク・ジャイアンツに涙を飲む。しかし15年にはシアトル・シーホークスを破り4度目の戴冠、さらに今年5度目の優勝を果たした。QBとして5度のスーパーボウル制覇は史上初。さらには3度目を除く4試合でMVPに選ばれているが、これも史上最多である。

 QBの評価はパスの成功率や獲得距離、タッチダウン数などで決まる。その点においてブレイディを上回るQBは何人もいる。

 しかしブレイディほど勝負強く、また勝利にかける執念の強いQBは他にいない。それがスーパーボウル5回制覇につながった。しかも39歳になった今なお、衰えを見せないどころか、ブレイディ曰く「さらに上を目指している」。それこそが史上最高のQBと呼ばれる所以だ。

 ちなみに写真を見てもわかるように、ブレイディはアメフト選手の中では超イケメン。過去に何度も「もっともハンサムな顔100人」に選ばれている。妻は元スーパーモデルのジゼル・ブンチェンで、夫婦で年間100億円を稼ぐスーパーセレブでもある。

QBブレイディ来日でアメフトファンは大騒ぎに

トム・ブレイディ

来日初日に開催されたクリニックは大盛況に

 前置きが長くなった。そのブレイディが来日するとのニュースが流れたのが5月末のこと。ブレイディが契約するアンダーアーマーが、新商品を発売するにあたりアジアツアーを行い、その一環として来日、初日に高校や大学のフットボーラー相手にクリニックを行い、翌日、新製品発表会に臨むというのだ。

 その直後から日本のアメフトファンの間では大騒ぎとなった。「これほどのスーパースターが来日することは今後ありえない。何が何でも行くべし」。というわけである。

 来日初日となった6月21日、ブレイディによるクリニック(レッスン)は午後5時半から有明コロシアムで行われた。当日はあいにくの風雨だったが、ブレイディ見たさに3400人のファンが集まった。

 ブレイディは学生相手にパスの投げ方、ステップの踏み方を伝授、ブレイディ自身もかなりのパスを投げ、最後は20ヤード先の1メートル四方のカゴにパスを見事に投げ込み、喝采を浴びていた。

 さらに翌日は、アンダーアーマーの日本代理店を務めるドームの本社で、ブレイディが開発にも関わったパジャマの製品発表が行われた。

 スポーツウエアではなくなぜパジャマ? と思う人も大いに違いないが「ベストのパフォーマンスを発揮するには、リカバリーが重要だ。そのためにも質の高い睡眠を取る必要がある」(ブレイディ)という観点から開発された。ちなみにブレイディが睡眠の質を高めるためにやっているのは、早寝早起き、静かな環境、室温は1年を通じて20.5度、そしてこのパジャマだそうだ。

 こうしたイベント以外にも、ブレイディは相撲部屋に行きぶつかり稽古をするなど、短い滞在時間の中で日本を満喫したようだ。

 アメフトから見捨てられる日本市場

 こうしたブレイディの一挙手一投足は、SNSなどでも拡散され、NFLファンの話題を独占した。

 問題は、これほどのスポーツ界のスーパースターが来日したにもかかわらず、ほとんどニュースにならなかったことだ。ファンの熱気と一般の扱いの温度差。それこそが日本におけるNFLのポジションを示している。

 日本ではアメフトはマイナースポーツだが、それでも毎年正月に行われる日本一決定戦「ライスボウル」では、東京ドームに3万人ほどの観客を集めている。また選手たちのレベルも世界的に低いわけではなく、第1回、第2回のワールドカップを連覇、その後もコンスタントに上位に位置している。しかしNFLの認知度はどうか。アメリカでは断トツなのに、日本ではMLB、NBAに次ぐ3番手といったところだろう。

 過去には何度かNFLがブームになったことがある。1970年代にはマイアミ・ドルフィンズなどのチームが人気となり、NFLチームのロゴが入った書類ケースをバッグにしたものを学生たちが持ち歩いていた。80~90年代にかけては第二次ブームが到来、当時の最強QBであるジョー・モンタナが三菱電機のテレビのCMに出演し、「どんなモンタナ」と、見ているほうが恥ずかしくなるダジャレを言っていたという歴史もある。

 NFLにとっても日本は開拓すべきマーケットだった。かつては日本でのNFL人気を高めるために、2年に1度、東京ドームでプレシーズンマッチを行い、前年のスーパーボウルチャンピオンチームが試合をしたこともある。しかし人気は一向に上がらない。

 一つには、いまだ1人も日本人選手が誕生していないこともあるだろう。日本でMLB人気が高まったのは、野茂英雄が海を渡ってからだ。その後、イチローや松井秀喜が活躍するたびに、MLBファンは増えていった。NBAも、ジョーダンらの活躍が人気を集めてはいたが、田伏勇太が2004年に日本人初のNBAプレーヤーになったことで、それまでのバスケファン以外の注目を集めた。

 NFLでも、惜しいところまで行った日本人選手は何人かいた。キャンプに招かれた選手もいたし、下部リーグのNFLヨーロッパ(現在は解散)には何人もの日本人選手が活躍していた。また日本人対象とした選考のためのワークアウトも開かれていた。しかし残念ながら日本人NFL選手は出ていない。

 そして最近では、NFLの日本への関心が薄れつつあるようだ。一昨年まで、NFLの試合はNHKBSと、スカパーのG+(日本テレビ系)とGAORA(毎日放送系)で見ることができた。

 しかし昨年、GAORAのNFL中継がなくなった。契約面で折り合いがつかなかったことがその理由だ。もしNFLが日本でのファン層拡大を目指すのであれば、放映を優先させるはず。それをしなかったことは、無理してファンを拡大しなくていいというNFLの態度が見え隠れする。またNHKBSにしてもG+にしても、かつてより中継試合数が減っている。これも放映権料との兼ね合いと思われる。

 日本市場に代わってNFLが目を付けたのが中国市場だ。ブレイディは来日する前、中国で北京、上海を訪問しているが、そこでのインタビューで次のように答えている。

 「いつかここ中国で試合をするのが夢。1年を通してたくさんの試合が行われることを願うよ」

 日本におけるNFL公式サイト「NFL JAPAN」によると、18年にもレギュラーシーズンの試合が行われる可能性があるという。これまでNFLが海外で試合を行ったのは、イギリスとメキシコのみ。中国で試合をするということは、距離と文化の壁を乗り越えることになる。

 そしてその時、NFLは日本を素通りする。スポーツの世界でもジャパン・パッシングが起きつつある。

経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る