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幕末からよみがえった都心の酒蔵 東京港醸造

東京港醸造代表 齊藤俊一氏

東京・港区芝のオフィス街の一角の小さなビルで酒造りを行っているのが、東京港醸造だ。ルーツは江戸時代に創業した酒蔵で、一度廃業した後、100年の時を経て再興した。ミニブリュワリーの特徴や、都心ならではの仕掛けを駆使し、歴史的背景も相まって、「東京の酒」としての存在感を高めている。

東京港醸造は100年ぶりに酒蔵を再興した23区唯一の酒造

 東京港醸造の母体である若松屋は1812年創業で造り酒屋を営み、薩摩藩の御用商人として栄えていた。しかし1911年に酒造りを廃業し、現在は雑貨小売業が主体となっている。2011年に7代目当主である齊藤俊一氏が約100年ぶりに酒造りを復活させ、現在は東京23区で唯一の酒蔵となっている。

 始まりは今から15年前、齊藤氏が地元商店街の連合会役員に就任し、地域の活性化を考えるようになったこと。そして、地方を視察に行った際、酒蔵が地域の要となる存在であると感じたという。酒蔵は地域での信用が高いことや、観光拠点にもなっており、さらに地域の土産物屋には地酒が並ぶ。酒蔵を興すことが地域の活性化につながるのではないかと考えた。また、かつては家業が酒造りだったことからも、酒蔵を復活させたいと思うようになった。

 当時は清酒の販売数量が落ち、酒造りの事業性が疑問視されていた。齊藤氏自身、調べれば調べるほど酒造りは無理だと思ったという。また、都心でのミニブリュワリーの酒造りの価値をいかに見いだすかも思案していた。

 大きく前進するきっかけは、杜氏の寺澤善実氏との出会いだった。京都の大手酒造メーカーが2000年4月、港区台場のショッピングセンター内に飲食店に併設する実験的な醸造所を設けたが、寺澤氏はその担当として、ミニブリュワリーでの小規模な酒造りのノウハウを高めていった。その後、醸造所は閉鎖され、寺澤氏が齊藤氏の酒造りに加わることになった。

 とはいえ、酒造りを再開しようにも、100年前に廃業していたため、齊藤氏は酒造免許を取得することから始めなければならなかった。最初は税務署から門前払いの扱いだったが、約2年がかりで新規で取得しやすい「その他の醸造酒(どぶろく)」と「リキュール酒」の免許を取得。11年に東京港醸造を開業し、どぶろくとリキュール酒の製造・販売を始めた。

 しかし齊藤氏と寺澤氏の清酒への思いは強く、清酒の免許取得に取り組む。そもそも清酒の新規免許は発行しない流れになっており、非常に困難を極めたが、16年7月にようやく清酒免許を取得した。

東京港醸造の酒造りは都心ならではのミニブリュワリー

純米吟醸原酒 江戸開城

 東京港醸造の酒造りはもともと齊藤氏が所有していた敷地22坪の4階建てビルを改築して行っている。4階は麹室で、1~3階は十数基のタンクをはじめとする設備が所狭しと並び、上階から下階へと工程が流れる仕組みになっている。なお、1階の一部には販売所も併設している。

 大手酒造メーカーは3千~5千リットルのタンクで大規模に造り、多くが1年分を冬の間に造る寒仕込みの手法を取っている。これに対し、東京港醸造は、500リットルの小さなタンクで仕込み、月にタンク4本分、2千リットルの生産体制。年間通して製造する四季醸造を行うため、各階は常に13~14度の室温を保っている。

 ただし東京港醸造は貯蔵スペースがあまり取れないため、商品がなくなれば造るという体制。現在は造れば売れる状況で、製造が追いついていないという。

 一部で朝搾りを行っており、新鮮な生酒の需要にも対応する。朝搾った酒が、夕方には近隣繁華街の飲食店で飲める体制を取っており、都心の酒蔵ならではの地の利を生かした仕組みで、流通と回転を高めている。供給不足を補うため、現在の月2千リットルから月2500リットルへ生産体制を増強する。

 東京の酒ということで、仕込み水には水道水を使っている。東京都の高度浄水処理をした水道水は中軟水で、京都の伏見の水に近い性質で酒造適性が高いという。また、現在の東京の水道水は、鉄分やマンガンといった清酒に不適切な化学物質は一切入っていない。微量の塩素は入っているが、約1カ月間発酵させる間に塩素は消えるという。伏見の水は甘口に振れる酒ができる。主力の純米吟醸原酒は「江戸開城」というブランドで展開しているが、仕込み水の特性から甘口の酒と評価されることが多いという。

東京の香りがする自然体の酒

 齊藤氏は次のように語る。

齊藤俊一・東京港醸造代表

 「お客さまには、東京の香りがするとよく言われます。お酒の質は、大吟醸のようにプンプンするようなお酒ではなく、自然体のお酒になっています。和食を食べながらでも邪魔しない酒だと言われており、寺澤杜氏もそれを望んで造っています」

 純米吟醸原酒「江戸開城 山田錦」は、17年度の東京国税局酒類鑑評会で清酒純米燗酒部門の優等賞を受賞している。

 齊藤氏によると、酒蔵が淘汰されていく中、おいしい酒ならば売れるというわけではなく、消費者は酒が醸し出すその地域のストーリーに関心を持つ傾向があるという。

 その点で、東京港醸造は幕末に若松屋が薩摩藩の御用商人だったという歴史的背景がある。西郷隆盛や勝海舟が通っていたといわれ、飲み代代わりに彼らがしたためた書が残っている。また、若松屋は奥座敷が密談に使用されており、諸説ある江戸城無血開城の会談場所の候補にも挙がっている。そうした歴史が、「江戸開城」のブランドには込められている。

 ちょうど明治150年を迎えた現在、こうした歴史的な経緯を経て、都心によみがえった酒蔵としての存在そのものが、東京港醸造と「江戸開城」の強みとなっている。

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