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サラリーマンからメガ大家に転身した安藤新之助氏が語る不動産投資の極意

安藤新之助氏

サラリーマンの副業や独立の手段として、不動産投資への関心が高まっている。とはいえ、初心者にとっては物件選びをどうするか、資金をどう調達するかなど、頭を悩ます問題も多い。人口減少が進む中、果たして不動産が魅力的な投資対象であり続けるのかという不安も残る。本稿では、年収400万円の一介のサラリーマンから、13棟の物件オーナーになって成功を収めたサクセスアーキテクト代表の安藤新之助氏の歩みとともに、不動産投資のポイントを探る。(取材・文=吉田浩)

安藤新之助氏プロフィール

安藤新之助

(あんどう・しんのすけ)1972年生まれ、愛知県出身。さまざまな職を経て、住宅メーカーでサラリーマンとして勤める傍ら、34歳で不動産投資をスタート。現在、10棟173室を保有し、総投資額15億6千万円、総資産13億円、年間家賃売り上げ1億1350万円を誇る。株式会社サクセスアーキテクト代表として、不動産の賃貸、管理、運営のほか、コンサルティングなども手掛ける。

サラリーマンだった安藤新之助氏が不動産投資を始めた経緯

 

「サラリーマン生活のリスクを思い知ったんです」

不動産投資に関心を持った理由を、安藤新之助氏はこう話す。

柔らかい雰囲気からは想像しにくいが、もともとは家業である左官職人からスタートし、接客を覚えるためにバーテンダーとして働いたり、建設現場で働いたり、営業スキルを学ぶために飛び込み営業の職に就いたりと、安藤氏はかなりバイタリティに溢れた人物だ。

かつては外資系IT機器メーカーの営業担当として、全国トップクラスの実績を残したこともある。だが、ITバブル崩壊で先輩社員たちが次々にリストラされる状況を目の当たりにした。そこで自ら会社に見切りをつけ、転職を試みたものの大苦戦。ようやく住宅メーカーに再就職したものの、この時の苦労が「他にも収益の柱を探さなければ」という考えに導いた。

将来不安を抱えたときに影響を受けたのが、台湾の実業家で作家の邱永漢氏と、『金持ち父さん貧乏父さん』著者、ロバート・キヨサキ氏だ。当時、家を買ったばかりだった安藤氏は

「本を読んで、マイホームが資産ではなく負債であると知ったときはショックを受けましたね。本来の資産は財布にお金が入ってくるもので、出ていくものではないと理解できました」

そこで、一念発起。サラリーマンを続ける傍ら、34歳で不動産投資をスタートした。

メガ大家、安藤新之助氏が語る不動産投資の極意①―物件探し

不動産投資に関して全くの素人だった安藤氏は、サラリーマン生活を続けながら関連セミナーなどに積極的に参加。書籍や教材なども費用を惜しまず買って、日々勉強を続けた。

目的は、サラリーマン収入がなくなっても、食べていけるだけの基盤を作ること。そのために、「最終的に資産規模で6億円、6千万円の家賃収入、6棟の物件」を目標に掲げた。

そして、ひたすら不動産屋に電話をかけて、めぼしい物件がないかアプローチ。こだわったのは、利回りが10%以上で、駅近くの立地か、もしくは郊外でも駐車場がしっかりあるところだ。

大小問わず、会ってくれそうな愛知県内の不動産屋を探し、延べ100社には電話したという。当時はポータルサイトも充実しておらず、収益物件があまり公開されていなかったため、いわゆるどぶ板営業を実行した。

「担当者に会えたのは3割ぐらい。こちらの身分を明かすと、大抵は邪険にされましたね」

当時は不動産投資といえば富裕層が行うもので、サラリーマンが投資目的で手を出すものではないというのが一般的な認識。ましてや、億単位の物件を1棟丸ごと購入するケースなどほとんどなかったからだ。

それでも粘り強く探した結果、何とか愛知県豊田市に価格が1億1千万円、利回りが11%の物件を紹介してもらうことができた。次の問題は、購入資金の調達である。

メガ大家、安藤新之助氏が語る不動産投資の極意②―銀行融資をいかに勝ち取るか

 

短期サイクルで次々と物件を購入

 

物件探しよりも難航したのが銀行からの融資獲得だ。ここでも安藤氏は県内の金融機関に電話をかけまくり、どぶ板作戦を展開する。門前払いは当たり前で、中にはわざわざ銀行の融資担当者に呼び出されて、お説教を食らうケースもあったという。

「いちサラリーマンが、何千万円、何億円の借り入れでやるのはそもそもおかしいと30分くらい延々と諭されたこともあります。ただ、後から分かったことですが、金融庁の指導で融資を断るときはきちんと対面で説明する義務があるので、呼び出して説教する銀行はむしろ真面目だったんですね。こちらは良い迷惑でしたが(笑)」

断られ続けるうちに、どうすれば話を聞いてくれるのかコツを掴んだ安藤氏は、満額融資を受けることに成功する。2008年7月のことだ。

融資担当者を説得するポイントについては後述するが、驚きなのはそれからわずか半年後の同年12月に、早くも2棟目の物件購入を実現したことだ。

「1棟目と別の地方銀行に融資のお願いに行ったんですが、頭がおかしいと言われました(笑)。通常は購入から3期ほど待って、しっかりと数字が出ているのを確認できないと、銀行は追加融資しませんから」

折しもリーマンショックの到来で、不動産市況も最悪。それでも、また半年後に3棟目の購入に成功、その後も突き進んで最終的に13棟を購入。現在は3棟を売却して、10棟の物件を保有するメガ大家になったのである。

不動産投資で銀行から融資を受けるポイントとは

安藤新之助

銀行融資を勝ち取るには「しっかりとした事業計画を作ることが必要」と語る安藤氏

悪条件だらけの中で、なぜ安藤氏は次々と物件購入に成功したのか。

1棟目の購入の際は、たまたま出会った銀行の担当者が不動産に詳しく、良い物件ということを理解して貰えたという幸運もあった。だが、決め手になったのはしっかりとした事業計画書を作っていたからだという。

「個人の資産運用だけが理由だと、貸し手側からは物足りなく見えるんです。彼らは個人の利殖ではなく事業に投資したい。だから、たとえば高齢化社会を見据えて、お年寄りが住みやすいように購入した物件をバリアフリーにするとか、子育て世帯のために託児所を併設するといったビジョンを語ってほしいですね。事業者としてのビジョンがないと金融機関は動かきません」

ちなみに安藤氏の場合は、将来は高齢者と子育て世代が一緒に住める賃貸マンションを作りたいという構想や、清掃をシルバー人材センターに依頼することで、意欲のある高齢者に働く場を提供するといった内容をアピールしたということだ。

もう1つ覚えておきたいのは、たとえ同じ銀行でも、支店によっては方針が変わるということ。安藤氏が融資を受けたのは、実は一度は断られた銀行の別の支店だった。何行からも断られ続けて背水の陣で電話したところ、不動産に詳しい支店長代理にたどり着けたという。

前述の通り、1棟目の時よりさらに条件が厳しくなった2棟目での購入では、紹介の力がモノを言った。このときは安藤氏が師事していた不動産投資のプロに、すでに断られていた某地方銀行の県外の支店を紹介してもらい、融資を受けることができた。

「ほとんどの銀行では、飛び込みでお金を借りに来るような人には貸すなという方針ですから、実績のある方に紹介してもらうのが一番強いんです」

さらに、日々の生活でお金や仕事を大事にしているかという部分も見られる。2棟目の融資担当者は、仕事以外にプライベートな話もよく尋ねて、安藤氏の人となりを確認していたそうだ。

「そうした際に、定期預金を10年以上やっているとか、クレジットヒストリーに一度も傷がないとか、目に見える実績を作っておくことも大事です」と語る。

不動産購入3棟目に待っていた落とし穴

 

 苦い失敗の経験もある。2棟の物件取得に成功し、イケイケで購入した3棟目が欠陥マンションだった。前オーナーの手入れが悪く、貯水槽のポンプや浄化槽や排水配管が壊れたままだったのだ。夏の朝6時に水が止まって、18世帯から一斉にクレームの嵐。漏水も月に何度か発生した。

「状態が悪いのは分かっていたのですが、自身でリカバリーできると思っていましたし、ポンプの作動状況や配管のチェックはしなかったんです。2棟目まで上手くいって、1年ちょっとで1億6千万円の資産を手に入れ、家賃収入が1800万円もあったから調子に乗っていたんですね。その驕りが祟って洗礼を受けた格好です」

立地条件も前の2棟ほどはしっかりと見ず、「自分ならなんとかできるだろう」と需給バランスの調査もおざなりだった。結局、3棟目は4年半ほどで売却することになったが、唯一、一度も満室にならなかった物件だったという。

こうした失敗を経験しつつも保有物件を増やし、ようやく資金調達に苦労しなくなったのは8棟目購入のあたりから。決して楽な道のりではなかったようだ。

「左官職人や現場管理の仕事、ハウスメーカーでのクレーム対応などの経験が役立ちましたね。管理会社がいろいろな相談にきても、自分で判断して対応するノウハウがあったから、物件が増えても回して行けました」

不動産投資には「楽して稼ぐ」イメージがあるかもしれないが、最終的には考えの軸をしっかり持つことや、課題にぶつかってもブレないメンタルの強さも必要ということが分かる。

メガ大家、安藤新之助氏が語る不動産投資市場の現状と今後の見通し

 

安藤新之助

セミナーで不動産投資について語る安藤氏

「今は不動産投資に参入する環境としては非常に良い」と、安藤氏は語る。その理由として、以前より不動産投資という行為がマーケットに認知され、物件探しや資金調達も以前よりやり易くなっていることを挙げる。

これから進む人口減少で空き物件が増えると予想されるが、その点についてはどうか。

「コンパクトシティ化で、人が減ったぶん利便性の良い街づくりに自治体が動いているので、そうした物件に投資すればまだ勝算はあると思います。ただ、需給バランスが崩れている物件は、早い時期に資産の組み換えをしないとリスクが高くなるでしょう」

3年以内に投資規模20億円、家賃収入2億円が目標と語る。その傍ら、自らの経験を活かして、賃貸物件オーナーに対してリスクを避けるノウハウなどを提供していきたいとの意気込みも見せる安藤氏。自らは泥臭さを厭わない行動で道を切り開いていったが、その過程で得た様々な学びを、世の中に広めていく考えだ。

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