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「液晶のシャープ」が有機ELスマホを発売する意味と業界への影響

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シャープが有機ELディスプレー搭載のスマートフォンを発表した。「液晶のシャープ」としてIGZOなど高機能液晶を強みとしてきたが、有機ELでも勝負できる力を有している。また初めて国産の有機ELパネルを製品化したことになる。今回の新製品は今後のシャープの試金石となる。文=村田晋一郎

液晶に翻弄されたシャープが有機ELを開発した背景

以前は「液晶の次も液晶」とこだわり続けたシャープ

シャープのAQUOS zero発表会。中央はシャープ通信事業本部長の中野吉朗氏。

 「液晶の次も液晶」と語ったのは、かつてシャープ社長を務めた片山幹雄氏。液晶テレビ「AQUOS」の大ヒットの勢いを受けて、2007年に堺工場の投資を発表した時のことだった。

 結果的にこの巨額投資は大失敗に終わり、シャープの経営危機の原因となり、片山氏は社長の座を追われた。その後、独自の液晶技術「IGZO」の実用化により、IGZO液晶搭載スマートフォンで一瞬勢いを取り戻し、「シャープを救うのはやはり液晶」という流れが起こりつつあったが、中国の液晶市場においてジャパンディスプレイ(JDI)との争いで劣勢を強いられ、液晶事業全体も低迷。最終的にシャープは16年に台湾の鴻海精密工業の傘下に入ることになった。

 振り返ると、シャープは液晶によって成長し、液晶によって窮地に追い込まれたと言える。そのシャープが「液晶の次のディスプレー技術」と目されてきた有機ディスプレーを搭載するスマートフォンを発売する。「液晶の次も液晶」と言っていた頃とは隔世の感がある。

 有機ELディスプレーと既存の液晶ディスプレーを比較すると、液晶ディスプレーは、液晶パネルが自ら発光しないため、表示に際してはバックライトが必要となる。LEDライトの採用でバックライトも薄型化し、かつ省電力化が進んでいるが、ディスプレーとしてはある程度の厚みが必要で、LEDの消費電力がかかる。また改善が進んでいるものの、原理的に黒色や動画の表示性能で難がある。さらに最近は変形ディスプレーが提案されているが、液晶はガラス基板上に成膜するため、形状の変化をつけることは難しい。

有機ELは次世代ディスプレーの本命

 一方、有機ELは素子が自ら発光するため、バックライトが不要で、なおかつプラスチック基板上に成膜できるため、薄型・軽量かつ曲面のディスプレーを実現できる。そして自発光デバイスのため、黒色や動画の表示性能も原理的には液晶ディスプレーに優っている。

 例えば、LG電子は大型で曲面の有機ELテレビを製品化している。また、高い応答速度の動画表示性能が求められるバーチャルリアリティー(VR)について、ソニー・インタラクティブエンタテインメントの「PlayStation VR」は有機ELディスプレーを採用している。

 こうした特性から有機ELは次世代ディスプレー技術として本命視されてきたが、製造が難しく、現在、韓国のLG電子とサムスン電子の2社がテレビ用とスマホ用でそれぞれほぼ独占している状況だ。日本では、産業革新機構が支援するJOLEDが開発を進めているが、製造方法が韓国2社と異なることもあり、実用化には至っていない。

有機EL開発のポテンシャルを持っていたシャープ

 シャープの有機EL開発については、もともとポテンシャルはあった。画面の表示に必要な回路基板は、有機ELも液晶もTFT基板を用いるため、液晶の技術をある程度、有機ELに応用できる。シャープの液晶技術つまりTFT基板技術が世界トップクラスであることを考えると、有機ELの部分さえ立ち上げれば、有機ELディスプレーを開発することはそれほど難しいことではなかったと見られる。かつては片山氏が液晶にこだわったことが仇となっていた。

 鴻海のシャープ支援の狙いは、経営再建やブランド獲得ではなく、有機ELディスプレー開発を見越して、液晶のTFT技術を手に入れることだったと見る向きもある。傘下入りした際に鴻海からの出資金3888億円のうち、2600億円をディスプレー事業の投資に使うが、そのうち2千億円は次世代ディスプレーの有機ELの開発に充てていた。

 そして戴正呉社長が経営の舵取りを始めてまもなく16年9月には、三重事業所と堺事業所に有機ELディスプレーのパイロットラインの投資を決定。昨年12月末にはスマホ向けの試作パネルのサンプル出荷を開始するに至っている。

シャープの有機ELビジネスの今後はどうなるか

有機EL搭載の「AQUOS zero」で画質・軽さ・国産をアピール

 有機ELディスプレーを搭載したスマホは、サムスンが「Galaxyシリーズ」で先鞭を付けたが、アップルも昨年発売の「iPhone X」でついに採用。今年9月発売の「iPhone XS Max」「iPhone XS」でも引き続き採用されており、有機ELディスプレー搭載は、ハイエンドスマホのスタンダードになりつつある。こうした流れを受けて、ソニーや中国ファーウェイなども有機ELを採用。今回のシャープの新製品もその一環にあると言える。

 シャープは昨年、ハイエンドスマホのブランドを「AQUOS R」シリーズに統一したが、今回発表した有機ELディスプレー搭載モデルは別ブランドの「AQUOS zero」としている。Zeroという名前には、これまで液晶でスマホを開発してきたシャープとしてはゼロベースでスマホを再構築する意味を込めたという。

 今回シャープが開催したAQUOS zeroの製品発表会で強調したのは、画質と軽さ、そして国内生産だった。

 まず画質については、有機ELが液晶よりも広い色域を表示できる特性を生かすために色調機能を大きく改善。「液晶では見られない濃い緑色や深い青色が表現できるようになった」(シャープ通信事業本部パーソナル通信事業部事業部長の小林繁氏)という。また、有機ELを使用することで、驚異的な軽さを実現したことを強調した。

 ハイエンドスマホは大型化に向かう傾向にあり、複数カメラの搭載などスペックが上がり部品点数が増えて重量が増大している。AQUOS zeroでは、有機ELで薄型化かつ部品点数を削減したことに加え、軽量で高い剛性の筐体を採用することで、6.2型の大型スマホでありながら軽量化を実現している。

 そして、有機ELパネルは自社生産で、国産初の有機ELディスプレー採用スマホをうたう。一昨年から開始した投資の通りに、駆動用TFT基板を製造する前工程は三重事業所、有機ELの蒸着やパネル封止を行う後工程は堺事業所が担う。そしてスマホ全体の組み立ては鴻海の工場で行う。

 「有機ELについては16年9月に投資を判断し、順調に開発を進めてきた。液晶の技術も応用し、商品化できるレベルに到達した」とシャープ通信事業本部本部長の中野吉朗氏は胸を張る。

シャープの問題は技術ではなくマネジメントだった

 日本企業について「技術は強いがマネジメントが弱い」とは近年よく言われることだが、今回の有機EL立ち上げまでのスピードを見ると、シャープのこれまでの問題がマネジメントにあったことが改めて露わになった格好だ。

 ただし、現状の製造の歩留まりや生産能力は明らかにしていない。あくまで実製品を製造できる状況にあることを強調するにとどめている。また、スマホの販売自体も18年冬モデルとして年内の発表を予定していること以外、販売キャリアや販売価格を明らかにしていない。現時点では、技術をアピールするほうに重きが置かれている印象を受ける。

 生産能力や販売台数の観点からもすぐに有機ELが液晶に取って代わることはなく、シャープとしては既存の液晶をベースに事業を展開する方針。20年にAndroidスマホでの国内シェア40%獲得する目標を掲げており、液晶搭載スマホもさらに強化していく。

シャープの有機ELの動向にアップルも注視

 実は今回のシャープの有機ELディスプレー搭載スマホの発表を最も喜んでいるのはアップルだろう。

 アップルが昨年発売したiPhone Xは売り上げが伸びていない。これを受けて、有機ELディスプレーの可能性を疑問視する声も出ている。また、有機ELパネルを提供するサムスンも有機ELの投資計画を見直す事態となっている。

 iPhone Xの売れ行きが伸び悩む最大の原因は10万円を超える端末価格にある。そして今年発売のiPhone XS MaxとiPhone XSの端末価格も同様に10万円を超えており、購入をためらうユーザーは少なくない。ここまで高価な理由の一つはサムスンが提供する有機ELパネルの価格が高いこと。現状ではサムスンしか提供できない状況であるため、パネルの価格が下がらず、それが製品価格に響いている。アップルにとっては、セカンドサプライヤーが登場すれば、競争により調達価格を引き下げることができるため、シャープの存在は無視できないはずだ。

 シャープとしても、今回のAQUOS zeroの製品化に次は、当然ながら有機ELパネルの外販も視野に入ってくる。戴社長は昨年の上場会見で有機ELの展開を問われた際に「規模でサムスンと伍していくつもりはない」と語っている。しかしAQUOS zeroが順調に立ち上がり、販売台数が伸び、パネルの生産能力を増強する事態となれば、アップルから要求が出てくる可能性がある。

 有機ELがシャープの次の飛躍のきっかけになるかもしれない。

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