経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

経営者が知っておくべき問題社員を採らないための採用面接の方法 野崎大輔

社労士・野崎大輔氏

「面接では性格が良くて有能な人に見えたのに、入社したら全然別人で……」「問題社員だとわかっていたら、うちでは採用しなかったよ」。組織づくりで経営者が頭を悩ませる問題の一つが採用だ。「働いてもらうまでわからない」では、入社後に問題社員であることが発覚した際に、その対応や排除に膨大な時間と労力を費やすことになる。組織の「悪」との闘いは採用時に始まっている。肉食系社労士・野崎大輔氏がポイントを洗い出します。(聞き手・文=大澤義幸)

採用面接の前に経営者、面接官が知っておくべき前提

「求める人材」は明確化できているか

―― 野崎さん、久々のウェブ連載です。プライベートではお肉の会食などよくご一緒していましたが。というか、リードで「肉食系社労士」と書かれてますね。別の意味に聞こえますが、野崎さんのイメージ、隠さなくて大丈夫ですか?

野崎 「隠さなくて大丈夫ですか?」って、これ書いてるの大澤さんでしょ(笑)。男は肉食ですよ。今日は採用の問題ですね。

―― はい。経営者にとって、会社にとって、採用の悩みは尽きないですよね。適性検査や数回の面接で相手の人間性を見抜くのも難しいですし。裏の顔を隠すのが上手な人もいます。採用全般を通して相手の人間性を見抜くポイントはあるのでしょうか?

野崎 あります。まず前提として、組織の「求める人材」を明確にすること。その上で、面接では「あなたは会社に入ったら何をしたいですか?」といった通り一遍の質問ではなく、「求める人材」に絡めた質問をすることです。

例えば、真面目にコツコツやりたい人を採りたいなら、何を聞けばその人の真面目さがわかるかを考えます。「今までの人生で継続してやってきたことは何ですか?」「自分で企画して最後までやり遂げたことはありますか?」とか。

――「求める人材」かどうかがわかる質問ですか。確かに意識していないと見当違いの質問ばかりして、結局何もわからなかったということになりそうです……。

野崎 その通りです。マニュアル本を鵜呑みにした面接が一番ダメ。面接だけでなく、同時に作文も書かせます。適性検査よりもよっぽど人間性が表れますよ。

採用面接で作文を書かせる理由

―― 作文はいいですね。私も以前いた会社の採用時には必ず書かせていました。もっとも、私の場合は編集職や総務の採用だったので、文章力や論理的思考力を見る意図もありましたが。

ただし、私は履歴書が手書きかどうかや、字の上手・下手は評価基準から外していました。「字が奇麗だから、この人は真面目。仕事ができそう」と話す採用担当者をよく見かけますが、筆跡鑑定士でもあるまいし。

野崎 字が奇麗かどうかと仕事能力や性格は関係ないですよね。強いて言えば、丁寧に書いているかどうかは見てもいいと思います。

―― そうですね。手書きの履歴書にこだわる会社も古い印象しか持てませんし。それよりも履歴書の書式は自由にして、必要な要素をwordやPowerPointの1~2頁にまとめさせ、それを元にプレゼンしてもらうなどはいかがですか? 企画書作成スキル、プレゼンスキルも見られますし。

野崎 なるほど。クリエイティブ職ならそうした選考もありですね。大切なことは、自社の事業や職種に合った人をどう採るかを考えること。それも「求める人材」が明確でないとできないことです。

経営者、面接官が採用面接で使える具体的なテクニック

面接で効果的な質問とは?

―― 問題社員を採用しないために、例えばどんな質問をすればいいのでしょうか?

野崎 中途であれば、履歴書や職務経歴書を見て終わりではなく、過去の仕事について、どんなポジションで何をしてきたかを聞くことが大事です。

気をつけたいのは、大企業から中小企業に転職してきた人。もちろん中小企業で頑張りたいというチャレンジ精神旺盛な人や性格の良い人もいるでしょう。しかし中には問題を起こして辞めている人もいます。

「大企業出身だから仕事ができる人だ」と思い込まず、聞くべき内容をしっかり聞くことです。また、みなさん転職回数を気にしますが、私は辞めた理由に一貫性があればいいと思っています。

―― 私も転職回数は多めですが、今は終身雇用の時代でもないですしね。履歴書に惑わされたと言えば、私が以前勤めていた会社で、コーポレート本部で採用した総務経験40年の人が入社し配属されてきたのですが、コピー機の使い方もPCの文章作成も初めてで、まともにメモも取れない。

「前職でどんな仕事をされていたんですか?」と聞くと、郵便物の封入作業や届け物などの雑用をしていたと言います。履歴書を見てみると、社内体制が変わったときに長年勤めた総務部から営業事務に異動し、すぐ辞めているんですね。つまり余剰人材で、別部署でも仕事ができなくて辞めたと。仕事ができないことが悪いのではなく、なぜそういう人を採用してしまったのかと。

野崎 それは採用担当者の落ち度ですね。面接で仕事内容についてきちんと聞かないから起こる問題です。勤続年数だけで仕事の内容や質は測れません。また会社ごとに経験則(こういう人は良かった、会社に合わなかったとか)があるはずなので、それに沿った質問をすることです。

例えば私が上場企業の人事部で新卒採用の面接をしていた頃は、福利厚生にばかり関心がある学生は落としていました。働くことにフォーカスしていないし、入社後を見ても不真面目だったことが多いので。

―― ああ、それはよくわかります。面接で「入社後は外部研修等に通って自分を磨きたい」と話す学生も、成長意欲を見せたいのでしょうが、実際に働いてもいないうちからあまり良い印象を受けませんよね。

野崎 あとは私の場合は、新卒でも中途でも失敗経験とそれをどう乗り越えたかは、本人の意欲や責任感がわかるので必ず聞きます。「失敗はありません」と安易に答える人は採りません。

ただし、「失敗という概念はありません。成功するまでやり続けたからです」と答える人は合格です。

他には、健康・病気、睡眠時間、ストレス解消の方法、飲酒と喫煙についても聞きますね。お酒で失敗する人をよく見てきましたし、喫煙者は離席時間が長いので。

これも「求める人材」や経験則に則って、やって欲しくないことを重点的に聞いているわけです。

経営者の嫌いなタイプを除外する

―― 採用担当者のスキルが問われますね。経営者が面接するのと、人事部が面接するのと、現場担当者が面接するのとで、採用基準に乖離があってはいけませんね。

野崎 社内でのすり合わせは必須です。私がコンサルティングをやるときは、経営者の好きなタイプ、嫌いなタイプついて最初に聞きます。これがその会社を見るときのベースになるので。採用では、経営者の嫌いなタイプは除外します。

―― まったく採用しないんですか?

野崎 しません。人の性格はそう簡単に変わりませんから。性格に問題のある人や会社に合わない人を雇って矯正するよりも、好きな人を雇って長所を伸ばすことに時間を割くほうがいい。

就業規則で正当な「脅し」をかける

―― 問題社員を採用しないための予防策はありますか?

野崎 とっておきがありますよ。問題社員は規則や仕事の緩そうな会社を選ぶ傾向にあるので、面接時に就業規則の罰則や懲戒規定を示し、「○○さんはないと思いますが、うちはこういうことをやると懲戒処分になり、場合によっては退職してもらいます」と牽制しておくのが効果的です。

―― それは面白い! 就業規則で正当な「脅し」をかけるわけですね。面接でそこまで説明する企業は多くはないですよね。就業規則を隠したがったり、「問題を起こしません」と念書を書かせるところはありますが……。

野崎 自社の権利だけ守ろうとしても、具体的に何がダメなのか示さないと伝わりません。問題社員気質のある志望者は「この会社は面倒だな」と思えば入社してきませんし。実際に私のコンサル先でも、これを始めてから問題社員の入社が減りました。

経営者、面接官が採用面接で注意して見るべきポイント

基本的な行動や態度ができているか

―― 面接時の態度から読み取れることはありますか? 野崎さんはどこを注意して見ますか?

野崎 時間を守る、目を見て挨拶をするなど基本的な行動や態度です。今はそうした基本ができない人が多いので。

逆に、面接担当者は圧迫面接をしないように注意したいですね。今は面接で何を言われたか、どんな態度だったかもネット掲示板などにすぐに書かれてしまいます。会社の評判を落とす行為は慎みましょう。

―― 私が見ていたのは、面接時にお茶を出したときにお礼が言えるか、話下手でもいいので一生懸命話そうとしているか、タバコ臭くないかなどです。

以前この連載でも話しましたが、「はい、なんでもやります!」という返事だけ大きい人は信用できないので、採用に慎重になりました。入社しても権力者に媚びて終わりで、成果が出なくても言葉や行動に責任を持たないのではないかと感じてしまうので。あとは入退出時の立ち居振る舞いでしょうか。

志望者を動揺させて「素」の態度を見る

野崎 どれも基本ですが大切なことですね。それも大澤さんの経験が判断させているのでしょう。私がよくやるのは、「前職の在籍確認をしますがよろしいですか?」と聞いて、その態度を見ることです。

―― 在籍確認の取得・提供は個人情報保護法に抵触する事項ですが、本人の同意を得れば問題ないんですよね?

野崎 はい。本当に在籍確認するかは別にして、目的はこの質問をしたときの志望者の態度を見ることです。「構いません」と即答できるなら問題なし、「それはちょっと……」と口ごもり動揺するようなら問題ありと見る。経歴が怪しい人をふるいにかけたいときに使えます。

もう一つ、面接で気楽に話す雰囲気になったときに、突然ため口になる人は要注意です。飲み会で無礼講だと話すと態度が変わる人と同じですね。油断した姿に出る素を見ます。20代はまだしも、30歳を過ぎてそれではまずいですよね。

まとめ―経営者は採用に際して「億の買い物」の責任を自覚せよ

―― まとめとして、経営者は採用に関してどんな意識を持つことが大切ですか?

野崎 会社にとって採用とは、仮に新卒から定年まで雇い続けた場合、億単位の買い物をする入口になります。当然、長年雇い続ける責任も生じます。その人の人生だけでなく、その人の家族の生活も背負うことになる。経営者はその自覚を持つことです。

―― 入社してきた人が会社での第一歩を踏み出す採用直後も大事になってきますね。

野崎 そう。入社したての社員は会社のことをよく知らないわけですから、経営者自らが経営理念やビジョンについて説明する機会を設けたいですね。

もし採用面接時に話せるなら、なお良いです。こういうビジョンがあるから、大変かもしれないがこういう働き方になる。だからこういう人に入社してほしいと。同時に、社内体制として人材育成計画と教育体制も万全にしておく。それが本人の仕事に向かう姿勢を育てます。

―― 私も面接では、経営者のビジョンについては必ず聞きます。そこに共感できないと前向きに働けないし、会社が困難に直面したときに一緒に踏ん張って乗り越えられないと思うからです。会社で長く働けるかどうかの判断材料にもなりますし。

野崎 そうですね。億の責任は重いですよ。

―― 億の責任……。私もその責任を感じるために億万長者になって、野崎さんのような肉食系編集者としてパーッと、パーッとやりたいですよ。

野崎 なんですか、その昭和の表現と、強引なオチへの話の急展開は(笑)。肉食系を自ら志願して、大澤さんと経済界のイメージ大丈夫ですか?

社労士・野崎大輔氏

(のざき・だいすけ)。日本労働教育総合研究所所長、グラウンドワーク・パートナーズ株式会社代表取締役、社会保険労務士。上場企業の人事部でメンタルヘルス対策、問題社員対応など数多の労働問題の解決に従事し、社労士事務所を開業。著書『「ハラ・ハラ社員」が会社を潰す』(講談社+α新書)など

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