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鈴木貴子・エステー社長インタビュー「香り立つリーダーシップで空気を変える」

エステー社長 鈴木貴子氏

 ひよこマークのロゴや「消臭力」などで知られる日用品メーカー・エステー。2013年、カリスマ経営者と呼ばれた鈴木喬・現会長の後を継ぎ社長に就任したのが鈴木貴子氏。社長就任前年の12年には売上高463億円、経常利益8億4千万円、連結純利益7500万円、売上高営業利益率が3.8%であったが、18年3月期には売上高486億円、経常利益34億円、連結純利益24億円、売上高利益率7.2%と驚異的な成長を達成し13年ぶりに過去最高益を達成した。鈴木社長はどのように組織を率いたのか。リーダーの在り方を聞いた。文=和田一樹 Photo=小野さやか

鈴木貴子・エステー社長プロフィール

鈴木貴子・エステー社長

すずき・たかこ 1962年生まれ。創業者・鈴木誠一の3女。84年上智大学外国語学部卒。日産自動車に入社。LVJグループ(現・LVMHグループ)のマーケティングなどを経て、独立。デザインコンサルティング会社を立ち上げてエステーに関わったことを機に、2010年、エステー入社。13年社長就任。18年3月期は過去最高益を達成。

鈴木貴子氏のエステー入社、社長就任の経緯

外部のデザインコンサルとしてエステーに関わる

―― 2013年4月の社長就任から約6年が経過しました。この間、リーダーとして心掛けてきたことは何でしょうか。

鈴木 社長として組織を率いることになりましたが、無意味に力を誇示して自分の存在感をアピールするようなことはしないよう心掛けてきました。

 世間で理想のリーダーというと、ナポレオンや織田信長がよくあがりますよね。それから面白いなと感じるのは、ビジネス用語には戦略やタスクフォースなど軍事用語が多いことです。

 このように世間でイメージされる理想のリーダーは軍事的な才覚に秀でた存在であり、ビジネスを語る言葉も軍事用語が多い。それが直接影響しているかは分かりませんが、とかくビジネスの現場は競合との戦いや無駄な社内のパワーゲームに終始してしまいがちです。

 でも本当に大切なのはお客さまに寄り添うこと。お客さまの気持ちに寄り添って、お客さまが求めることを提案、提供することがビジネスだと思っています。社内でいえば、力で社員を従わせることではなく、言葉で伝えることを大切にしてきました。

 ですからスター性のあるカリスマのようなリーダーは必要ないと思っています。むしろ、なまじカリスマが君臨すると組織の自律性が損なわれてしまうという弊害の方が大きいと考えています。

 組織を着実に成長軌道に乗せていくためには、突発的なアイデアや強烈なカリスマ性よりも、地道に試行錯誤ができる組織力の方が重要です。

 言葉というのは、そうした組織を作るために欠かせません。自分の意志をチーム全員に誤解のないように伝えて、同じ方向へみんなにパワフルに動いてもらう。この空気をつくることが私の考えるリーダーシップです。

―― 言葉を大事にし、空気を変えるリーダー像が出来上がったのは、社長ご自身が社外から加わったという経歴と関係していますか。

鈴木 それはあると思います。

 私がエステーの事業に携わるようになったのは、09年に当時社長だった叔父の鈴木喬・現会長から、「商品の“デザイン革命”をしたいので手伝ってほしい」と声を掛けられたことがきっかけです。そこで私はデザインのコンサルティング会社を立ち上げました。

 ところが、外部から改革を進めていく過程で、問題の根深さに気づかされました。新たな課題を解決するために、自分自身が中に入らなければ組織を動かすことは難しい、そう実感し、叔父の勧めもあって10年にエステーに入社をしました。

 しかし、いくら創業家の人間といえど、まさに違う分野からやってきた異分子でしたので、共通言語もありませんでした。どうやって思いを伝えていけばよいのか、常に試行錯誤の日々でした。

 そんな日々の中で大切にしてきたのは、相手にしっかり肚落ちさせること。うまく伝わっていないと思ったら時間をおいたり、言い方を変えたりと、とにかく伝え方を工夫していきました。

 メッセージは伝え方一つでどこまで響くか大きく変わるのです。ですから、相手に自分の思いを伝えるためには何が必要なのか考えることはすごく重要です。

 これは今でも大事にしていて、社員一人一人をよく見て、声には耳を傾けるように心掛けています。

 当社は半期に一度、社内の決算説明会を行いますが、そこに社員がすごく真剣に参加をしてくれます。説明会の後には社員から感想文をもらうのですが、それもすべて自分で読むようにしています。思いを伝えるためには、双方向のコミュニケーションの繰り返しが欠かせません。

 もちろん言葉だけですべてが伝わるということはなく、言ってダメなら自ら実行し、模範を見せるということも重要です。

 例えば、パッケージにトイレの便器のイラストを付けるのではなく、森林のイメージなどを添えることで、機能性より情緒的な使用感に訴えかけるのはどうだろうか、そう考えたとします。ですがそれを社員に伝えても、彼らにとってはそれまでのやり方が当たり前ですから「このデザインのどこが悪いんですか」と全く話がかみ合わなかったのです。

 そのように口で言ってもうまくイメージできない商品のデザインなどは、自分でイメージ画像を集めて実物で伝えてみるですとか、そういったことを粘り強く続けました。

社長就任後に取り組んだ「利益志向」の浸透

―― 外部のコンサルタントから始まり、入社して約3年後には社長に就任しました。何から始めたのでしょうか。

鈴木 当時、売り上げが頭打ちで、一方で利益はどんどん落ちていくという状況でした。その段階でリーダーがすべきことは夢や成長戦略を語ることではなく、利益が減っている原因を突き止め止血をすることです。それを徹底的にやりました。

 その時に分かったのは、社員の意識が利益に向いていないということ。上市する商品に対して、製造や、企画など、さまざまな部署で最低限の粗利に対する目線がズレていたんです。そんな状況にもかかわらず見切り発車で上市したりと状況は深刻でした。

 他にも利益がほとんどないのに価格競争の中で売り続けている商品は一度検討しなおそう、苦しい競争から降りて同じカテゴリーの中でも優位性のある商品の構成比を上げていこうと、組織変革を進めました。

 それまでも6割以上が全く利益の出ない、しかもかなり汎用品と化してしまったものに拡販費を使ってビジネスを取ってくるという慣習があったのですが、そういったこともやめて、もっと利益の出る当社の強みの出る商品でやっていこうと、繰り返し伝えていきました。それがみんなに浸透し、意識が変わったところで利益の出ない商品と利益の出る商品の比率が逆転してきたんです。

 さらに社長就任3年目から社内組織を事業部制に変えて、同時に事業部ごとに損益の見える化を行いました。ここからまたすごく意識が変わって利益志向が浸透してきたのです。

 当時は、成長戦略がないじゃないかという冷ややかな指摘はたくさんありました。ですがそれは承知の上。まず優先すべきは、事業として利益をきちんと出せる組織づくりだったのです。それができてこその成長戦略策定です。実際に成長戦略を打ち出したのは3年目ぐらいからでした。リーダーはその時々で打つべき一手を見極める必要があると思います。

鈴木貴子氏

「成長戦略より事業として利益をきちんと出せる組織づくりを優先した」という鈴木社長

鈴木貴子氏の経営スタイルとリーダーシップ

確かな信念と言葉を重視する

―― 理想とするリーダー像はありますか。

鈴木 特定のビジネスリーダーで規範としているような理想の人はいません。利益を出し、お客さまに喜んでいただき、社員も幸せになって、持続的な成長軌道を実現しているリーダーは老若男女にかかわらずどんなタイプでも尊敬してしまうんです。

 ですが、言葉で信念を伝え組織を率いるという意味では、究極的には宗教のような形をイメージしています。ある宗教は書物に記された言葉で2千年にわたり信者を獲得してきました。まさにサステナブルなリーダーシップですよね。

 ですから強い信念や、信念を表現する言葉があり、共感し信じてついてくる組織があれば、リーダーシップが持続する年数も、影響力の規模も、どこまでも大きくすることができると思っています。極端なことを言うと、リーダーが生存していなくても、書物と布教者によってずっと永続していく。

 会社もそうだと思うんです。素晴らしい理念があれば後の人間が引き継いで、より磨きあげて、正しい形で組織に伝えて動かしていく。逆にそういう確固とした信念がなく、単に儲かることをやろうよというだけでは永続しないと思いますし、多くの人間はついてこないですよね。

 自分たちが大切にすべき信念を、リーダーはまず自分で自分の腑に落とす。そして、それを自分の言葉で社員に伝える。何のために私たちはエステーとして企業活動をしているんだろうという納得感が必要です。

 ですから私も社長に就任するにあたって、改めてエステーという会社が何を大切にしてきて、何を次世代につないでいくべきか考えました。

 まずは、誠実という経営理念・社是です。私が社長に就任した時にはむしろ埋もれていました。この「誠実」という言葉には、一般的な意味として、人に対して誠実であれということとともに、「言ったことを成す」、そして「夢を実現する」、という意味を創業者が込めたのだと知りました。これは私たちが忘れてはならないことだと思っています。

 そして、仕事の姿勢です。創業者である父は、すごく夢があって楽しそうに経営をしていました。一つ一つ製品のカテゴリーを増やし、会社が大きくなり、取引先から見られる立場も変わっていく。その過程を楽しんでいた。

 私はこれもすごく大切だと思っています。競合だけを見ながらシェアの争いで四苦八苦し、つまらなそうに仕事をしていても何の意味もありませんし、それはお客さまにも伝わってしまうんです。私たち社員が暗い顔して残業したりブラックな環境で仕事をしていては絶対良いものは作れない。私たち自身がハッピーに仕事をしないとお客さまを幸せにすることなんかできないのです。

 ですから私も率先して17時には帰るようにしていますし、先日は上野で仕事をした後に1時間だけ余裕があったので、その場でよし! と思い、ル・コルビュジェ展に足を運びました。ニューヨークで仕事をした際は、テスラに試乗もしました(笑)。

 自分がわくわくできることをしないと、モノ消費からコト消費、そしてトキ消費など時代が変化している中で社員を導くことなんてできないと思っています。

 こうした社是や働く姿勢は当社が大切にしていくべきブレない信念です。信念は貫き、伝え方を相手や時代に合わせて変化させていくのです。

 これは事業でも共通することです。当社が最初は防虫剤から始まり、家庭用手袋や、除湿剤、芳香剤と、製品のカテゴリーを増やしてきた背景には、その時々の社会の課題、要請に応じて商品を作るという一貫した姿勢がありました。

「香り立つ」リーダーシップとは

 現在は「空気をかえよう」の企業スローガンのもと、「空気」が私たちのコアだと思っていますが、日用品だけが事業領域だとは思っていません。空気をコアにして、もっと広い空間の空気も変えていきたい。

 例えば現在、新商品ではそうしたチャレンジも行っています。ホテル客室専用ミスト「AirForest」や、もっとパーソナルなところで「MoliLabo 花粉バリアスティック」という、香り成分を活用した花粉対策用の商品も展開しています。

 エステーは家庭用のイメージが強いと思いますが、業務用商品の領域ですとか、これまで手を出してこなかったところに、信頼していただいているエステーのブランド力を生かして取り組んでいます。これも「空気」というコア、信念はブレずに、時代に合わせて価値を変化させていく、そんなエステー流のスタイルです。

 香りというのは一番ダイレクトに、脳の中枢に伝わるものです。その間わずか0.2秒。本能に訴えかけるパワーを持っているのです。

 私もそんな風に“香り立つ”リーダーシップを大事にしていきたいと思います。

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