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日産・ルノーが直面する「経営統合問題」長期化の落とし穴

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日産自動車とルノーの経営統合問題が再燃してきた。昨年11月のカルロス・ゴーン前会長の逮捕により一時棚上げされていたが、今年4月にルノー側が経営統合を持ち出したという。資本的にはルノーの子会社でありながら規模で勝る日産の反発は強く、決着には時間がかかりそうだ。文=ジャーナリスト/立町次男

日産、ルノー、仏政府三者三様の思惑

ルノーの統合提案を日産は拒否

 フランスの自動車大手、ルノーが日産自動車に経営統合を要求し、経営の独立性を維持したい日産との間でつばぜり合いが続いている。

 2019年は、両社が企業連合を組んでからちょうど20年。大手自動車メーカー同士の連携の成功例とされてきたが、ルノーの会長兼CEO(最高経営責任者)、日産の会長を兼務し、企業連合の舵取りをしてきたカルロス・ゴーン氏が逮捕・起訴されたことで積み重なった矛盾が噴出。ドイツのダイムラー・ベンツと米国のクライスラーの「世紀の合併」が失敗に終わったように、大手同士の統合は連携より難しい。交渉の行方が注目されている。

 ルノーは今年4月中旬、日産に統合を提案したようだ。新たに共同持ち株会社を設立し、その下にルノーと日産がぶら下がる形態を想定。本社はシンガポールなどの第三国に置くとしている。こういう枠組みを主張したのは、日産の西川廣人社長兼CEOが、両社の対等な関係を主張してきたことに配慮したものだ。

 それでも日産はこの提案を拒否する見通し。統合提案を受けたという報道を受け、西川社長は記者団に「今は経営統合を考える時ではない」と話している。

 現在、ルノーは日産株の43%を保有している筆頭株主なのに対し、日産はルノー株の15%を保有しているにすぎない。仮に統合で合意し、持ち株会社の役員構成などを決めようとしたときに、この資本関係が影響し、不利な状況に追い込まれる可能性は否定できない。また、持ち株会社の大株主としてフランス政府が残り、ルノー有利の経営が行われるという懸念も日産側にはあるようだ。

 現に、三菱自動車を含む3社の新しい会議体「アライアンス・オペレーティング・ボード」のメンバーは、日産の西川社長、三菱自の益子修会長兼CEO、ルノーのジャンドミニク・スナール会長、ルノーのティエリー・ボロレCEOの4人。日本勢は1人1社なのに対し、ルノーは2人を出し、優位な立場と言える。

筆頭株主として日産を揺さぶるルノー

 もともと、ゴーン氏が逮捕されたことを契機に、両社の関係は悪化していた。日産がゴーン氏の追放に動いた一方、ルノーは「推定無罪」の原則を掲げてゴーン氏を留任させる構えを見せた。

 日産側がゴーン氏の不正を示す社内調査結果をルノーの取締役会で説明しようと提案したが、ルノー側は拒否。ルノーが日産に早期の臨時株主総会開催を求めると、今度は西川社長が拒否するなど、対立が深まっていった。

 それでも、ゴーン氏の保釈請求が度々却下され、特別背任(会社法違反)で再逮捕されると風向きが変わる。ルノーが遂にゴーン氏を事実上解任し、新体制に移行すると、両社は歩み寄り、アライアンス・オペレーティング・ボードを設置することで合意した。以前からくすぶっていた資本関係の見直し論議は棚上げされた。

 経営統合の提案は、4月12日にパリで開かれた、アライアンス・オペレーティング・ボードの初会合の前後とみられる。

 こうした融和ムードを一変させることを承知で、ルノーがこの時期に統合を提案したのは、日産が経営刷新を予定する6月下旬の定時株主総会を前に、筆頭株主として最も効果的なタイミングで日産を揺さぶる効果が期待できるからだとみられる。

経営統合の難しさと日産・ルノー連合の今後

米独自動車連合はなぜ失敗したか

 背景にはルノーと、同社の筆頭株主であるフランス政府、それぞれの事情がある。ルノーの2018年12月期決算は6期ぶりの減収減益となった。そのため日産との経営統合で相乗効果を大きく引き上げ、この苦境を脱したいという思惑がある。さらに22年に再選を狙う大統領選を控えるフランスのマクロン大統領は低支持率にあえいでいることから、政府の主導で両社の統合が実現すれば、大きな成果として国民にアピールできる。

 政府が株主として民間企業の経営に介入することが当然とされるフランス国内において、国内産業振興策としてのルノー・日産の統合論は以前からあり、フランス政府はこれまでも、日産の経営に介入しようとしてきた経緯がある。

 14年には、株式を2年以上持つ株主に2倍の議決権を与える「フロランジュ法」を制定し、ルノーを通して日産の経営への関与を強めた。しかし、これに対し、日産側が強く抵抗したため、交渉の末、フランス政府は経営に関与しないことで合意せざるを得なかった。当時、この問題を担当していた経済産業デジタル相こそが、現在のマクロン大統領だ。

 そして、ゴーン氏の事件も、発端はフランス政府による統合圧力だったという見方がある。

 18年2月にゴーン氏はルノーの会長兼CEOに再任される条件として、「両社の関係を不可逆的にすること」をフランス政府と約束したとされる。具体的に考えられるのはやはり、経営統合だ。

 日産の経営陣は、内部通報をきっかけにゴーン氏の不正の調査に着手したことを活用し、司直の手で経営統合の阻止に動いた可能性がある。当時のゴーン氏は三菱自の株主総会で、「日産や三菱自がルノーの完全子会社になる可能性はゼロだ」と強調したが、他の形態の統合までは否定しなかった。

 ルノー・日産の20年前の提携合意には実は、ダイムラーの動向が影響していた。

 1990年代、経営危機に陥った日産がまず、提携相手として交渉したのがダイムラーだったからだ。ダイムラーは当時、日産の傘下で商用車を手掛けていた日産ディーゼル工業(現・UDトラックス)に関心があったという。だが、ダイムラーはクライスラーとの経営統合に舵を切った。ダイムラーに相手にされなくなった日産と、提携で合意したのがルノーだったというわけだ。

 しかし、ダイムラーとクライスラーの世紀の合併は2007年に解消される。経営や技術に関する考え方の違いが大きかったようだ。ほとんどの国の基幹産業である自動車を製造するメーカーは、自社のやり方に自信を持っている。プライドの高さが、互いの会社を尊重することの障害になりやすい。

 特に、国籍が異なる会社同士の融和は難しく、スズキとドイツのフォルクスワーゲンは資本提携の解消をめぐり法廷闘争に発展。対等な関係を望んだスズキに対し、フォルクスワーゲンは支配しようとする意思があったからだとされる。

ルノーの狙いは日産のコントロールと親子上場の解消

 自動車業界以外でも、米原発大手ウェスチングハウス買収の失敗が経営危機につながった東芝の事例もある。原発の名門であるウェスチングハウスの幹部は東芝経営陣の言うことを聞かず、企業統治(ガバナンス)は形骸化していたとされる。

 不可逆的な関係をフランス政府に約束する前のゴーン氏は、基本的には両社の対等な関係を維持する構えだった。両社の傘下にある合弁会社「ルノー・日産BV」を企業連合の統括会社と位置付けていたことも、そうした工夫の一つだった。

 ルノーと日産に関しては、資本関係ではルノーが上、企業規模や技術力では日産が上だ。互いに尊重し合う部分を持っていた両社の連携は長続きした。費用の削減や生産効率向上を進めており、17年度に57億ユーロ(約7千億円)に相当する相乗効果を創出したという。

 統合を求めるルノーにも当然、言い分がある。事実上の過半数の株式を持ちながら日産をコントロールできず、株式市場からの評価は低いことに苛立っているという。

 また、実質的な親子上場で、ルノーと他の一般株主との利益相反も起こりやすい状況にある。

 持ち株会社が上場し、事業会社のルノーと日産が非上場になれば、こうした懸念は解消される。

トヨタのダイハツは企業融合の成功例

 トヨタ自動車は1998年にダイハツ工業を連結子会社化。2016年に完全子会社とするまで、じっくりと融和を進めた。両社の業績は堅調で、トヨタ幹部は「小型車で十分な利益を出すダイハツのノウハウは優れている」と尊重する姿勢を示す。経営統合が有効な手段として使われた事例と言えそうだ。

 仮に日産の経営陣や幹部が納得し、経営統合を受け入れるなら、相乗効果の拡大も期待できそうだ。しかし、日産の日本人幹部には、ゴーン氏が連れてきた外国人幹部が突然、上役になるような人事に対し、不満がたまっていたという。

 また、日産側には配当を通して自社の利益がルノーに流出しているという認識もある。むしろ、ルノーが日産株の一部を売るか、日産がルノー株を買い増すことで、資本関係を対等な形に見直すことを期待している状況だ。

 両社の協定で、ルノーには日産の株主総会で会社側提案に賛成することが義務づけられている。ルノーに強硬手段が限られている中、最も可能性が高いシナリオは、両社の考えが平行線のまま、何も変わらない状況が続くことだ。

 しかし、ルノーと同じように日産の業績も悪化している。4月には19年3月期連結決算を2度目の下方修正。北米での販売不振が続いているからだ。

 ただでさえ、自動車業界では「CASE」(コネクティビティ=インターネット接続による利便性向上、自動運転、シェアリング、電動化)が進展中だ。自動運転技術の発達を背景に、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)への布石を間断なく打っていく経営判断も必要になっている。日産は電気自動車(EV)「リーフ」を旗印にしてきたが、現段階では投資回収も進んでいないとみられる。

 そんな中、企業連合を解消し、1社ずつ、自動車業界の大変革期に臨むことは、両社にとって最悪のシナリオだ。一方で、経営統合にも踏み切れず、対等な資本関係にもならず、という状況が続けば、両社が不満を抱いたまま、連携が十分な力を発揮できない懸念が強まる。

 不毛な綱引きを続ける中で、両社の業績が悪化していくことも大きなリスクと言えそうだ。

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