
40歳から復活を期す小笠原道大選手(写真:時事)
年俸が14分の1になった小笠原道大選手
開幕間近のプロ野球。新たなる働き場所を求めて移籍した2人のベテラン選手に注目したい。
ひとりは中日の小笠原道大だ。昨季終了後、巨人からFA宣言し、中日に移籍した。
最高で4億3千万円あった年俸は3千万円に減った。約14分の1である。
そこまでして小笠原が現役を続けたかったのは、まだ燃え尽きていないからだろう。
過去に首位打者を2度、本塁打王と打点王に各1度、セ・パ両リーグでMVPに輝いた男が、2011年からの3シーズンは全く鳴かず飛ばずだった。
大スランプの原因については、年齢からくる衰え、故障、11年に導入された低反発球の影響など、いろいろと取り沙汰されたが、実のところは本人にも分からない。
ただひとつ言えるのは、「バランスが崩れてしまった」ことだ。
沖縄・北谷でのキャンプでは原点回帰とばかりに「土台づくり」に取り組んでいた。
「足の裏で地面をしっかりつかみ、きちんととらえて打つ」
その成果は2日のオープン戦で横浜DeNAのギジェルモ・モスコーソからホームランを放つなど、少しずつではあるが出始めている。
「小笠原の存在はチームにいい影響を与えている」
そう語ったのはヘッドコーチの森繁和だ。
「彼は朝早くから出てきて、最後までグラウンドにいる。あの練習態度は素晴らしい」
小笠原といえば〝練習のムシ〟。07年に日本ハムからFA宣言した彼を巨人が獲得したのは実力に加え、練習態度に巨人の清武英利代表(当時)が惚れ込んだからだと言われている。
元代表の著書『こんな言葉で叱られたい』(文春新書)に、三井康浩・巨人軍編成本部統括ディレクターのこんな小笠原評が紹介されている。
〈いい成績が一年間しか続かない選手が多い。首位打者になりながら、翌年不調という選手がたくさんいるでしょう。もっとうまくなりたい、もっと上の成績をと欲張って、それまでと違う練習をするからですよ。それで回り道をする。だから一発屋で終わるんです。ガッツ(小笠原道大)を見てみるといい。毎年、毎日、同じ練習をずっとやり続けている。長く見ていると、そういう人間が成績を残していることがわかる〉
話を今季に戻そう。ヘッドコーチの森は「小笠原の思い切りのいいスイングはピッチャーに脅威を与える。ランナーが溜まった場面で力を発揮してくれればいい」と語っていた。
代名詞のフルスイングは甦るのか。40歳は今、その下地づくりに余念がない。
年俸減でも現役を続けるベテランの好影響とは?
もうひとりのベテランは小笠原とは逆に中日から巨人に移籍した井端弘和だ。
昨オフ、中日の新GMに就任した落合博満から年俸88%ダウンの提示を受けた。2億5千万円から3千万円への大減俸である 。ひらたく言えば「出ていってもらって結構」ということだ。
自由契約選手となった井端の獲得に真っ先に手を挙げたのが巨人だった。 監督の原辰徳はベテランへの期待を、こう語った。
「戦力的には内野のどのポジションもカバーできるし、WBCで見せたしぶといバッティングは大きな力になる」(『月刊ジャイアンツ』2月号)
巨人では代打に加え、どこでも守れる強みをいかし、守備固めでの出場もありそうだ。いわゆる〝スーパーサブ〟である。
中日が井端放出やむなしと判断した背景には、右足首の故障の影響があった。井端本人も「今までは捕れなくても、グラブには当たっていた。ところが昨季は(打球が)グラブの下を通っていた。(故障した)右の足首が動いていなかったからでしょう」と認めていた。
思い切って、昨年の秋、手術を受けた。結果的には、これが吉と出たようだ。
「まだ100%ではありませんが、間違いなくここ何年間かでは一番いい状態です」
キャンプイン前、明るい表情で井端は、そう語っていた。
小笠原同様、井端も他の選手たちに好影響を与えている。不動のショート坂本勇人は、井端の入団により、明らかに顔つきが変わった。安閑とはしていられなくなったのだ。
そればかりではない。井端は坂本に貴重なアドバイスを送ってもいる。
「坂本が打つ、打たないは足を上げるタイミング。打つ時は早めに足が上がっている。要するに準備ができている。ところが打てない時は、足を上げるタイミングが遅くなっているような気がします」
ベテランには長年の経験によって培われた〝無形の力〟がある。ベンチがそれを、どう引き出すかも今季の見所である。
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