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辻 慎吾・森ビル社長に聞く「都市間競争で東京が世界で勝ち抜くために必要なこと」

辻 慎吾・森ビル社長

森ビルは今年8月、大規模都市再生事業「虎ノ門・麻布台プロジェクト」を着工した。森ビルといえば、これまで六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズなど東京のランドマークとなる街を開発し、世界の都市間競争で負けない「東京の磁力」をつくる重要性を訴えてきた。社長の辻慎吾氏に、新プロジェクトへの思いと、東京が世界の都市と戦うために必要なことは何かを聞いた。聞き手=和田一樹 Photo=山内信也(『経済界』2020年1月号より転載

辻 慎吾・森ビル社長プロフィール

辻慎吾・森ビル社長

(つじ・しんご)1960年広島生まれ。85年横浜国立大学大学院卒。同年森ビル入社。都心の大規模都市再開発を複数担当した後、六本木ヒルズにおいて賑わいを生み出すタウンマネジメントの手法を生み出す。2006年取締役、09年副社長を歴任。11年6月より現職。東京の磁力向上を目指して、複数の大規模再開発プロジェクトを推進中。

磁力ある都市づくりで世界との競争に勝つ

虎ノ門・麻布台プロジェクトでは特殊な地形を逆手に取って生かす

―― 「虎ノ門・麻布台プロジェクト」が着工しました。新プロジェクトに込める思いはいかがですか。

 このプロジェクトは、約30年もの時間をかけ、300人以上の地元の皆様と推進してきました。時間の経過もさることながら、計画区域も約8.1ヘクタールという規模を有するうえ、高低差のある特殊な地形の再開発です。

 非常に難易度の高いプロジェクトですが、この規模や高低差を逆手にとって生かすことができれば東京にとっても、社会にとっても非常に大きなインパクトを与えることができます。

 都市に対する強い責任感や使命感をもって取り組むことで、今回の新プロジェクトも東京と人々のライフスタイルを大きく変えるきっかけになると信じています。

―― 辻社長が従来から訴えている「国際都市間競争」に東京が勝つために必要なことは何でしょうか。

 国際都市間競争というのは、分かりやすく言えばグローバルにビジネスを展開している企業が、ヘッドクォーターとしてどこの都市を選ぶのかということです。ヘッドクォーターが置かれるということは、単純にオフィスを開設することだけではなく、本国からの赴任者や出張者などの人の流れも生み出しますので、都市に与える影響は非常に大きいです。

 東京が国際都市間競争を勝ち抜くためには、海外の企業を惹きつける磁力ある都市になる必要があります。そのためにはビジネスのしやすさだけではなく、外国人ビジネスワーカーやその家族が生活する上での環境の整備が不可欠だと考えています。

 虎ノ門・麻布台プロジェクトでは、国際水準の教育環境を整えるために都心最大級の生徒数を誇るインターナショナルスクール「ブリティッシュ・スクール・イン・東京」の誘致を決めました。その他にも、ミュージアムやギャラリーなどの文化施設もつくり、芸術・文化が一体となった空間を創出することで、世界中の人々から選ばれる都市を目指した開発を進めています。

従来とは逆の手法でタワーを作る

―― 新プロジェクトのコンセプト「Modern Urban Village」が、選ばれる街ということでしょうか。

 そうです。当社はこれまでも「都市の本質は、そこに生きる人にある」という考えのもと、実際に住む人々にとって理想の暮らしとは何かを考えながら、都市の開発を行ってきました。本プロジェクトは、変化の激しい時代において改めて人間が暮らしやすい都市とは何か、ゼロから考えるところからスタートしています。そこで導き出した開発コンセプトが「Modern Urban Village 緑に包まれ、人と人をつなぐ『広場』のような街」です。

 そして、コンセプトを具現化するために、「Green」と「Wellness」という二つの柱を設けました。

 まず「Green」とは、緑に囲まれ自然と調和した環境です。そのため、約6千平方メートルの緑に包まれた広場を街の中心に設けました。総緑化面積は約2.4ヘクタールで、区域全体の約3割に相当します。

 限られた土地の中で緑のスペースを増やすためには、建物を超高層化し垂直方向に積み重ねていくことで足元にオープンスペースを作り出します。この都市づくりの手法は森ビルが長年こだわってきた「ヴァーティカル・ガーデン・シティ」と呼ばれるものです。8月の発表以降、高さ約330メートルの“日本一高いタワー”という点ばかりが目立っていますが、あの高さのタワーが必要になった大きな理由は、緑のスペースを作るためでした。

 また、より快適な街となるように、緑や建物の配置にもこだわっています。一般的な開発では、まず建物を配置し、余ったスペースに広場や公園を作ります。

 ですから、立地の悪い場所に公園や空地が作られ、人々にあまり利用されないということが起こります。しかし虎ノ門・麻布台のプロジェクトでは、まず人の流れや集まる場所を考えて、街の中心に緑の広場を配置し、その後に超高層タワーを配置しています。まず建物が先にあって、空いたスペースに緑を作るのではなく、まず人の流れと緑の配置を考えてからタワーを作る。従来の手法と全く逆の作り方です。

 もう一つの柱である「Wellness」については、多様な人々が健康で人間らしく生きられる街を目指します。現代の健康とは、ただ長生きをするのではなく、心身ともに健康で、社会的なつながりを持って暮らすことです。新プロジェクトでは、医療施設やスパ、フィットネスクラブを充実させ、さらに外部の医療機関とも連携することで、ここに住み、働くことがそのままウェルネスにつながることを目指しました。

 これらの柱をもとに、圧倒的な緑に囲まれ、自然と調和した環境の中で多様な人々が集い、人間らしく生きられる新たなコミュニティ形成を目指します。

―― 六本木ヒルズには5万坪のオフィススペースがあります。競合の心配はありませんか。

 虎ノ門・麻布台にも約6万坪のオフィスを作る計画ですが、競合する懸念はありません。むしろ数多くの企業や施設が同じエリアに集まることで、相乗効果を生み出すことを期待しています。

 港区は地理的にも極めて高いポテンシャルを有していますから、「虎ノ門・麻布台プロジェクト」が要となり、六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズなど既存のヒルズと連坦していくことで、都心部に新たな文化・経済圏を作り出します。

「虎ノ門・麻布台プロジェクト」中央広場のイメージ。都心に約6千平方メートルの緑の空間ができる

都市開発における森ビルの戦略と目的とは

東京中に特色あるエリアをつくる

―― 六本木や虎ノ門以外でも丸の内や日本橋、渋谷など、東京にはいくつか重点的に開発がなされているエリアがあります。森ビルの戦略エリアの優位性はどうお考えですか。

 森ビルの戦略エリアである港区は、大使館や文化施設、ミシュランレストランなどが多く集積しており、外国人居住者数や外資系企業数が非常に多い地域です。また、緑豊かで居住環境にも優れ、これから重要視されていく環境面でも優位性があります。さらに、環状二号線の開通などにより、羽田空港とのアクセスも便利です。このようなポテンシャルがあるエリアに、都市生活に関わるさまざまな機能が複合したコンパクトシティを創出し、それらが連携していくことで、大きな優位性を持った国際新都心が形成されていきます。

 一方で、東京の中のエリア間で競うよりも大事なことは、東京中に特色あるエリアがいくつもあって、シンガポールや上海などの世界の都市と比べて、選択肢が多く、魅力的な都市となることを目指すことです。

「東京を世界の都市と比べて、選択肢が多く、魅力的な都市にする」と語る辻氏

五輪を生かして日本の魅力を知ってもらう

―― 来年はオリンピックがあり、日本をアピールするチャンスです。

 世界中の注目が集まるこのチャンスを生かして、東京の魅力やポテンシャルを広く発信することができます。また、東京だけでなく、地方都市の魅力を際立たせていくことも重要です。当然、東京は日本全体を牽引するエンジンとして、世界の都市間競争の中で勝たなければいけません。一方で、それぞれの地方都市においても、個性や魅力を生かした街づくりを進めることで、都市の磁力を高めていくことが重要です。

 当社も、東京での大規模開発や街の賑わいを生み出すタウンマネジメントを通じて蓄積されたノウハウをもとに、これまでも地方都市の活性化に貢献してきました。

―― 森ビルは東京のイメージが強いので地方というのは意外ですね。

 みなさん結構そうおっしゃいますね。

 例えば、2015年度から、福井県と、同県永平寺町、そして曹洞宗の大本山永平寺が進める「永平寺門前の再構築プロジェクト」を支援してきました。これは、国内外での知名度が高く、県を代表する観光地である永平寺門前の魅力を最大限に高めるための取り組みです。

 このプロジェクトでは、水辺の景観の改善のために、永平寺川のコンクリート護岸を石積みに改修したり、他にも1600年代の古地図に基づく旧参道の再生、外国からの参拝にも対応できる宿泊施設や観光案内所の整備などを進めてきました。

―― 世界にアピールできる一方で、特需の反動など五輪のマイナス面はいかがでしょうか。

 確かに64年の東京のように新興国で開催される五輪の場合は巨額のインフラ投資が行われますから、五輪終了後の景気の落ち込みはあると思います。しかし、現在の東京は成熟した都市ですから、今回の五輪が日本経済全体の流れを大きく変えるとは考えにくいです。

 五輪は大きなイベントであるのは間違いないですが、それよりも、20年後、30年後に世界の中で日本や東京が存在感を増し、観光客やビジネスマンたちから選ばれ続けるためには何が必要なのか考える大会にしなくてはならないと思います。五輪をジャンピングボードとして活用し、さまざまな施策を継続的に打つことで、「世界一の都市・東京」を目指していくことが重要です。

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