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抗がん剤の開発競争に出遅れた日本企業は復活できるのか

ニュースレポート

「抗がん剤は、株価に効く」。前世紀、製薬企業が創り出した抗がん剤を、口さがない一部の投資家はこう評したという。薬としての効き目は弱いが、株価を押し上げる効果は強い――そんな揶揄を込めた意味合いだ。

 時代は変わり、抗がん剤の製品化には、臨床試験で統計学的に明確な延命効果を証明することが求められるようになった。今でも治療のベースは化学療法剤ではあるが、製薬企業が研究開発を手掛ける抗がん剤の多くは、バイオ医薬品などの分子標的治療薬だ。(ジャーナリスト/山下剛平)

日本企業の相次ぐ大型買収の成果が結実へ

 2000年頃から登場した分子標的薬は、がんの成長や増殖などに関与する特定の体内因子の働きを阻害し、治療効果を得ようとするものだ。がんを叩きはするが、同時に正常な細胞も傷つけてしまう殺細胞性の化学療法剤よりも、少ない副作用でより長い延命効果が得られる。

 日本で認可を得ている分子標的薬をいくつか挙げると、白血病治療薬の「グリベック」(ノバルティスファーマ)、乳がん治療薬の「ハーセプチン」、大腸がん治療薬の「アバスチン」(ともに中外製薬=ロシュ・グループ)などが有名だ。

 いずれも、欧米系の大手製薬企業が開発した新タイプの抗がん剤であり、日本で大きな収益を上げている。最近、日本の医薬品の輸入超過が拡大していることが注目を集めているが、その主役と言えるのが抗がん剤なのだ。

 では、日本の製薬大手はと言うと、残念ながら抗がん剤の研究開発競争には大きく出遅れているのが実情だ。最大手の武田薬品をはじめ、欧米進出で一定の成功を収めた日本の大手製薬企業は、高血圧症や糖尿病といった生活習慣病分野で大きな収益を上げることができたが、相対的に患者数が少ないがん領域には、ほとんど投資してこなかった。

 潮目が変わったのは、ここ5、6年のことである。

 日本の製薬大手の中では、比較的早い段階から自社での抗がん剤研究を手掛けてきたエーザイは07年に米モルフォテックを、翌08年には米MGIファーマを39億㌦で買収。技術や販売インフラ、製品群を整備すると、11年には満を持して、自社研究所で見いだした乳がん治療薬「ハラヴェン」の世界展開に乗り出した。

 武田薬品は08年に、米ミレニアム・ファーマシューティカルズを88億㌦で買収したことで、業界を驚かせた。同社の買収で多発性骨髄腫治療薬「ベルケイド」を獲得するとともに、開発パイプラインや優秀な研究スタッフの取り込みを果たした。

 社外技術の取り込みやベンチャー企業との提携で、目に見えた成果を上げつつあるのが、アステラス製薬である。

 10年にはTOB合戦の末に米OSIファーマを40億㌦で買収し、同社がロシュを通じて世界展開していた肺がん治療薬「タルセバ」を手中に収めるという成果を上げた。だが、アステラスはこの大型買収の以前にも、07年の米アジェンシスの買収などによって、「抗体医薬」と呼ばれるバイオ医薬品の技術基盤を着実に取り入れていった。

 欧米ベンチャーとの提携の成果は、昨年花開いた。米メディベーションとの共同開発を進めていた前立腺がん治療薬「エクスタンディ」が米国で認可を取得し、昨年9月の発売から半年程度で、100億円を超える売り上げを達成したのだ。日本を含む世界展開にも弾みがついている。

日本企業が行った巨額の研究開発投資は日の目を見るか

 もちろん、原則として新薬には生存期間を延長させることが求められる抗がん剤の分野で、すべての開発候補がうまく製品に結実するわけではない。

 アステラスも、大腸がん分野で大型製品に成長すると見込んでいた「チボザニブ」(米アヴェオとの提携品、同社が協和発酵キリンから導入)が、米国申請を果たしたものの、審査の過程で、当局が招集した諮問機関の支持を得ることができなかった。認可の判断はこれからだが、現状では追加のデータが必要となる公算が高い。

 非小細胞肺がんの適応で欧米での開発が進んでいた第一三共の「チバンチニブ」も、第Ⅲ相試験で思うようなデータが得られず、開発中止に追い込まれている。現在は、肝細胞がんなどにターゲットを変更して開発の仕切り直しを進めているところだ。

 ただし、こうした臨床試験の失敗は、欧米の企業でも日常的に経験する通過儀礼と言える。肺や胃、大腸といった具合に、がんは臓器ごとに細かくセグメント化された疾患のため、予定していた適応症で開発がうまくいかなくても、他のがん種に適応症を見いだすことができれば、一定の市場性を確保することは可能である。

 もっとも、日本の製薬大手の一番の課題は、一連の大型買収などの成果を、短期的な製品補完という形にとどまらず、自社の研究力に確実に還元できるかという点だろう。

 買収や技術提携で取り入れた人材やノウハウを、どれだけ自社研究所の血肉として消化できるか、ということだ。過去5、6年の間に投じた数千億円規模の大型投資の真の成否は、今後、自社研究所から革新的な抗がん剤を世界に向けて出せるかどうかにかかっている。

 
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