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経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

「休眠層獲得には、リゾートとしてトータルのアプローチが重要」--星野佳路・星野リゾート社長

星野佳路氏・星野リゾート社長

 トマム、アルツ磐梯、裏磐梯猫魔スキー場の3つのスキー場を経営する星野リゾート。同社のスキー場事業は、2003年にアルツ磐梯の運営に乗り出して以降、リゾート経営の基本に則った戦略を展開。収益を着実に改善させている。同社のスキー場経営について、自らも積極的にスキーを楽しむ星野佳路社長に話を聞いた。

(聞き手/本誌・村田晋一郎)

親世代へのサポートも重視しファミリー層に訴求

-- 貴社のスキー場経営への取り組みは。

星野 2003年にアルツ磐梯の経営を始めた時に、市場調査をやりました。その結果を見ると、スキーをやったことがある人で今はやめている休眠層が全体の62%、毎年活発にスキーをしている人たちが23%、スキーの未経験者が15%という構造でした。日本の市場の特徴は経験者の比率が非常に多いことです。ですから、休眠層を復活させようというのが私たちの戦略でした。これをやらないと日本のスキー場は復活しません。

 それで、休眠層を調査しました。彼らがいつスキーをやめたかというと、子どもができた時でした。その理由として、若い頃にスキー場に行った時は、夜行バスで行ったとか、昼食がおいしくなかったとか、寒かった、辛かったと。子どもを連れて行ける旅行ではないというイメージを持たれています。ですから、子ども連れを戻すことがスキー場復活の鍵だと思いました。私たちのスキー場経営はその戦略の延長線上にあります。それを04年ぐらいからずっとやってきました。アルツ磐梯は、福島の原発事故以降少し落ち込んでいますけれども、11年まではかなり戻していましたし、トマムが今、絶好調であるのは、子ども連れのファミリー層が効いています。

 また、リゾナーレ八ヶ岳はスキー場が目の前にありませんが、近くのスキー場と連携し、子どもをターゲットとした「スキーデビューの聖地」というコンセプトにしています。スキー場デビューさせたい親が子どもを連れてくる際のあらゆる問題を解決するリゾートになっています。

-- 休眠層ターゲットの具体的な取り組みは。

星野 子どもをスキー場に連れてくるお父さん、お母さんは、昔たくさんスキーをした人たちで、レベルは中級から上級です。子どもはキッズ用ゲレンデで楽しんでいるけど、親は楽しめないことになりますから、トマムで今年始めたのは、中上級者用のゲレンデを増やすことです。リフトを架け替えたり、斜面を中上級者が楽しんでもらえるようにしています。

 次がパウダーです。今はパウダー体験がトレンドになっていて、スキーの道具を買いに行ったら、パウダーを滑っている写真や画像ばかりを見せられて買うわけです。ですから、そういう体験ができる場所は整えていかないと、顧客の満足度が得られなくなってきています。トマムでは「冬山解放宣言」として、圧雪していない、リフトが架かっていないところでパウダーを滑る企画を用意しています。

 あとはこの5年から10年の世界のトレンドとして、ホテルの泊まっている部屋からいきなりゲレンデに出る「スキーイン、スキーアウト」があります。ファミリー層には必要な要素で、トマムの2つのホテルでそのための造成をしました。

 さらにアフタースキーも重要になってきます。ファミリー層の特徴として、おじいちゃん、おばあちゃんが孫と一緒に旅行したいというニーズがありますから、3世代旅行が増えます。そうすると、ホテルの中ではスキーヤーではない人たちが食事をとったりしますから、そのためのサービスも必要です。冬のリゾートとして食で満足したいニーズに対応しています。

-- 競合も同じ休眠層を狙ってきていますが、貴社が力を入れているポイントは。

星野 表面的に見ると、子どものアクティビティーが大事にみえます。しかし、休眠層の獲得は実はパウダーやスキーイン、スキーアウト、アフタースキーのアクティビティーなどが重要です。子ども用のゲレンデやスノーエスカレーターを作れば、家族連れが少しは来てくれるようになりますが、本当の意味で休眠層をターゲットにするには、リゾートとしてのトータルのアプローチが非常に重要だと思っています。それが、トマムが突出している理由だと思います。逆に目の前にスキー場がないリゾナーレ八ヶ岳にこれだけ冬スキーのお客さまが来てくれているのは、ゲレンデ以外のトータルの部分が整っているからだと思います。

リゾート経営の基本に則り常に魅力を進化

星野リゾート トマム全景

星野リゾート トマム全景

-- それぞれのスキー場の状況は。

星野 アルツ磐梯、猫魔スキー場は、原発事故の影響で、関東のファミリー層のお客さまを少し失いましたが、今、戻しつつあります。トマムは非常に伸びていると思います。まだ12月の結果しか出ていないですが、前年比で15%くらい伸びていて、なかなか良い感じで推移しています。トマムはこの3年から4年、良い状態になってきていると思います。

 トマムがこれだけ回復した理由は、冬を改善したということもありますが、長い夏、4月から11月の収益を伸ばしたことが大きいです。トマムには、冬のスキー場で儲けて、4月から11月に儲けた分以上に損をしていたという典型的なスキー場の構造的問題がありました。リゾートの経営はオフシーズンを克服することが大事なポイントです。そのためには、やはり地道な努力が重要で、旅行の基本要素として、客室、食事、サービスいう部分を揃えて満足度を高めていくことです。

-- アルツ磐梯や猫魔を回復するために考えていることは。

星野 実態がどうなのかが一番大事で、その実態はやはり風評被害だと思っています。実際に何か危険があったり、問題があるわけではないです。特にアルツ磐梯は原発からも遠く、むしろ避難場所になっていたくらいで、自然環境としての素晴らしさは変わらない。その実態がしっかり伴っているのであれば、基本的なアプローチは変えないほうが良いと思っています。特別なことをやるわけでもなく、魅力を進化させていくことが一番大事です。だんだん戻り始めていて、いずれ11年以前のレベルに戻ってくると思います。

-- 冬山解放の企画をこちらでもやっているのですか。

星野 冬山解放ではないですが、ちょっと面白いアプローチを取っていて、猫魔スキー場の場合はコースのいくつかをウイークデーは閉めてパウダースノーを貯めておいて、土日に一気に解放する。このアプローチはすごく人気です。それからアルツ磐梯も一部のリフトを止めてコースを閉めて、キャットツアー専門のコースにしました。キャットツアーは、お客さんを雪上車に乗せて、ツアーとしてお連れするというコースです。パウダースノーが滑れるので、すごく人気が出ています。

-- 需要が変わってきているのですか。

星野 もちろん変わってきています。昔はオリンピックでスキーと言えば、ジャンプやアルペン競技だけだったと思いますが、今はモーグルがあったり、ハーフパイプがあったり、スノーボードの一連の競技がたくさんあったり、種類が非常に多い。それに合わせて道具も全部変わっています。冬山体験も道具の進化によって、一般のわれわれレベルのスキーヤーが入りやすい分野になっています。それが大きな変革を呼んでいると思います。

 スノーボードの登場によって、スキーの楽しみ方もガラッと変わりました。スノーボードがあんなことをしているけど、スキーもできるようになろうよと。道具の工夫や考え方の違いで、今はスノーボード以上に、フリースタイルスキーなどが盛んになってきています。

-- スキー場としては活発層を狙った動きになるのですか。

星野 いや、休眠層の人たちです。休眠層の人たちに、私がよく言っているのは、当時の道具よりすごく進化しているということ。10年滑っていない人に、今の道具を履いてもらえれば、10年前よりもうまく滑れますと。これは本当です。私自身がそういう体験をしてきているので、それをお勧めしています。

 私たちはそういう方々のために、きちんとした道具を揃えてレンタルにしておく、ウエアもお貸しする、子どもさんを連れてくる場合にはリゾナーレでは子ども6点セットを無料で貸し出しています。「じゃあやってみようか」という時に手軽に始められる環境を整えておく。これが私たちのアプローチです。

世界でも稀有な冬山の観光資源を生かす

トマムのパウダースノーを滑る星野社長

トマムのパウダースノーを滑る星野社長

-- 冬山に関してバックカントリースキーについてのお考えは。

星野 パウダーの部分で、大事な要素だと私は思っています。これは日本の観光として取り組まなければいけないと思っています。今はもう世界の冬のトレンドと言えば、バックカントリーのパウダーです。オーストラリアから多くのスキーヤーが北海道や白馬に来ていますが、ほとんど彼らはパウダー狙いです。それにもかかわらず、日本のスキー場や山は、パウダーを楽しめるインフラが整っていません。観光産業の充実やインバウンドを増やすためにも、バックカントリーのインフラ整備は取り組んだほうがいいと思います。

 具体的には冬山を解放することですけど、「滑ってはいけない」という態度から「安全に滑りましょう」という態度に変えていくことです。そのためには、ガイドの制度を充実させることが大事です。ガイドはどこが危ないということを分かっていますし、無理をさせません。ガイド付きなら、私は大丈夫だと思います。また、雪崩などが起こる所には、そもそもガイドは連れて行かないですけど、何か事故があった時にもすぐに対応できる体制を取る。こういうバックアップ体制を整えた上で、バックカントリーを積極的に楽しむ体制やインフラがあると、日本のスキー業界は変わってくると思います。

 安全対策を十分にやった上でなら、後はスキーヤー、スノーボーダーの自己責任です。今は日本の国有林の冬山の中で何か事故があると、国や自治体、スキー場の責任が問われやすいですが、世界ではスキーヤー、スノーボーダーの自己責任がもっと通用しています。世界からパウダーを楽しみに来る人たちは、別に何かあっても日本の国に責任を取ってほしいなんて思っていません。ですから、自己責任を明確にして、かつガイド制度や安全な装備を整えて、みんなで素晴らしい日本の冬山を楽しもうと。こういう方向に向かうことが望ましいと思っています。

-- 実際に日本の環境は素晴らしいですね。

星野 日本はやっぱりすごいです。そういう意味では、観光大国の前にスキー大国です。夏のリゾートは、東南アジア、インド洋、ハワイ辺りまで全部ビーチがあり、例えば沖縄の競合は世界中に多い。ところが冬山の雪で競合を探すと、アジアではほとんどいない。寒いところは多いですが、これだけ雪が降るところはないです。日本は新幹線や車でアクセスできて、そこに1千㍍級の山があって、仮にけがをしても救急車が来てくれる。こういう環境は世界でまれです。

 もう1つ、日本の冬山スキーの特徴は、温泉だと思っています。温泉は、日本の観光資源として大きいですが、その温泉が、スキーやスノーボードのアクティビティーと相性が良い。露天風呂も雪見露天風呂があるぐらいで、雪との風景的な相性も良いし、体を温めるという意味での物理的な相性も良いです。スキー場のそばに必ず温泉があるのが日本の特徴で、温泉とスキーをセットにしているのは、世界最強コンビですね。そこも日本の特徴だと思います。

 
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