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経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

コロナショックによる教育業界の革命

戸村光

シリコンバレーで起業し、企業と投資家に関する豊富な情報を武器に活躍するハックジャパンCEOの戸村光氏。本連載では、資金調達、資本提携/協業、買収といったさまざまな事例を取り上げ、その背後にあるマネーの動きと企業戦略を、同氏が独自の視点で分析していく。『経済界』2020年7・8月合併号より加筆の上転載】

 

衝撃的だったラシダ・ジョーンズ氏のスピーチ

 2016年ハーバード大学の卒業式。学生生活の最後を迎え、明日からハーバード卒というブランドを背負って社会人として生きていく、気高い学生たちが式場に集まった。しかし、希望と期待にあふれた純粋な学生たちを震撼させる出来事がおこった。

 「ここにいるすべての卒業生は人生で大きな失敗をしているわ。だって世の中で大成功している人ほど、ここの大学を退学しているのだもの。私が調べた限り、ここの大学を卒業して成功している人は一人もいない」

 その言葉を発したのはハーバード大学の卒業生であり、ハリウッド女優として活躍するラシダ・ジョーンズ氏である。その言葉はハーバードの歴史上、最高に尖った卒業スピーチとなった。

 そのスピーチでラシダ氏が最も伝えたかったことは、「人生で最も大切なことは、自分の選択を愛し、システムに依存しないこと」である。

 旧態依然の大学というレールに乗っかり、自分のビジョンや未来を考えずに突き進むことが、いかに愚かで危険なことかをスピーチを通して語っている。この言葉はコロナウイルス流行によって未来が危ぶまれている、私たちにとって大きな教訓となるだろう。

学校の既成概念を覆したUdacity

 日本でお馴染みの年功序列型の教育制度。生年月日によって学年が決まり、同じ速度で学年が上がっていく。飛び級することは日本の制度では不可能に近い。その理由のひとつは、オフラインの授業ではクラスに参加するすべての生徒に対して理解できるように教師が指導するためである。

 一方で、オンライン授業では生徒が好きなタイミングで授業を受け、理解度に応じて各々の速度で学年を超えることができる。数年前よりスタンフォード大学の一部の授業では生徒に対して、自宅からオンライン(動画)で授業を受けさせ、学校ではテストを受けさせる「反転授業」の形式をとってきた。

 米国に学校の既成概念を破壊するスタートアップがある。Udacity(ユーダシティ)だ。同社はグーグルやフェイスブック、テスラ等の一流企業で働く一流人材を教師として招いて、オンラインで授業を行う。そこで得られる授業はすべてスキルベースで提供されており、ユーザーである生徒は欲しいスキルに合わせて授業を取得することができる。

 これもすべて反転授業であり、自分の好きな時間に授業を動画で受けることができる。クラスはコミュニケーションツールのスラックで管理されており、生徒通しの交流もそれを通じて行うことができる。

 さらに画期的なのは、授業を取得すると「nano degree」と呼ばれる独自の学位を取得することができ、その学位を利用することで、GAFA等の一流企業に最終選考まで免除されることができる。授業を取得するだけで、いわゆる内々定を得られることができるのだ。生徒の中にはハーバード入学後、1カ月で退学。同サービスを利用して半年以内にグーグルでエンジニアとして働き始める者もいるほどだ。

 またユーダシティは世界どこからでも、ネットがつながる環境では平等に授業を受けることができる。インドから授業を受けて、シリコンバレーでエンジニアとして就職を果たし、年収1千万円プレイヤーになる者も少なくない。

 どうして企業が同社の卒業生を欲しがるか。それはレベルの高さにある。同社が本社を置くマウンテンビューは、グーグル本社があるシリコンバレーの中心地とも呼ばれる都市である。筆者はマウンテンビュー在住歴7年になるが、車を運転していると、同社のセルフドライビングカー(自動運転する車)が走っている光景をよく見かける。高いレベルのエンジニアを雇い、自ら自動運転を始めとする、あらゆるテクノロジー領域を研究しているのだ。

 また、18年のラスベガスで開催されたCES(世界最大規模のテックカンファレンス)では、中国大手検索会社バイドゥーが米国のオンラインスクールであるユーダシティと巨額の投資を行い、研究開発を実施し、自動運転技術を20年までに大衆化すると発表し、世界を震撼させた。特筆すべき点は、11年に創業されたスタートアップのオンラインスクールが、大学の研究機関を凌駕するテクノロジー技術を保有しているとバイドゥーが認めたことである。

HUNTERCITY

ユーダシティを参考にしたサービスを筆者の会社でも展開している

今こそ即戦力が求められる時代に

 アメリカの大学では、優秀な学生ほど自ら事業を興し創業する。次に優秀な人はベンチャー企業に即戦力としてインターン採用される。残りの余った人材が、新人研修の行き届いた大手企業への就職を果たす。つまり彼らにとって最も大切なのは、いかに早く即戦力人材として社会に旅立てるかである。

 新型コロナウイルスにより、日本は今、旧態依然の教育スタイルが崩壊しかかっている。学校に行っても即戦力になれず、就職できる保証がないと学生が気付き始めたからだ。

 また、これにより新卒採用制度も崩壊することは間違いない。オンラインスクールの普及と共に、社会で通用する即戦力人材が年齢と学年関係なく、市場にあふれかえるからだ。

 国境を気にせず日本に流れる人材も増えるだろう。新型コロナウイルス流行によって教育業界、そして企業の採用形態に大きな変動が起きるのは間違いない。即戦力人材があふれかえる世界では、国籍も年齢も関係ない。手に負えないうねりとともに、力がある人材のみが生き残れる新時代が待っている。

 

戸村光戸村 光(とむら・ひかる)──1994年生まれ。大阪府出身。高校卒業後の2013年に渡米し、14年スタートアップ企業とインターンシップ希望の留学生をつなぐ「シリバレシップ」というサービスを開始し、hackjpn(ハックジャパン)を起業。その後、未上場企業の資金調達、M&A、投資家の評価といった情報を会員向けに提供する「datavase.io」をリリース。一般向けには公開されていない企業や投資家に関する豊富なデータを保有し、独自の分析に活用している。