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マンション修繕の在り方と方法は今のままで良いのか?

分譲マンションの居住者にとって、金銭面と利便性の両面で大きな負担となるのが15年程度の周期で行われる大規模修繕工事だ。また、10年以内に一度実施が義務付けられている全面打診調査なども、現状のやり方には問題が残る。本稿では、マンション修繕の諸問題と解決策をめぐる動きを探った。(文=吉田浩)

マンション大規模修繕

マンション住人を悩ませる修繕積立金の増加

 「え、そんなに掛かるの?」

 数年前、都内で十数世帯居住の中古マンションを購入したAさんは、管理組合の会合に出席して驚いたという。次年度から修繕積立金がひと月4千円以上も値上げされることが議題に上げられていたからだ。マンション管理会社の説明によると、数年後に迫った大規模修繕工事に向け、予算の不足を補うためにやむを得ない措置と説明された。

 Aさんが住むマンションは世帯数が少ないため、一戸当たりの負担額が大きくなってしまうという事情はある。だが、知人の不動産屋に尋ねたところ、程度の差こそあるものの、似たような事例は全国の分譲マンションで起きているという。

 主な要因は、初期の修繕計画の見通しの甘さや建設業界の人件費高騰などだ。老朽化したマンションの耐震工事を修繕積立金で賄った結果、大規模修繕工事の予算が大きく不足したというケースも見られる。

 建築基準法に定められた大規模修繕工事とは、建築物の主要構造部のどれか一種以上の過半を修繕することを指す。マンションの場合、壁、床、柱、はり、階段といった部分が主要構造部に当たる。

 通常、大規模修繕工事は、マンション居住者で構成される管理組合が長期計画を立て、住民から毎月積立て金を徴収する形で費用を捻出する。業者の選定に関しては、管理組合が複数の業者から相見積もりを取ったり、管理組合から委託された管理会社に一任したりといった形で行われる。

 ただ、多くの場合、住民で構成される管理組合は建築業界の素人。仮に相見積もりを取ったとしても、提示された金額が妥当なのかどうか判断するのは非常に難しい。

大規模修繕工事の内訳

マンションの大規模修繕工事の問題点

 国土交通省が定めた「長期修繕計画策定ガイドライン」には、大規模修繕工事の周期は12年程度との記載があるが、工事を行う時期について特に義務化されているわけではない。とはいえ、各部材には耐用年数があるため、一定の周期で部材を修繕したり交換したりする処置は必要だ。修繕を怠って建物の老朽化が進めば、マンションの資産価値下落が早まる可能性もある。

 ただ、15年程度の周期で行う大規模修繕工事には無駄も多い。一般的に、工事の周期は最も耐用年数が長い部材を基準に決められるため、工事を待たずにダメになる部品が出てくることもしばしば。結局、丸ごと交換が必要な部品が増えることによって、最終的な費用が嵩んでしまう傾向にある。

 工期中の住民負担も問題だ。マンションの規模にもよるが、大規模修繕工事には3カ月かそれ以上かかることがほとんど。その間、住民は騒音や、塗料や防水工事の際に発生する臭いなどを我慢しなければならない。作業は通常、足場を組んで行われるため、日当たりにも影響があるうえ、事故防止や防犯の面でも不安が残る。

 また、建築基準法第12条では、10年以内に「全面打診調査等」を行うことが義務付けられており、違反すれば建物の所有者、管理者に罰金が科せられる。こちらも足場を組んで行う大掛かりなやり方が主流で、住民は精神的な負担と物理的な不便を強いられることとなる。

ロープとドローンを組み合わせた新たな工法も登場

 こうした現在の修繕の在り方に疑問を呈し、新たな手法を提案する動きも出てきた。簡単に言えば、建物の状態が悪化してからからまとめて修繕を実施するのではなく、悪くなる前に数年ごとの小まめなメンテナンスを行う方向への転換だ。

 その1つが、足場を立てる代わりにロープを使用し、外壁の調査や雨漏りなどのメンテナンスを行う無足場工法の導入だ。足場を設置する工法の諸々のデメリットが解消でき、工期短縮や工事費用の削減などが期待できる。

 例えば、東京都府中市に中心に活動する建築リフォーム会社のクレンセでは、ロープ工法とドローンを組み合わせた建物の調査を展開している。建物の周りに赤外線カメラを搭載したドローンを飛ばし、問題がある箇所を判断するというもの。隣の建物との距離が近く、ドローンが入り込めないような場所については、ロープを使って打診調査などを行う。こうしたやり方を導入することによって、無駄のない効率的なメンテナンスが可能になるという。

 「ロープとドローンを組み合わせて使う最大のメリットはスピードです。全面打診調査の場合、足場を組めば1週間、ロープだけなら数日かかるところを、1日で済ませることもできます」

 と、同社代表の神崎斗志氏は説明する。

 現状では、赤外線より人間が実際に打診調査するほうが検査制度は高い。また、自治体によっては、こうしたやり方で現在主流の全面打診調査を代替することに対して後ろ向きなところもあるなど、まだ課題は残る。とはいえ、ロープとドローンを組み合わせた工法には管轄官庁である国土交通省も関心を示しており、各地で勉強会などが開かれ始めている。

大規模修繕から小中規模のメンテナンスへ

 また、ロープ工法を手掛ける別の業者はこう語る。

 「ロープ工法を行っていない会社の場合、一階の周辺と屋上などを長めの打診棒で外壁の浮き具合などを調査して、人の感性を基準に概算で見積もりを出したりします。結果として、修理する必要のない箇所が含まれて費用が嵩んでしまうことがあります」

 逆に、修理が必要な個所が放置される弊害もあるという。

 「たとえば、シール材の保証期間は大体5年間で実際は10年間くらい持つことが多い。それを15年間何もしなかったために雨漏りが始まって、建物の中に水が回って空洞化が起きたり鉄がさびたりします。人間でいうとガンが進行している状態ですね。こうした状態に陥らないためにも、大規模な工事を行う前に調査を行って、この個所は5年おき、別の個所は10年おきにメンテナンスを施すといった棲み分けを行い、必要な金額を算出する方法がベターだと思います」

 建築業界の慣習は、部外者にはなかなか実態が掴みにくい。ここで紹介した新たな動きは、すべてのケースに適用できるわけではないものの、マンション購入者としては頭の隅に入れておきたいところだ。