経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

経営者を悩ますテレワークの業務管理と評価方法はどうすれば良いのか 野崎大輔

社労士・野崎大輔氏

現在も猛威を振るう新型コロナウイルスの災禍。政府の「働き方改革」の大号令には反応の薄かった日本の中小企業も、ここに来てテレワークをこぞって導入し始めた。「思ったよりも便利。会社のムダに気づいた」という経営者の好反応が見られる中、その後に続くのは、「いらない社員もわかった」というホンネの一言。ウィズ・コロナ時代のテレワークの業務管理と問題社員の対応について、鬼滅の社労士・野崎大輔氏がぶった斬ります。(聞き手・文=大澤義幸)

経営者に問われるテレワークの業務管理と社員の評価体制

テレワークのメリットとデメリット

―― 鬼滅の野崎さん、お久しぶりです。実に1年ぶりのウェブ連載(第8回)です。緊急事態宣言解除後も新型コロナの感染者は増える一方ですが、やはり新型コロナと言えば、小池百合子都知事の「東京アラート」。これに尽きます。都庁やレインボーブリッジの赤い光は私たちの記憶に何も残さず消え、そして日本の歴史に黒く刻まれました。

野崎 大澤さん、冒頭からディスりすぎです(笑)。まあ確かに「東京アラート」とは何だったのか、私もわかりませんでしたが。いずれにしても、新型コロナが日本経済を支える企業経営に及ぼした影響は計り知れず、私たちの働き方を変えるきっかけとなったのは事実です。

―― そうですね。「働き方改革」の象徴ともいえるテレワークが急速に普及しましたし。野崎さんの取引先企業ではいかがですか?

野崎 テレワークは業界・業種を問わず増えましたね。緊急事態宣言が発令され、テレワークを導入せざるを得ない状況に迫られて、というところがほとんどです。私も何人もの経営者から、「運用をどうすればいいのか」「社員がサボらないか心配だ」といった相談を受けました。

 ただ実際に始めた経営者から話を聞くと、「テレワークは便利。サボる社員もいるが、経営や売り上げに支障はない。たくさんのムダがあるとわかった。もっと早く始めればよかった」という声が多く聞かれました。

―― 弊社(経済界)でも昨年から東京五輪を見据えた時差通勤を始めましたが、新型コロナを機に今年5月からテレワークも一部併用しています。社員の健康と働く環境を守るという面からは賢明な判断ですし、逆に何も対応しない経営者は非難を浴びますよね。野崎さんから見て、企業がテレワークを始めるメリットはどこにあるのでしょうか?

野崎 テレワークはしっかり管理することで、隠れていた多くのムダを発見できます。例えばZoomなどを使うことで、出社や出張など「人のリアルな移動」によって生じる時間やコストのムダを減らせます。朝礼やミーティング、取引先との商談はどこにいてもできるとわかりました。

 経営者の多くは「社員がいなくても会社が回る」ことに驚いたのではないでしょうか。今後もテレワークを継続するのであれば、オフィスも賃料の安い小さなところに移転して固定費を削減することも可能です。

―― 私もそのメリットは大いに感じます。また、特にZoomは仕事もそうですし、コミュニケーションの在り方も変えましたね。営業自粛や不要不急の外出制限を受け、リモート飲み会も話題となりました。

 もっとも、最近は上司から部下へのリモート飲み会の勧誘(=強要)などもあるようで、仕事後も上司との飲み会に延々と付き合わされる、家にいるのに服装も整えないと、といった嘆きの声が聞かれます。これはもはやリモートパワハラですよね。

野崎 確かに(笑)。大事なのは、「世間でテレワークが始まったから、うちも全てオンラインにする」と流行に乗ってしまうことです。オンラインで効率化できるものはオンライン、オフラインでリアルのほうが良いものはリアルといった使い分けが重要です。

―― デメリットについてはいかがですか? 経営者が導入をためらう理由の一つに、「見えないところで社員がサボるのではないか」という懸念があります。実際にサボる社員は多いでしょうし、そこは性善説で社員の自主性に、とは言えない部分ですよね。逆にワーカーホリックになって、朝も昼も夜も休まずに仕事をしているという状況もありそうです。これはテレワークの弊害ですよね。

野崎 そうですね。テレワークの導入で最も大きく変わるのは、社員個人の仕事の裁量が増えることです。労働法では特定の職種について裁量労働制が定められていますが、それ以外の職種でいきなり裁量労働だと言われても難しい。時間の使い方、仕事の優先順位、進め方なども個人で決める必要が出てきます。大澤さんがおっしゃるように、大半の人はサボりますから、会社としていかに管理するかが重要です。

―― では、経営者はテレワーク導入に際して、どう業務管理すればいいのでしょうか?

重要なのはテレワークの運用管理者と業務の評価者を分けること

野崎 テレワークは、社員の仕事の状況を客観的な数字(仕事の量・質、売り上げ、達成率など)で管理することが前提です。そのためには業務の内容を可視化する業務管理システムを入れたり、テレワーク導入前よりも詳細な日報・週報などの提出を義務付けるといいでしょう。

―― 一社員の立場からは監視されているようで嫌なものですが、業務管理はしっかりやらないと会社の存続に関わりますしね。次に、業務の評価についてはどうすればいいのでしょうか。いくら働いている姿が見えないから客観的な数字で評価するといっても、機械的に数字しか見ない評価をしたり、到底達成できない厳しすぎるノルマを課せば、社員の反発に遭い、やがて社内は疲弊していきます。その空気に嫌気が差して集団退職という状況に陥ったら悲惨ですよね。

野崎 そうならないために、最も重要なのは管理者と評価者を分けることです。例えば、テレワークを初めて導入する企業の場合、運用管理者としてITや制度に詳しい人を担当にします。これはスムーズな運用のためにも当然ですよね。ここで注意したいのが、運用管理する立場を超えて、その業務で得た情報を元に社員を評価する(評価につながる)仕事をさせないことです。

―― あくまでも任せるのは運用管理であって、管理する情報について恣意的・主観的な判断はさせない、権限を持たせないということですね。なるほど、管理と評価は別物ですしね。

野崎 そうです。例えば業務報告書の内容が正しいかどうか、それについてどう思うかといった判断は、管理者の仕事ではなく評価者の仕事です。その評価は、現場を知る部門長やプロジェクトリーダーが責任を持ってやる。もし他社で実績のある社員でも、会社に中途入社したばかりでいきなり評価者に抜擢されれば、元からいる他の社員は「会社のことも社員のことも何も知らないだろう」と不審がるでしょうし、反発は避けられません。もし権限を与えられたのが実績のない社員であればなおさらです。……まあ普通の会社であればそんな人事はあり得ませんが。

―― 他者を評価するうえで、現場の業務や人について知っていることは絶対条件ですしね。それに特定の社員に情報や権限を持たせすぎると、企業にとってはリスクになりますよね。難しいのは、大企業では当たり前に職務が分かれるのでしょうが、人員の限られた中小企業やベンチャー企業では「管理者兼評価者」とならざるを得ない環境も多そうです。

野崎 それが一番ダメ。経営者が誰を責任者にするかをきちんと見極めて裁量を与えなければ後に大問題になります。現にITベンチャーなどで、若い社長が若い社員のやる気を酌んで重要なポストに抜擢し、それが少し回り始めると兼務させ過ぎるケースがあります。

 権限を与えられた若手は勘違いしやすいので、やがて暴走し始めて問題社員化します。そうなってからでは社長も、他の社員も誰も手が付けられなくなくなります。最悪会社と揉めて、ようやく雇用できた「期待の星」が辞めていくという悲劇が起こります。

―― 私も以前勤めていた会社で、エースが問題社員化して退職するというケースがありました。そうなったら終わりですね。その問題社員が辞めた後、経営者が「残った社員で頑張ろう」とハッパをかけますが、1度めちゃくちゃになった人間関係や信頼関係の修復は容易ではありませんし、残った社員たちも「そもそもの人事の問題だろう」と思いますし。

 結局、そこでは営業部が全員辞める事態になりました。ただ、問題社員化する兆しはあるので、経営者が敏感に気づいて一刻も早く修正できるかにかかっていますね。最悪の事態を招かないためにも、適材適所の人材配置と権限の付与には慎重になりたいものです。

野崎 そのとおりです。あとは、少し横道にそれますが、評価の際には「仕事をやっている感」、つまり雰囲気や印象で社員を評価するのはやめましょう。例えば、パソコンの前にいれば、会社に遅くまで残っていれば仕事をしている、いつも笑顔で元気な挨拶をしていれば仕事ができるといった雰囲気です。テレワーク勤務はこうした雰囲気が見えませんから、この手の評価を一掃できるいい機会です。

―― 雰囲気で「あいつは有能だ」と勘違いする経営者や上司には別の問題がありそうですが(笑)、人間だもの、印象や外見の好みで流されてしまうことはままありますよね。そこに気を付けるだけでも人を見る目は変わりそうです。

テレワークで見つかった問題社員をどうするか

経営者は問題社員をどう処遇するべきか

―― 野崎さんがおっしゃったように、経営者のみなさんは「テレワークでムダがわかった」と一様に話します。そして、その大半が「実は、いらない社員もわかった」と続けます。隠れていたムダはモノやコトだけではなかったということですが、テレワークで社員の問題行動が発覚して、極論ですが、あらためて辞めさせたいほどの問題社員であると感じたとき、経営者はどう対応すればいいのでしょうか?

野崎 その相談は多いですよ。新型コロナで業績が悪化して給与が払えなくなるから社員に辞めてもらう、これは会社にとってやむを得ない事情です。しかし、そうした事情は抜きに、会社に悪影響を及ぼす問題社員がいる場合は一刻も早く辞めてもらったほうがいい。私は正直そう考えています。

―― ありがとうございます。現代はそう話すことを許さない社会の風潮がありますが、まじめな社員と問題社員は別物なので、経営者の立場からすれば当然そう考えるべきですよね。ただ、労働法は労働者を保護するためのものですし、たとえ問題社員が見つかっても、辞めてもらうのはそう簡単なことではありません。

野崎 そうですね。最近は新型コロナを理由にした整理解雇であっても、解雇に至るまでに雇用調整助成金などを活用して社員を雇い続ける努力をしたかが問われたりします。解雇の前段階として、まずは客観的評価を元に減給や降格を考えるのがいいでしょう。まじめに頑張って働いている人がきちんと報われるように、評価と処遇で差を付けることは大切です。ただし、働かない人は他でも通用しないことを自覚しているので、会社にしがみつくかもしれませんが。

―― そうしたどうしても辞めない問題社員への対応は?

野崎 「言い方」もありますね。ある製造会社のケースで、怠けてばかりでまともに働かない問題社員Aさんがいました。まず社長から「本来やるべき仕事の給与に、今の仕事内容が見合っていない」と伝えてもらいましたが、行動も態度も変わりませんでした。

 そこで社長と相談のうえ、次の面談で「今まで何度も伝えてきましたが、Aさんの成果は新入社員と同程度で改善が見られません。他の社員にない特別手当は廃止します」と伝えました。すると、Aさんは次の面談の前に自ら辞めると言ってきたんです。私は長期戦を覚悟していており、社長も「給料を下げてそれに見合った仕事をしてもらえればいい」と話していたのですが、問題社員はプライドが高いことが多く、減給や降格で自分が侮辱されたと思ったのでしょうね。もう一つは、面談であれこれ言われるのが嫌だったのでしょう。プライドが高いのでダメ出しに耐え切れなくなるんですね。

 もっとも、会社はやるべきことをちゃんとやってくださいと言っているだけで、これは至極真っ当なことです。会社がAさんに求めることを根気よく言い続けて、業務の進捗をまめに報告させる義務を課したことで、会社にいるのが面倒になったのだと思います。

―― 面白いですね。これは問題社員の整理解雇などに限りませんが、自ら退職を希望する社員を含め、その対応で経営者が留意すべきことは?

野崎 ポイントは、丁寧な説明と手順を間違えないことです。例えば、特定の部署ごと全員を整理解雇する場合、いずれ社内に噂は広まってしまうので、事前に当該部署の社員を集めてお詫びと説明をしておきます。突然の人事発表は現場の混乱の種になりますから。

 情報をオープンにしてからは、一人一人面談して「あなたには退職してもらう」と説明していきます。去り際は感謝の気持ちを込めて丁寧に送り出す。手間はかかりますが、この過程を面倒くさがってやらないから後に揉めるんですよ。自ら退職を希望する社員に対しても、感謝と丁寧な対応は同じように必須です。

―― 退職する社員が冷遇されているのを見たら、他の社員も楽しくはないですしね。私たちの世代までは「会社は1度勤めたら一生働く」という文化がありましたが、今はどの会社も出戻り社員がいますし、退職者が事業パートナーや顧客になる可能性もあります。逆にケンカ別れして逆恨みされ、会社の悪口をインターネットの掲示板に書かれでもしたら、会社の評判を下げるリスクとなりますよね。

トラブル回避のために経営者が気を付けるべきこと

野崎 そうですね。また退職以外のケース、実際に例えば「新型コロナで業績が悪化し、業務量が減ったので内定を取り消したい」という相談を受けました。私はその社長に、「内定者の家の近所まで行ってお詫びをしてください」と話しました。それを伝えるために社長が内定者に電話をかけると、先方から「悪いからわざわざ来なくていいです」と断りがあったそうです。これを最初から電話で済ませようとするから相手は怒るんですよ。

―― 手順と、人としての当たり前の気遣いですね。言いにくいことほど、リアルな場で丁寧に話すようにする。

野崎 トラブル回避のためにもそれが一番です。退職の説明や降格人事、内定取り消しなどネガティブな内容は、リアルな場で顔を合わせて話すべきです。海外では紙1枚やメール1通でトップが部下を解雇しますが、文化の違う日本では説明の手間を惜しんではいけません。

―― 先ほど野崎さんがおっしゃっていた、オンラインとオフライン(リアル)の使い分けにも通じますね。

野崎 そう。そのケースに適した行動を考えながら、時代に合った新しいオンラインツールを上手に活用していくことが業務効率化や社内活性化につながります。私も近々、YouTubeで配信を始めるつもりです。

―― ついに! 楽しみですね。どんな内容なんですか?

野崎 潜在意識が人間の行動にどのような影響を及ぼすかというテーマを考えています。私も自分自身で実験してみましたが、潜在意識を整えることで良い変化が起きるようになるんですよ。これは仕事に限らず、例えば結婚や恋愛もそう。私が結婚……。

―― 面白そうな話ですが、「続きは、『野崎チャンネル』(仮)で」にしましょう。本日はありがとうございました。

野崎 最後まで「鬼滅」の伏線回収はないんですね(笑)。ありがとうございました。

社労士・野崎大輔氏

(のざき・だいすけ)。日本労働教育総合研究所所長、グラウンドワーク・パートナーズ株式会社代表取締役、社会保険労務士。上場企業の人事部でメンタルヘルス対策、問題社員対応など数多の労働問題の解決に従事し、社労士事務所を開業。著書『「ハラ・ハラ社員」が会社を潰す』(講談社+α新書)など

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