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マンハッタン賃貸オフィス市場に逆風 テレワーク普及で記録的需要減

ニューヨーク在住ジャーナリスト 肥田美佐子

大活況から暗転した賃貸オフィス市場

 州内で最もロックダウン(都市封鎖)解除が遅かったニューヨーク市でも、6月8日に一部経済活動が再開。同月22日には、レストランも、オープンエア席(店外)での営業開始にこぎつけた。

 だが、コロナ禍は多くの業界に深刻な影を落としている。その一つが商業不動産、特に賃貸オフィス市場だ。

 英ロンドン本拠の不動産サービス会社、サヴィルズが6月30日に発表した2020年第2四半期(4~6月)報告書によると、ニューヨーク市マンハッタン区の賃貸オフィス需要が記録的な落ち込みを見せている。

 同報告書によると、第2四半期に賃貸契約が結ばれたオフィス面積の総計は330万平方フィート。前期比で57・8%減、前年同期比では71・2%減だ。

 組織がテレワークの継続を強いられる中、賃貸に関する決定が「パンデミックによる中断・休止」のあおりを受けている。企業は、「戦略的優先事項や経営モデル、コスト構造、オフィス面積を再検討している」と、サヴィルズは分析する。

 ひるがえってコロナ禍前は、グーグルやフェイスブックなど、テック大手の大規模オフィス開設計画で、マンハッタンの賃貸オフィス市場は大活況を呈していた。だが、コロナ危機で暗転。4月2日付の地元経済紙『クレインズ・ニューヨーク・ビジネス』によると、今年第1四半期(1~3月)の賃貸オフィス契約は前期比で約50%減だった。

 今年3月の時点で既に大きく落ち込んでいたマンハッタンの賃貸オフィス市場だが、第2四半期は金融危機以来の需要減を記録。空室率は11・8%だった。

 10万平方フィート超の大規模賃貸オフィス契約も不振だ。大型契約トップ10の中には、米証券取引委員会(SEC)のような、オフィス移転による新規契約もある。だが、マンハッタンに米国本店を構える北米三菱商事のような「契約更新」が、トップ10の6割を占める。

 エリア別では、中国系企業が運営する動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の新規オフィス開設など、トップ10のうち、マンハッタン中心街タイムズスクエアの賃貸オフィス契約が44・4%に上る。

ⓒJonathan Riley on Unsplash

不動産をめぐる決定は棚上げ状態に

 交渉段階でコロナ禍に見舞われた案件の中には、家賃が10~20%下がったケースもある。だが、総体的な提示価格は、前期比で1・3ポイント減にとどまっている。

 というのも、マンハッタンでは、家賃の提示価格は景気に遅行する「遅行指数」だからだ。大家は強気な姿勢を崩さない。とはいえ、今後も続く市場の軟化は提示価格の下押し圧力になるという。

 新型コロナウイルスの「不確実性」という霧が晴れるまで、不動産をめぐる決定の多くは「『パンデミックによる中断・休止』で棚上げの状態が続く」と、報告書は結論づける。

 マンハッタンは、テレワークが容易なホワイトカラー職の牙城だ。多くの企業が従業員の安全確保やコスト削減を重視する中、賃貸オフィス市場の逆風は続く。(『経済界』2020年9月号より転載)   

筆者紹介―肥田美佐子 ニューヨーク在住ジャーナリスト

(ひだ・みさこ)東京都出身。『ニューズウィーク日本版』編集などを経て渡米。米企業に勤務後、独立。米経済・大統領選を取材。スティグリッツ教授をはじめ、米識者への取材多数。IRE(調査報道記者・編集者)などの米ジャーナリズム団体に所属。『フォーブスジャパン』『週刊東洋経済』『プレジデント』『週刊ダイヤモンド』などに寄稿。