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ヘルスケア領域に革命を起こすウェアラブル体温計の可能性―田中彩諭理(HERBIO CEO)

経済界が主催するベンチャービジネスコンテスト「金の卵発掘プロジェクト2019」でグランプリを獲得したHERBIO(ハービオ)の田中彩諭理社長。ウェアラブル体温計から展開するさまざまなサービスで、ヘルスケアの世界にイノベーションを起こす挑戦を紹介していく。(取材・文=吉田浩)

田中彩諭理・HERBIO CEOプロフィール

(たなか・さゆり)1985年生まれ。青森県出身。大学・専門職大学院で臨床心理学を専攻するも、実業の世界に興味を持ち、精神保健福祉士(PSW)の受験資格を取得して福祉関連の企業に就職。その後ゲーム関連の人材会社、教育系ベンチャー、IoTベンチャー企業などを経て2017年に独立。2019年株式会社経済界が主催する「金の卵発掘プロジェクト2019」でグランプリ受賞。

ウェアラブル体温計の誕生とその特徴

臍に装着する体温計

 ほとんどの家庭に1台は置いてある体温計。普段あまり出番はないが、体調がすぐれないときには必要不可欠なものだ。保育園に通っている子供や持病を抱えた高齢者がいる家庭では、毎日使用するというケースもあるだろう。

 田中彩諭理氏が起こそうとしているのは、その体温計を用いたイノベーションである。

 開発したのはウェアラブル体温計。通常の体温計と違って臍部に装着し、アプリによって体調管理を行うというものだ。

 充電式で35時間連続稼働、体温の連続計測、肌荒れしない素材の使用、0.01℃の温度差が判定可能、大多数の人の臍にフィットするサイズ、就寝中装着でも違和感がない等、さまざまな特徴がある。

 とはいえ、どこにでもある体温計をわざわざ小型化してウェアラブルにすることのどこがイノベーションなのか、今一つピンとこない読者もいるのではないか。田中氏がそこに着目した理由と、製品開発に至った背景をたどると、その革新性が見えてくる。

ウェアラブル体温計の試作品

実は正確に測れていなかった体温  

 市販の体温計で測る数値は、思ったほどアテにならないというのはあまり知られていない。

 多くの場合、体温計を脇の下に挟む、額に当てる、口にくわえるといった測り方となるが、挟む場所が適切でなかったり、汗をかいていたりと、さまざまな要因で測定数値に誤差が出てしまうためだ。そのため、われわれが自分で平熱と思っている体温には意外と根拠がない。田中氏はこう説明する。

 「体温計は予測値と実測値の2つに分かれていて、電子体温計で測った数値は、実はアルゴリズムを用いて判定した予測値なんです。脇の下で測る場合、サーモグラフィで見ると一番熱い部分は一部分しかなくて、実測値を測るには10分くらい測らないといけないんです」

 人間をはじめとする恒温動物は、脳や内臓の働きを維持するために体の内部の温度を安定させている。正確に検温を行うには、この深部体温を測るのが一番良い。しかし、深部体温測定は直腸の温度を測るのが最も適しており、当然ながら家庭で簡単に行うことはできない。

 そこで、田中氏が着眼したのが臍である。臍は体の部位の中でも深部体温を反映するという学術的なエビデンスがあり、体幹部に位置して汗腺がないために外部環境や汗に影響されにくい。さらに装着したまま動いても外れにくくすることができる。

ウェアラブル体温計でできること           

 医療の世界において体温は、心拍数、呼吸、血圧と並んで生命の兆候を示す指標として「バイタル」と称される重要項目である。これをウェアラブルデバイスで正確に把握できるようになることで、ヘルスケア領域でさまざまな展開が可能になる。

 例えば、女性の基礎体温測定だ。妊活などで月経周期を正確に知りたい場合でも、どうしても不正確な測定になりやすい。基礎体温は舌下で測るのが一般的だが、唾液などで結果が変わってしまう。そこで寝ている間に臍に装着することで、簡単かつ正確に体温を測ることができる。

 熱中症の予防にも有効だ。現在取られている熱中症対策は、とにかく水分を小まめに取る、休憩を多く取るといったものだが、熱中症にどれだけかかりやすいかは個人差がある。例えば建設現場などで作業員一人一人に体温計を装着してアプリで監視することで、体温変化に異常のある人を休ませるといったことが可能だ。

 病気にかかりやすい幼児や高齢者の見守りとして装着させることも考えられる。変わったところでは、アスリートがベストパフォーマンスを出すために最適な体温の状態を知りたい、という需要もあるという。

 さまざまな展開が期待される製品開発にたどり着いたのは、女性ならではの視点と経験があった。

田中彩諭理氏がウェアラブル体温計に着眼して起業するまで

臨床心理士から方向転換        

 田中氏が人の健康や生死に関心を向けるようになったのは中学生のころだ。当時、乳がんを患った祖母がホスピスに入ったことで、「人間が生きるためにはどうすれば良いのか」「死の苦しみを軽減するにはどうすれば良いのか」という思いを強く抱くようになったという。

 「生きたいのに生きられない人を救いたい」

 そんな思いで選んだ道は臨床心理士の世界だった。大学と専門職大学院では、カウンセリングや精神分析を通じて、鬱病などの心の病を持つ人を救う手法について学んだ。しかし、現場での実習などを経験するにつれて徐々に違和感が膨らんでいったという。

 「臨床心理をやって感じたのは、本当に救いたい人を救えないという無力感でした。カウンセラーは5年、10年のスパンで、本当に治りたいのかどうか自分でも分からない人にも寄り添って二人三脚で歩まないといけないのですが、その間に患者さんが死んでしまうこともあります。果たしてこれでいいのだろうかと」

 もちろん、臨床心理士の仕事に対するリスペクトは抱いている。しかし、10年間掛けて数人を救うことが果たして自分のやりたいことなのか、迷いが生じた。

 「それならデータを可視化できるものをつくったほうが、いろんな人の助けになるのではないかと思ったんです。結局、大学院は1年半ぐらいで中退しました」

 臨床心理士という専門職ではなく、広く経済活動にかかわる中で、人を助ける仕組みをつくるほうに興味の矛先が変わっていった。

田中彩論理氏
当初は臨床心理士を目指していた

必要とされる場所を転々とする  

 大学院を中退して、まず始めたのは育児困難家庭を支援するボランティアだった。たとえば、母親が鬱病や統合失調症などでして子育てが難しい家庭で一緒に家事をしたり、子供の面倒を見たりしていた。

 その後は人材紹介会社、教育系ベンチャーと、声を掛けられて興味の赴くままに転職した。当時は起業を意識していたわけではなく、自分が必要とされる場所に行ってみることで何かをつかもうとしていた。

 人材紹介会社では採用コストの削減の仕方やアイデアを出しやチームの作り方を学び、ベンチャー企業では事業責任者として営業チームをまとめながら新規事業の企画と実践などもこなした。

 「1年おきに転職して、勤務地も奈良、京都、大阪、東京と転々しましたが、改めて自分が何をしたいか考えていた時に、誘われて出たスタートアップのイベントに出て優勝したんです」

 そのイベントで発表したのが、体調管理ができるウェアラブルデバイスだった。まったくのアイデアレベルだったが、周囲からは高く評価を受けた。この出来事によって、独立を本格的に意識するようになる。

 では、体調管理のウェアラブルデバイスという発想はどこから生まれたのだろうか。影響したのは2つの出来事だったと田中氏は語る。

 まず、自分自身が学生時代から深刻な月経痛に悩まされていたこと。周期を管理するアプリなども試してみたが、上手くいかなかった。毎朝の基礎体温測定も、測定のために寝床でじっと動けなかったり、正確な温度が測れなかったりと、不便なことが多かった。

 もう1つは自宅介護していた祖父が亡くなったことだ。死因は肺炎だったが、体調の変化にもっと早く気づいていたら救うことができたかもしれない、という思いがずっと残っていた。

 「体温測定を正確にできていたら、もしかして感染症かもとか、早めにいろいろなことが分かったかもしれません。でも自宅で体温をモニタリングできるようなものがなかったんです」

修行目的でベンチャー企業に入社

 機械やテクノロジーについて考えるのは大好きだったという田中氏は、新しいハードウェアをつくって事業を起こすことを決意した。

 イベントの2か月後、IoTハードウェアの開発を行うスタートアップ企業に入社。この時の転職は、起業を前提とした修行という目的がはっきりしていた。

 「当時は従業員が5~6人しかいないベンチャーで、入社翌日からデバイスの構造もよく分からないままカスタマーサポートを1人で任されました。他にも経営に必要な人事、労務、会計、さらに工場とのやり取りや補助金の申請まで、1年半で本当にいろいろなことをやりました。濃くて楽しい経験でしたね」

 こうして起業に向けた準備は着々と進んでいたが、重要な問題が残っていた。肝心のデバイス開発を、誰とどう行うのか。そんな時、独立後の運命を大きく左右する出会いが訪れることになる。

ベンチャー企業で修業し起業準備を進めた

共同開発パートナーとの貴重な出会い

 スタートアップ企業で修業する傍ら、ビジネスコンテストで優勝したウェアラブル体温計のアイデアを元に起業しようと考えていた田中氏だが、まだ課題は残っていた。

 臨床心理士を目指していた時に感じた「心を扱うだけでなく、データで可視化できる方法で人を救いたい」という思いを具現化するには、科学的な知見と学術的エビデンスの積み上げが不可欠。しかし、調べたところ人間の体温について研究している専門家は非常に少なかった。

 そんなとき目に留まったのが、当時、早稲田大学人間科学部の博士課程に在籍していた丸井朱里氏の論文である。丸井氏は人間の体温や女性ホルモン、熱中症などに関する研究を手掛ける稀有な存在だった。田中氏は早速SNSを通じて丸井氏とコンタクトを取り、話を聞かせてほしいと依頼した。

 「自分と年齢も近くて、バイタリティ溢れる女性研究者という印象で、もしかしたら通じるものがあるかもしれないと思ったんです。自己紹介から始めてすごい長文を書いてコンタクトしたんですが、最初は怪しまれましたね(笑)」。

 実際に丸井氏と会ってみると、すぐに意気投合したという。

 「女性目線で、体温を正確に測れるウェアラブルデバイスがあったらいろんな人が救われるという部分で共感してもらい、一緒に開発を進める方向で話が進んでいきました。会社やビジネスに対する考え方も似ていて、今ではお互いを尊重し合える最強のパートナーになっています」

 この2人の出会いはお互いにとってメリットが大きかった。                     

 「ビジネスの世界にいる自分と、アカデミックな世界にいる丸井では違う部分で価値が発揮できます。彼女がアカデミックな世界で獲得してきた最先端の知見を活用できる一方、こちらもビジネスの世界で得たさまざまな発見を研究にフィードバックすることができるからです」

 丸井氏との共同開発は1年ほど続き、知財などが固まってきたタイミングを見計らって、田中氏はいよいよ独立を果たす。2017年9月27日、田中氏がCEO、丸井氏がCROに就く形で創業。ウェアラブル体温計の開発を手掛けるベンチャー企業HERBIOが誕生した。

ウェアラブル体温計開発の経緯と乗り越えた課題

試行錯誤を重ね製品開発に取り組む

 丸井氏という強力なパートナーを得た田中氏は、その後も試作品製作、資金調達など、山ほどある課題に挑戦していった。

 当初は女性向けの製品を想定していたため、ペンダント型やクリップ型のデバイスも候補にあったという。既に海外では、耳の中に入れたり皮膚に貼ったりする体温測定デバイスもあった。しかし、いずれも汗や空気に触れることで測定結果に影響が出るのが否めなかった。求めているのは、深部体温を正確に測ることができ、身に付けていて違和感が生じにくいものだ。

 丸井氏と共に実験と検証を繰り返した後、最終的に体温計を装着するのにベストな部位は、汗や空気に触れることによる影響を受けにくく、正確で安定的な測定が可能な臍だという結論に達した。

 臍に装着するためのデバイスの小型化に関しては、さほど問題はなかったという。むしろ苦心したのは、デザインのほうだった。人によって臍の形は千差万別。老若男女、誰もが違和感なく装着できるよう、万人の臍の形を平均化する作業が必要だった。

 「製品の形状に関しては、時計メーカーでデザイン経験のある知り合いの方に頼み込んで作ってもらいました。ハードウェアの製作においては、外側のデザインと中の設計では領域が全く異なります。こちらからデバイスの原理を伝えて、最低限必要なサイズや形状についてフィードバックをもらい、丸井と一緒に粘土などで形を作って、それをデザイナーに伝えてまたブラッシュアップしていくといった作業を繰り返していきました」

こうした苦労を重ね、約1年半をかけて試作品がようやく完成した。

田中彩諭理
試行錯誤の末、試作品が完成

薬事承認、人材などの参入障壁を乗り越える

 製品開発と同時に進めていた資金調達も一筋縄ではいかなかった。

 ウェアラブル体温測定デバイスは医療機器に属するため、商品として世の中に出すには厚生労働省による薬事承認を得なければならない。また、田中氏は以前勤務していたベンチャー企業でIoTに携わった経験はあるものの、この分野でハードウェアの事業を展開する女性はほとんどいない。

 これらのことから、投資家などからは「本当に実現できるのか」と懐疑的な目で見られることが多かったという。

 「例えば、医療機器の製造販売業者として認可を得るためには、統括製造販売責任者、安全管理責任者、品質保証責任者のいわゆる薬事三役がいないとダメなのですが、そうした人材を社内に揃えたり、製造する場所なども決めないといけません。とにかくやることが多かったです」

 医療機器業界に参入するには、経験豊富な人材が不可欠だ。不足する人材はツテをたどって大手製薬会社勤務の経験がある人物を紹介してもらったり、ピッチコンテストの場でアピールしたりするなどして少しずつ体制を整えている。

 そうした努力が実を結び、18年8月にはベンチャーキャピタルから資金調達に成功。薬事承認取得のめども立ち、本格的な市場投入に向けて、いよいよ準備は整った。

起業家・田中彩諭理氏とウェアラブル体温計のこれから

命に関わる分野から優先的に攻める

 2019年11月に開催された「金の卵発掘プロジェクト2019」の最終審査会に臨んだ田中氏は、試作品ができたばかりのウェアラブル体温計と、HERBIOのビジネスプランについてプレゼンテーションを行った。

 ウェアラブルでかつ、深部体温を正確に測定するデバイスという着眼点。さらに、デバイスにためた体温データをクラウドに飛ばしてウェブで見たり、体調管理をスマホアプリで行ったりできる仕組みは、審査員たちから高い評価を受けた。最終的にグランプリを獲得することになり、今後の事業展開に参考になるさまざまなヒントも得ることができた。

 「たとえば、スマート介護に役立てるといったあまり想定していなかった使い方も提案していただいたので、集めたデータをさらにパーソナライズする必要性を感じました」と語る。

 ただ、1つだけ審査員たちとは意見が異なる部分があった。それは、最優先で狙うマーケットについてだ。

 臍に装着できるウェアラブル体温計の用途として、審査員たちは女性の妊活マーケット向けという部分を前面に出してPRすることを推奨した。

 しかし、生命に関わるような重要度の高い領域を優先したいという強い思いが田中氏にはあった。プレゼンで熱中症の予防という観点からのアプローチを強調したのはそのためだ。熱中症の次に子供や女性向け、次に健康管理のマーケットと、優先順位をつけて取り組んでいく考えだという。

 「従業員の熱中症による企業の損害は10年後には国内で19.2兆円、世界で260兆円になると言われています。水分補給や休憩などの対策をしても、建設現場では1日に1人は倒れてしまうような状況です。熱中症になりやすさは人それぞれ違うので、個人のデータからリスク分析をしてアラートを流したり、熱中症になりにくい体質にするためのコンサルなども行っていきたいと考えています」

 既に行動は起こしている。2019年より電線・ケーブルメーカーのフジクラと実証実験を行い、実用化に向けた体温データの収集を開始。同社では、熱中症リスクの可視化や働き方、休憩の取り方など、蓄積したデータを従業員の健康促進に役立てる方針だ。

 また、健康領域とITを組み合わせた「ヘルステック」分野におけるスタートアップ支援に取り組む神戸市とも協力体制を組んだ。神戸医療産業都市推進機構が行うヘルスケアサービス開発支援事業に参画し、熱中症予防の共同研究を進めている。

 一方、妊活を含む女性向けの健康管理に関しては、就寝時に装着し、起床時にアプリを起動して基礎体温を確認するという使い方を想定している。睡眠中の体温推移を分刻みで取得し、そのデータに基づいて、睡眠の深さや精神的ストレスなども把握することが可能だ。こうして日常的に使うことで、ちょっとした体調の変化も早い段階で認識できるようになるという。

 ちなみに、田中氏自身も体温データから急性腸炎の兆候を発見し、その後の医療機関での速やかな治療につなげた経験を持つ。いわば、自ら実験台になったようなものだが、この出来事からも体温変化から病気の兆候をつかむという部分にはまだまだ研究の余地があると確信を深めた。

 今後はさまざまな病気の兆候となる体温変化のデータを集め、医療機関や製薬会社などと協力体制を敷くことも構想し、2020年の春頃から実際に製薬会社などの治験貸与も開始。共同研究も開始する予定だ。

 また、6月には令和2年度の経産省のものづくりスタートアップ・エコシステム構築事業に採択され、治験向けのPHRアプリや次世代機の量産試作を開始する事となった。

田中彩諭理氏
「金の卵発掘プロジェクト2019」でピッチに臨む

周囲と共に歩むマネージメント

 経営者として奮闘する過程で、自分に合ったリーダー像のようなものも見えてきた。かつて心理カウンセラーを目指していた時代、相談者の話を傾聴するというより解決策を見出そうとしてしまう自分自身にジレンマを感じたこともあったが、そうした経験も役立っているという。

 「自分だけで課題への解決策を出して引っ張っていくだけでなく、周囲に問いかけるマネージメントを意識するようになりました。会社という形態を取る以上、人の力を借りないといけません。自分ができることとできないことの境界線を引くことはとても重要だと思っています」

 ユーザーに対してはデバイスそのものの販売ではなく、会員登録向けに定額でデバイスや専用アプリを含むサービスを利用してもらうサブスクリプションモデルで展開することで、利用の拡大を図る。

 人材確保や資金調達などやるべきことは山積しているが、グローバル規模で拡大するヘルスケア市場において成長への期待は大きい。将来の目標に関して田中氏はこう語る。

 「いずれは株式公開できたらいいかなとは思っていますが、それよりも今はユーザーのために何ができるのかを真摯に考えることに集中したいです。その先に売り上げやエグジットが見えてくると思います」

「人を救う」というテーマに向かって

 「絶望の果てに光がある」―アウシュヴィッツ収容所での過酷な経験を描いた『夜と霧』で、著者のヴィクトール・フランクルが提示したこの言葉に強く惹かれたと田中氏は語る。理由を尋ねるとこんな答えが返ってきた。

 「厳しい状況にあっても、自分が何をするかによって人の生活を変えることができたり、生きる希望を与えたられたりできるという考え方が、私の中でしっくりきたんです。自分が犠牲を払っても、他人を救えるのであれば行動するべきではないかと」

 「人を救う」というテーマを、起業家として実現する道を選んだ田中氏。「体温計は装着するもの」という認識が人々の間で当たり前になったとき、その目標は達成に大きく近づいていることだろう。