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巨額赤字を計上した日産自動車は浮上できるのか

新型コロナウイルスは自動車メーカー各社を直撃したが、中でも痛手を受けたのが日産自動車。国内外の販売台数大幅減で巨額赤字を計上、前期、今期の2年で赤字額は1兆3千億円にも達する。ゴーン前会長の去ったあと、混迷の続く日産は浮上できるのか。文=ジャーナリスト/立町次男

業績転落で巨額赤字に陥った日産自動車

第1四半期の販売台数は1年前に比べて半減

 日産自動車は7月28日、2021年3月期の通期連結業績予想を発表し、純損益が6700億円の赤字になるとの見通しを示した。

 カルロス・ゴーン前会長の逮捕・起訴で経営の混乱が顕在化し、内田誠社長兼CEOを中心とした新体制で業績を立て直そうとしていたところに、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大による影響が直撃した。

 20年3月期実績も6712億円の純損失で、2年連続で巨額の赤字を計上することが確実となった。アライアンス(企業連合)を組むフランスのルノー、三菱自動車の両社も深刻な業績悪化に苦しんでおり、かつては世界の自動車市場で大きな存在感を示した3社連合の先行きに、光明は見えていない。

 21年3月期の売上高予想は、前期比21.0%減の7兆8千億円、本業のもうけを示す営業損益予想は4700億円の赤字を見込んだ。

 内田社長はオンラインで実施された記者会見で、通期予想について「大変厳しい内容だ」と認めた一方、「(5月発表の)中期経営計画で、ある程度見込んでいた」と、想定内の結果であることを強調した。

 同時に発表した21年4~6月期決算の売上高は前年同期比50.5%減の1兆1741億円、営業損益は1539億円の赤字(同16億円の黒字)だった。最終損益は2855億円の赤字(前年同期は63億円の黒字)に転落した。4~6月期が赤字となるのは、世界的な金融危機が起きた後の10年3月期以来、11年ぶり。世界販売台数は47.7%減の64万3千台だった。

巨額赤字を計上した日産自動車

ゴーン長期政権による綻び

 日産の経営危機としては、1990年代後半のものが有名だ。そこに資本提携したルノーから送り込まれたのが、2018年に会社法違反(特別背任)容疑などで逮捕、起訴された後、昨年末にレバノンに逃亡し、世界を驚かせたゴーン前会長だった。

 倒産寸前だった日産を、村山工場(東京都武蔵村山市)の閉鎖や約2万人の人員削減などで再建した。必達目標を掲げてチャレンジする「コミットメント経営」が高く評価され、日産の“救世主”となり、約20年間、トップとして君臨した。

 しかし、長期政権の後半には、綻びも目立ってきた。13年には14年3月期の業績予想を大幅に下方修正。中期経営計画での目標未達も相次ぎ、コミットメント経営は色あせた。

 そして、最も深刻な事態が、中国と並ぶ日産の主戦場である米国を中心に進行していた。「インセンティブ」と言われる販売促進費を過度に積み増して値引き販売を増やした結果、日産車に「安いクルマ」というイメージが定着したことだ。

 他の日本メーカーもインセンティブの制御に苦しんだが、ゴーン氏が側近のホセ・ムニョス氏らを使って拡大路線を突き進んだ結果、日産が最も深い傷を負ったことは否定できない。

 販売面に大きな予算を使ったため、研究開発が疎かになり、新車の投入ペースは鈍化。発売から時間が経ち、「車齢」が上がった車種は特に、値引きをせずには売れなくなるという悪循環に陥った。インターネットで日産のニュースが流れると、車ファンからのコメントで目立つのが、「欲しい車・魅力的な車がない」という指摘だ。

新車攻勢に打って出る日産

 新しい車種の企画・開発から発売まで、3~4年かかるのが一般的だ。

 ゴーン氏が西川廣人社長(当時)にCEOの座を譲った17年から3年がたち、日産はようやく新車攻勢に打って出る体制を整えた。これまでの反動もあり、「1年半で12車種」を投入する計画だ。

 日本では20年3月に軽自動車「ルークス」を投入。6月にはエンジンで発電し、電気で走る「eパワー」を搭載したスポーツタイプ多目的車(SUV)「キックス」を発売した。得意の電気自動車(EV)では、2つのモーターを搭載し、4輪をそれぞれ、緻密に制御する「アリア」を7月に発表した。ただ、アリアの発売は21年中ごろで、業績への貢献はまだ先になる。

 世界販売の先行きについて、内田社長は、「遅くとも第4四半期(21年1~3月)には、前年比で少しプラスになると織り込んでいる」と、減少幅は年内に縮小するとの見通しを示した。

 その自信を支えるのが新車攻勢だ。eパワー搭載車がけん引し、拡販に成功した主力小型車「ノート」の全面改良が控えており、日本などでは、その成否が重要になる。新車攻勢で平均車齢の高い米国でのラインアップを刷新し、ブランド力を取り戻していきたい考えだ。

 ゴーン氏が日産にもたらしたのは経営再建と拡大路線の失敗だけではない。出身母体のルノーとの連合、そして、16年に燃費不正で窮地に陥った三菱自を電撃的に傘下に収めた剛腕は今も語り草だ。

 国境を超えた自動車会社同士の連携は難しいが、ゴーン氏が“扇の要”として統括した3社連合は、数少ない成功例と持ち上げられた。17年には、3社合計の販売台数がドイツのフォルクスワーゲングループに次ぐ世界2位となった。

日産、ルノー、三菱自動車の 3社連合の前途は

深まる日産、ルノーの対立

 しかし、ゴーン氏の失脚を契機に、3社連合、特に日産・ルノー間で相互不信が噴出した。日産が追放に動いたゴーン氏の処遇について、ルノーは当初、「推定無罪」の原則を掲げて守る構えすら見せた。

 その中で、日産側がゴーン氏の不正を示す社内調査結果をルノーの取締役会で説明しようと提案したが、ルノー側は拒否したこともあった。ルノーが日産に早期の臨時株主総会開催を求めると、今度は西川社長(当時)が拒否するなど、対立が深まっていった。

 その後、ルノーもゴーン氏を会長から事実上解任し、後任にジャンドミニク・スナール氏が就任すると、一時的に対立は収まった。

 しかしルノーは19年4月、日産に経営統合を提案。その後も日産の会長職や、指名委員会等設置会社の委員会人事などをめぐり繰り広げられる“暗闘”はむしろ激しくなったとみられる。スナール氏について日産関係者は、「笑顔を浮かべて右手で握手をしながら、左手で殴ってくるようなものだ」と警戒感を隠さなかった。

 ルノー、三菱自にも、新型コロナの影響が波及した。ルノーが7月末に発表した1~6月期決算の純損益は、72億9千万ユーロ(約9千億円)の巨額赤字になった。ルノーは日産株の43%を保有。持分法適用会社の日産の赤字の一部が損益に反映され、赤字が膨らんだ。

 一方で、ルノーへの配慮もあってか高配当を続けていた日産だが、業績悪化のために無配に転落した。9千億円は、企業規模が小さいルノーにとって、極めて深刻な水準の巨額赤字だ。

 三菱自も苦境にある。7月下旬に公表した20年4~6月期の営業損益は533億円の赤字(前年同期は39億円の黒字)に転落。21年3月期の業績予想では、売上高は34.8%減の1兆4800億円、営業損益は1400億円の赤字(前期は128億円の黒字)、最終損益は3600億円の赤字(同258億円の赤字)を見込んだ。三菱自の業績悪化に関しても、16年から会長を務めたゴーン氏が主導した東南アジアなどでの拡大路線が仇になったという見方がある。

3社の業績悪化で企業連合の負の側面が顕わに

 このように3社連合の業績は“全滅”と言っていいほど深刻で、効果的な連携ができていなかった代償を払わされた格好だ。企業連合の負の側面がこれほど、クローズアップされたことはなかっただろう。

 もはや3社連合の主導権争いをしている状況ではなく、統合提案などで対立が深まる懸念は小さくなった。だが一方で今後、3社それぞれの業績悪化が、新たな混乱の引き金となる可能性がある。

 例えば、ルノー筆頭株主のフランス政府が救済のために出資比率を高めることは、日産への間接的な影響力が大きくなるため、日本政府も簡単にはうなずけないとみられる。

 逆に、日産が財務基盤強化を名目に増資などを行い、ルノーの保有比率を引き下げようとすれば、フランス政府やルノーの反発は必至で、両社の対立はさらに深まる懸念がある。

 好調時は相乗効果が発揮される企業連合が各社の経営再建にとって、かえって足かせとなりかねず、3社連合の前途はこれまで以上に多難だ。