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大戸屋買収を狙うコロワイドの真意とは

大戸屋ホールディングスを敵対的TOBにより買収しようとしているコロワイド。間もなくその結果が出ることになるが、M&Aによる企業規模の拡大は、これまでコロワイドが歩んできた道そのものだ。なぜM&Aを繰り返すのか。果たして大戸屋の買収はうまく運ぶのか。文=ジャーナリスト/松崎隆司

コロワイドが大戸屋に仕掛けた買収劇の経緯

経営が苦しい中で大戸屋買収に動くコロワイド

 牛角、ステーキ宮、かっぱ寿司など51の外食チェーン(2665店舗)を展開するコロワイドが和食外食チェーン、大戸屋ホールディングスの敵対的買収に動き出している。

 コロワイドは現在、「大戸屋」を全国に463店舗展開する大戸屋ホールディングス(HD)株式の19%を保有する筆頭株主だが、株主総会で取締役会を支配するため経営陣刷新を求める株主提案を提出したが否決。7月10日から8月25日までに大戸屋ホールディングスに対してTOBをかけている。

 買付価格は1株3081円、公開前の7月8日の株価が2113円で、45.81%のプレミアムがついている。買付予定数は233万株(下限は187万株)で51%の株式取得を目指している。買付代金は71億円にも上る。

 しかしコロワイドの経営状態は順風満帆ではない。2020年3月期の連結決算では68億円の当期損失を計上した。

 さらに20年4月以降の売上高は新型コロナの影響などで4月が28.0%(全店舗ベースの前年比)、5月が42.3%、6月が66.4%とどん底の状態が続いている。

 そのような中で居酒屋業態を中心に196店舗を閉鎖、106億円の減損損失を計上すると発表。TOBを発表した直後には日本カストディ銀行を信託引受先とする90億円の第三者割当増資を発表した。この資金を大戸屋HDの買収資金に使う可能性もあるとみられている。それでも資金繰りが楽だとは決していえない。

資金繰りが厳しい中、コロワイドは大戸屋の買収を目指す

経営陣も社員もM&Aに反対の大戸屋

 コロワイドは今回の買収の狙いについて次のように語る。

 「公開買付者と対象者とがより深く協業できる体制を構築する必要がある」(7月9日付コロワイドニュースリリースより)

 これに対して大戸屋HD側は徹底抗戦の姿勢を見せている。7月17日には大戸屋の従業員有志(全従業員412人のうちの401人)が急きょ記者会見を開き、反対意見を表明した。

 「このようなやり方は、私たち従業員一同や本定時株主総会に先立って株主提案に反対表明した大戸屋のフランチャイズオーナーの方々の声はもとより、大戸屋HD株主様の意思も無視するもの」(大戸屋HDニュースリリースより)

 さらにこれに続いて大戸屋HDの経営陣は7月20日の取締役会でコロワイドによるTOBに反対することに6名の社外取締役を含む11名の取締役全会一致で決議した。

コロワイド会長への不安と恐怖

 従業員たちがコロワイドの買収に反対しているのは何も経営方針の違いだけではない。彼らが脅威を感じているのはコロワイドの経営体質にあるという。

 コロワイドはかつて同社の社内報「COLOWIDE TIME」の商魂号外編の「挨拶」の項目で会長の蔵人金男氏は「いまだに挨拶すらできない馬鹿が多すぎる」「そのアホが、なぜ会社にいる?」「生殺与奪の権は、私が握っている」と買収したレインズインターナショナルの社員を辛辣な言葉で罵っている。

 コロワイドは「弊社会長の独特の言い回し」(コロワイドのニュースリリースより)と弁明しているが、大戸屋HDの従業員からは「買収先企業に対するコロワイド経営者の言動に対して強い不安と恐怖を感じており、コロワイドによる連結子会社化に対しても強く反対いたします」(大戸屋グループ従業員有志一同)との声があがった。

コロワイドの野望と今後の展望

日本一の外食チェーンを目指すコロワイド会長

 それでもコロワイドは執拗に大戸屋HDに対して敵対的買収を進めている。それはなぜなのか。コロワイドの株主総会に参加した株主の1人は次のように語っている。

 「蔵人会長はコロワイドの株主総会で『戦うなら優勝劣敗だ』と語っていました。これは野尻公平社長に対して『もっとしっかりやれよ』と激を飛ばしていたんだと思います。野尻社長は『コロワイドを日本一の外食チェーンにしたい』という蔵人会長の思いはよく知っていますから、それをかなえたいんでしょう」

 コロワイドは現在、国内飲食業第4位の外食チェーンだ。その前身は1963年4月に創業した神奈川県逗子市の「甘太郎食堂」だ。現会長の蔵人金男氏は日本大学付属藤沢高等学校を卒業すると、父が経営していた「甘太郎食堂」に66年4月に入社、75年12月には取締役に就任する。

 その後「甘太郎食堂」は法人化され、77年9月に食堂から居酒屋に業態転換し、「手作り居酒屋 甘太郎」の逗子店を設立。83年3月に蔵人氏が社長に就任すると事業拡大を進め、関東一円で直営店による多店舗展開を進めた。

 その後はさまざまな外食業態をひっさげて全国展開を目指し、99年10月には株式を店頭公開。2000年10月には東証二部、02年9月には東証一部に上場した。

 コロワイドがM&Aをやるようになったのは02年ごろから。その後は買収と組織再編を繰り返す。このとき蔵人氏の右腕として手腕を発揮してきたのが現社長の野尻氏だったといわれている。

M&Aで手腕を発揮してきた現社長

 「彼は社内ではずば抜けて優秀だった。現場もよく知っている。証券会社出身で、M&Aを手掛けるようになって才能をさらに発揮するようになったようです」(コロワイド関係者)

 野尻氏は国学院大学を1988年に中退後、岡三証券を経て93年にコロワイドに入社、97年には取締役、2002年には専務に就任している。

 02年1月には平成フードサービス、同8月にはダブリューピィージャパン、同12月には明治製菓リテイル(アド・イン・プラ)を買収。04年3月には贔屓屋を、同10月にアムゼ、05年6月にはがんこ炎を買収、同10月にはアトムの全株式を保有するオリンパス・キャピタル・ダイニング・ホールディングスの発効済全株式を取得。

 一方で外食事業向けシステム開発会社、ワールドピーコムを買収した。06年7月には「ステーキハウス宮」を運営する「宮」を傘下に置き、同10月にはがんこ炎をアトムに統合している。その後も06年10月にシルスマリア、08年1月には番能水産(現バンノウ水産)から事業譲渡を受けている。

 野尻氏が社長に就任したのは12年4月。このころからさらに大掛かりなM&Aを手掛けていく。

 焼肉チェーンの牛角などを傘下に持つレックス・ホールディングス(現レインズインターナショナル)を買収したのが同10月。14年12月には回転寿司の草分け「かっぱ寿司」を運営しているカッパ・クリエイトホールディングス、16年12月にはレインズインターナショナルがハンバーガーチェーン「フレッシュネスバーガー」を運営するフレッシュネスを買収した。

進むも地獄引くも地獄のコロワイド

 「蔵人会長は、口は悪いですが親分肌の人、頼まれると嫌とは言えない人です。M&Aでも自分から取りに行くというより、ほとんどは困っている相手から頼まれて、買収していたようです。敵対的な買収をするのは大戸屋HDが初めてなのではないでしょうか」(コロワイド関係者)

 なぜそこまで大戸屋HDにこだわるのか。

 「きっかけは大戸屋HDの創業者の親子から相談を受け、株を引き取ったわけですが、大戸屋HDを追い出された格好になっていた親子に同情したのでしょう」(コロワイド関係者)

 19%の株を持つ筆頭株主であるコロワイドが「役員は残す」と譲歩して買収を申し入れれば、大戸屋HDが受け入れると読んでいたのに、経営陣だけでなく従業員も徹底抗戦の姿勢を見せられ引くに引けなくなったのだろう。

 しかし新型コロナは第2波が急速に広がり始めている。外食産業にとってはまだまだ暗黒の時代が続く。しかも規模が大きくなればなるほどその影響は大きい。コロワイドはこれまで買収した企業ののれん代として717億円を計上している。

 仮に業績悪化が続く大戸屋HDの買収が成功しても、業績を再建できずに減損処理をしなくてはならなくなったら自分たちの存続そのものも脅かす恐れがある。

 引くも地獄、進むも地獄。コロワイドは今、難しい選択に迫られている。