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中村 悟・M&Aキャピタルパートナーズ社長に聞く「売り手と買い手の現状」

東証一部に上場しているM&A仲介大手3社のうちの1社であるM&Aキャピタルパートナーズは、国内M&A仲介の草分けであるレコフと関連会社のレコフデータを16年10月に傘下に収め、海外や業界再編などの大型M&A案件へと事業領域を広げてきた。同社の中村悟社長は、コロナ禍のM&A市場をどう見ているのか。聞き手=唐島明子 Photo=山内信也(『経済界』2020年10月号より加筆・転載)

中村 悟・M&Aキャピタルパートナーズ社長プロフィール

(なかむら・さとる)大手ハウスメーカーに入社、設計業務を経て、資産家を対象とした相続対策、資産運用の営業業務に約8年間従事した。退職後の2005年10月にM&Aキャピタルパートナーズを設立。

2020年上半期のM&A市場

緊急事態宣言とその後の推移

―― 新型コロナの影響でM&Aによる第三者承継を検討する企業が増えているようです。M&Aキャピタルパートナーズに寄せれられている案件の状況はいかがですか。

中村 緊急事態宣言の期間中は新規相談の受付を止めていました。そこでたまっていた分が宣言明けに流れ込んでいたりしますので正確な比較ではありませんが、緊急事態宣言が明けてから、相談や打ち合わせ件数は以前の2倍以上になっています。

 ただ、日本企業のM&Aの件数自体は、新型コロナの影響で今年は減ると思います。私たちの傘下にあるレコフデータがM&A件数などの統計を取っていますが、今年上半期のM&A件数は前年同期比で13.4%減となり、9年ぶりに前年を下回りました。特に非常事態宣言下の4〜5月は3割減と大きく落ち込んでいます。

M&A件数が減少した理由

―― 今年上半期のM&A件数が減少している理由は何ですか。

中村 新型コロナをきっかけに、「うちの資金繰りは大丈夫なのか」「この業界で生き残っていけるのか」「自分がコロナに感染して死亡してしまったらこの会社はどうなってしまうのか」などと、売ることを考える企業オーナーは確かに増えています。しかしM&Aの交渉には、早くて半年、通常は8カ月ほどかかりますので、すぐに件数に反映されるわけではありません。

 緊急事態宣言で対面での打ち合わせも難しくなってクロージングが先延ばしになったり、買い手の意思決定が慎重になったり、あるいは怖がって手を引いて中断してしまったり。件数が減っているのは、そういう事象が出てきているからだと思います。

 私たちがお手伝いしている中では、業界大手の業績が落ち込んだ居酒屋、観光関係、ホテル業界の案件が軒並みストップしています。ホテル大手が他のホテルを買収しようとしていたけれども、業績が悪くなって資金を用意できなくなったというのもありました。

 私たちの子会社のレコフは海外とのM&Aを扱っていますが、今は現地へ行って直接交渉することができません。オンライン会議だけではM&Aの話は進められませんので、クロスボーダー案件も交渉が止まってしまっています。海外へ行くと現地で2週間隔離され、帰国してからも2週間は経過観察で隔離ですので、1カ月棒に振ることになりますよね。

売りを考える優良企業とリーマンより強気な買い手

―― 新型コロナで停滞したM&Aは、これから動き出しそうですか。

中村 売ることを考える企業オーナーは増えていますし、他方の買い手についても、リーマンショックの時よりも強気である印象です。

 私はリーマンショックも経験していますが、当時は金融がすべて止まってしまいました。株価が暴落して買い手企業の時価総額も下がり、M&Aのための借り入れも受けられず、資金調達の方法がないような状況でした。

 しかし今回の新型コロナは、株価が下がっているわけでもなく、M&Aへのファイナンスが止まっているわけでもありません。

M&A市場の今後の展望

本業でダメージを受けても買収に動く企業

―― 本業でダメージを受けている買い手企業も多くありますが、それでも強気なのでしょうか。

中村 本業でダメージを受けているからといって弱気になる企業ばかりではありません。居酒屋などの外食事業を展開しているコロワイドが大戸屋を買収しようとしています。外食はかなりダメージを受けていると思いますが、それでも買収するということですよね。

 今は株価が多少下がっていますし、当面の運転資金があり、買収資金が用意できるのであれば、今買っておこうという発想もあります。しかもこのコロナ禍で、これまであまり売ることを考えていなかった優良企業がM&Aを考え始めています。そのような企業に対して、今のうちに仕掛けようと考える買い手企業もいます。

 リーマンショックの時は、基本的には買いがピタッと止まりましたが、本業でキャッシュフローを生んでいた大手企業の中には、強気で他社を買収するところもありました。買収した企業はその後、株高になってどんどん企業価値が上がり、マーケットから評価されていったりして、結果的に大成功しています。

リーマン時の強気買収で大成功している事例も

―― 大成功した例として、例えばどのようなM&Aがありますか。

中村 ダイキン工業がアメリカの住宅用ユニタリーエアコンメーカーのグッドマンを買収しましたね。リーマンショックの影響で慎重姿勢の買い手も多く、まだ世の中が委縮していて株価が下がっている時期に、それほど高くない金額で買収していました。

―― これから日本企業のM&A市場はどう推移しそうですか。新型コロナで流れは変わっていますか。

中村 私たちはもともと、幅広くM&Aのお手伝いをしています。業界ごとにいろいろありますが、そもそも構造的に再編が進んでいる業界もあり、その進捗が新型コロナで早まったり遅くなったりしている状況だと見ています。

 今後のM&Aの動向については、足元ではM&A件数は減少しますが、今年の冬頃から新型コロナをきっかけにした案件がまとまりはじめるのではないでしょうか。