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Chatworkで全てのビジネスを完結させる「スーパーアプリ戦略」

戸村光

シリコンバレーで起業し、企業と投資家に関する豊富な情報を武器に活躍するハックジャパンCEOの戸村光氏。本連載では、資金調達、資本提携/協業、買収といったさまざまな事例を取り上げ、その背後にあるマネーの動きと企業戦略を、同氏が独自の視点で分析していく。(『経済界』2020年11月号より加筆・転載)

 Chatworkというサービスをご存知だろうか。日本のIT企業としていち早くシリコンバレーにグローバル展開を行い、日本の法人向けチャットサービスとして最も多くの企業に利用されているサービスである。昨年マザーズに上場を果たし、新型コロナの感染拡大によってリモートワークが普及したことで需要が爆発。ユーザー数、売上を含め同社の成長は飛ぶ鳥落とす勢いである。

 筆者も同社のシリコンバレーチームに所属していたことがある。電話対応は一切行わない、名刺はスキャンして処理する等、斬新な経営スタイルによって多くのメディアから注目される企業であった。

 しかし、そんな「ザ・IT企業」として認識されている同社であるが、急成長の秘訣はオフラインの大切さを会社の教訓としていることであった。今回は代表の山本正喜氏に独占取材を行い、急成長の秘訣を伺った。(※全編を視聴希望される方は経済界Xまで)

創業期から変わらぬ哲学は「オフラインを大切に」

 山本氏によれば、創業期より大切にしている哲学があるという。

 1つは、「オフラインを大切にするためにデジタルで超効率化する」ということ。

 チャット、つまりオンラインでコミュニケーションする事に対しては、「冷たい」というイメージがある。これに対する山本氏の考えは「使い分けが大事」という事だ。アナログな時間を確保するために、それ以外の時間を徹底的にデジタルで効率化するという考え方である。

 山本氏はデジタル化できないものは2つあると考えている。

 1つは感情的なコミュニケーションだ。例えば、悩みに対してのコーチングやメンタリング、プロジェクトのキックオフや打ち上げなどがこれに当たる

 もう1つはクリエイティブなコミュニケーションだ。例えば企画会議、ブレスト、共同作業、合宿のように、同じ空間を共有しないと、効率が悪いものがある。

 2つ目の哲学は「働くをもっと楽しく、創造的に」というChatworkのコーポレートミッションである。このコーポレートミッションを達成するために、必要不可欠なのが従業員満足度だ。従業員満足度を重視する経営を意識した結果、Chatworkの前身であるEC studio時代には既に「社員満足度日本一」(何の調査か?)に輝き、CNNに取り上げられるなどの実績を残した。

ユーザビリティーを落とすことで課金者が急増

 Chatworkでは、2018年7月以来、課金顧客が急激に増加した。

 その主な理由、はフリープランの制限をしたことにある。元々Chatworkには、グループチャットをプロジェクト単位、または案件単位で100〜300規模で作成し、トピックを切り替えながら利用して欲しいという設計思想があった。

 しかしグループチャットの数を14個以内に収めていれば無料で利用することができたため、ユーザーの多くは長い間、14個以内のグループチャットをやりくりしながら利用していた。

 そこで「最大14個のグループチャット参加が可能」から「累計14回のグループチャット参加が可能」へと変更した。この変更により多くのユーザーが有料プランに転向し、課金ユーザーが急激に増えることとなった。

上場直前にセキュリティアタック。最大のハードシングス。

 Chatworkは2019年の9月に時価総額約500億で上場を果たしたが、実は上場直前に過去最大のハードシングスに直面していた。

 上場承認が降りてから、海外からの大規模なシステム攻撃を受けた。

 その攻撃は「リストアタック」と言われており、IDやパスワードを他のサイトでも使い回してる人が多いために成立する攻撃で、他のサイトでIDとパスワードが漏れた時にクラッカーがその情報を利用してログインを試みるというものだ。この攻撃は、システムに脆弱性が無くても受けてしまうめ、防ぐのは非常に難しい。

 Chatworkに大きな落ち度は無いにしても、「Chatworkでアカウントの乗っ取りが起きた」という事実は残ってしまう。この攻撃で、上場承認が延期になるのでは無いかという危機があった。

 しかし、諦めることなく東証に必死で説明をし、攻撃に立ち向かった結果、なんとか攻撃は納まり、東証にもそれを評価され上場を果たすことができたそうだ。

上場を果たしたChatworkの山本正喜社長

Chatworkのこれからのグローバル戦略と勝ち筋

 グローバル展開については、東南アジアへの進出を進めている。割合としては日本9割、グローバル1割ほどだ。グローバルというのもアジアが大半で、中でもベトナムと台湾に絞っており、メインはベトナムである。

 ベトナムは人件費が安いので、ITに投資するくらいなら人を雇った方が合理的だ。一定程度GDPが上昇し給料が上がると、連動して人件費が上がり、それを削減するためにITに投資しようという発想に転換する。

 また、同国にも無料で使えるチャットアプリが存在するため、セキュリティへの意識が高まってこないと有料チャットを使うという発想に至らないだろう。

 同国の中でも、日系企業や士業の人のように、職業柄セキュリティ意識が高い人をターゲットに売り込んでいる。ベトナム人のスタッフを雇ってローカル企業にリーチするなど、今後の伸びが期待できそうだ。

Chatworkで資金調達、補助金申請など、経営インフラを提供

 Chatworkでは直近の目標として、「経営インフラ」を掲げている。つまり、経営に必要な「ヒト」「モノ」「カネ」の、3つの観点からの支援を提供するという考えだ。

 「ヒト」の面でのサポートとしては、「Chatwork アシスタント」というサービスを提供。これはチャットを使った秘書サービスで、飲み会の予約や調べ物の依頼などを気軽に行えるというものだ。

 「カネ」の面では、「Chatwork 助成金診断」というサービスを提供している。企業にとって最適な助成金を調査し、調達できるまで伴走するというもの。また、請求書や債権を買い取って、キャッシュフローを改善するといった資金調達のサービス「Chatwork 早期入金」も行っている。

 「モノ」の面では、マッチングサービスを将来的には考えている。

Chatworkでビジネスが完結するスーパーアプリ戦略

 スーパーアプリとは、普段kら頻繁に使うアプリのことを指す。チャットや決裁だけでなく、いろいろな機能が利用できるOSのようなアプリのことだ。中国ではアリババのアリペイやWeChatが該当し、日本ではLINEやPayPayがこれに該当する。

 仕事の場面において、ビジネスチャットは朝から晩まで開いて作業するため、他のB toBアプリよりも接触時間が長く、非常にポテンシャルが高い。チャットで業務委託のタスクを振ったり、弁護士と話したり、他のSaasのアプリと繋いだりできるプラットフォームを創造し、ビジネス版のスーパーアプリになることを、Chatworkでは目標に掲げている。

戸村光

戸村 光(とむら・ひかる)――1994年生まれ。大阪府出身。高校卒業後の2013年に渡米し、14年スタートアップ企業とインターンシップ希望の留学生をつなぐ「シリバレシップ」というサービスを開始し、hackjpn(ハックジャパン)を起業。その後、未上場企業の資金調達、M&A、投資家の評価といった情報を会員向けに提供する「datavase.io」をリリース。一般向けには公開されていない企業や投資家に関する豊富なデータを保有し、独自の分析に活用している。