経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

テレワークがあぶり出す米国の失業格差

閉店したNY市マンハッタンのステーキハウス店。

ニューヨーク在住ジャーナリスト 肥田美佐子

テレワーク格差が雇用にも影響

 米国ではコロナ禍が経済格差や健康格差を浮き彫りにしたが、5人の米エコノミストによる共同研究で、テレワーク格差が雇用にも大きな影を落としていることが分かった。

 テキサス大学のマニュエル・アンジェルーチ准教授や、南カリフォルニア大学・経済社会研究センター(CESR)のアリー・カプタイン教授など4人の研究者らは今年3月中旬~7月下旬、全米で約7千人を対象に、非リモートワークが雇用と健康に及ぼす影響を調査した。

 8月20日発表の同研究結果によると、4月初めまでに失職した人々を非リモートワーカーかリモートワーカーかで分けたところ、リモートワークが可能な仕事に就いていた人々の失業者の割合は8%だった。

 一方、リモートワークが不可能な仕事に就いている人々の場合、失業者は24%と、3倍の開きがあった。これは、女性やアフリカ系米国人、非大卒などの区分による格差より大きいという。

 この研究では触れられていないが、レストランや小売り、旅行・ホテルなどの接客業がソーシャルディスタンシング(社会的距離の確保)措置で大打撃を被ったのは周知の事実だ。

閉店したNY市マンハッタンのステーキハウス店
閉店したNY市マンハッタンのステーキハウス店。NY州ではレストラン・バーの雇用減が最多 ©Misako Hida

 米国では4~5月にかけて、約2600万人の成人の雇用が失われたが、同研究者らはロックダウン(都市封鎖)解除が雇用に与えた影響にも着目。4月20日から5月5日に経済活動を再開させた24州と、5月6日から6月5日に再開させた残りの州について調べたところ、短期的には、経済活動再開による実質的な雇用創出効果は見られなかった。

 また、人々の呼吸器の健康状態や感染を防ぐための行動を分析したところ、当然のことながら非リモートワーカーのほうが感染リスクにさらされ、呼吸器系の症状を呈する確率が高かった。非リモートワーカーは、職場でソーシャルディスタンシングなど感染防止策を取るのが、リモートワーカーよりはるかに難しい。

 ニューヨーク市でもマスクの着用は定着したが、食料品店でマスクを下唇まで下げ、店員に大声で長々と話しかける人もいる。同研究によると、多くの非リモートワーカーは、雇用と呼吸器の健康という「トレードオフ(二律背反)」を迫られているという。

閉店したNY市マンハッタンのステーキハウス店
ロックダウン中も営業を許可されていた食料品店もコロナ禍の犠牲に ©Misako Hida

最貧層に最も深刻なダメージ

 非リモートワーカーの中で、最貧層が最も深刻な雇用への影響を受けた点も見逃せない。世帯年収3万ドル(約317万円)未満の非リモートワーカーのうち、3月以降に仕事を失った人は4割に上る。翻って研究対象のリモートワーカーのうち、最富裕層の失業者は約5%にすぎない。

 一方、景気浮揚には株式市場の「熱狂」が不可欠だと言わんばかりの米連邦準備制度理事会(FRB)による未曽有の金融緩和策が続く中、ニューヨークの機関投資家によると、米国の株式時価総額は対国内総生産(GDP)比で記録的レベルに達しているという(※本稿を執筆した8月末の時点)。

 同研究が警鐘を鳴らすように、コロナ禍が米国の格差に追い打ちをかけたのは間違いない。(『経済界』2020年11月号より転載) 

筆者紹介―肥田美佐子 ニューヨーク在住ジャーナリスト

(ひだ・みさこ)東京都出身。『ニューズウィーク日本版』編集などを経て渡米。米企業に勤務後、独立。米経済・大統領選を取材。スティグリッツ教授をはじめ、米識者への取材多数。IRE(調査報道記者・編集者)などの米ジャーナリズム団体に所属。『週刊東洋経済』『経済界』に連載中。『ニューズウィーク日本版』オンラインコラムニスト(「NY発米国インサイト」)。『フォーブスジャパン』などにも寄稿。(mailto: info@misakohida.com