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「徹底的にこだわるのは お客さま目線とコミュニケーション」―川端克宜 (アース製薬社長)

2014年に42歳の若さでアース製薬社長に就任した川端克宜氏。創業122年(当時)の歴史ある企業で、オーナー家以外のプロパー出身社長として異例の抜擢だった。営業畑出身らしい、柔和な笑顔と親しみやすい関西弁が印象的な川端氏。その奥には、長寿企業のバトンを託された者としての、強い覚悟を秘めている。同氏を直撃した。聞き手=吉田 浩 Photo=山田朋和(『経済界』2020年12月号より加筆・転載)

川端克宜・アース製薬社長プロフィール

(かわばた・かつのり)1971年生まれ。近畿大学商経学部卒業。94年にアース製薬入社、役員待遇営業本部大阪支店長、取締役ガーデニング戦略本部長などを経て2014年に社長就任。

アース製薬のマーケティング手法

巣ごもり消費の増加が販売を後押し

―― まずは現状についてお聞きします。新型コロナ禍にあって2020年上期は売上高が前年同期比6・3%増、営業利益が116・5%増と好調ですが、要因をどう分析しますか。

川端 しっかりとした分析は9月以降に行うので、はっきりとしたことはまだ言えませんが、現場を見たり取引先と話をしたりしていると、やはり巣ごもり消費の影響が大きいのかなと思います。

 例えば、コロナ対策で家の窓やドアを開けて換気する人が増えたため、玄関に吊るす虫よけネットなどの商品が夏場になっても売れ続けています。例年は4月、5月に売れて、6月以降は虫を駆除する商品のほうが売れるのですが、今年はそういう部分が違います。

 虫ケア用品以外では、入浴剤や芳香剤なども好調です。家にいる時間が長いので、普段はそこまで使わない入浴剤を使ったり、家のトイレを使う回数が増えて掃除用品の買い替えが増えたり、そうした一つ一つの積み重ねが数字に出ているのではないかと思います。

―― 今後の事業環境をどう読んでいますか。

川端 新型コロナは世の中全体で見れば良くないことですが、当社の経営にとってはプラスに作用するという状況になっています。ただ、これが長く続くとは考えていません。長い目で見れば、経済全体が落ち込めば当然消費も落ち込むので、そこがじわじわと効いてくる可能性もあります。

 来年以降のことを考えると、人々の行動と生活環境が変わっていることを考慮しなければいけません。当社の場合は、受注しても出荷しきれていない商品があるので、物の調達から実際に商品を生産するまでのリードタイムを短縮することによって、効率化を図りたいと考えています。これまでほとんど着手してこなかった部分ですが、そこにフォーカスしていきます。

商品開発では五感を重視する

―― 商品開発ではどんな点に気を付けていますか。

川端 商品開発に携わるメンバーには、本当に自分が使いたい商品かどうかを考えるように伝えています。アイデアベースではいろいろなものを出せば良いと思いますが、実際に商品にするときには、研究者やマーケッターの目線ではなく、いち消費者として買いたいかどうかを基準にしてほしいということです。

 消費者の目線になることで、気付くことはたくさんあります。いくら良いデータが出ても、見る、聞く、肌触りといった五感に訴える商品でなければ売れないという強いこだわりを持っています。

―― 同じ商品でも見せ方や売り方でヒットするケースがあるとのことですが、最近ではどんな事例がありますか。

川端 例えば昔の蚊取り線香からマット式の商品が登場したわけですが、一度マットを置いたら最後まで使い切らなくてはならない不便さもありました。

 そこで、アースノーマットのような商品が取って代わりましたし、ワンプッシュ方式にして、一度押せば24時間、蚊を駆除できるような商品も生まれました。ワンプッシュの利便性がニーズに担う一方、ノーマットをつけ続けることによって、蚊を殺すだけでなく部屋への侵入も防げるという点に着目して、その部分を打ち出したところ、ノーマットに戻ってくる消費者も増えました。物事を違う角度から見ることによって、違う機能に気付いてもらうことができるのです。

 ゴキブリ駆除の商品でも、「ごきぶりホイホイ」のように死んだゴキブリの姿は見たくないという消費者心理がある一方で、どこで死んでいるのか分からないのも嫌という心理もあります。物事はいろんな見方があるため、どちらのニーズを重視し、購買に導くのかを考えることが大事です。

最終的には社長が決断

―― すべての商品で、最終的には社長判断となるのですか。

川端 さまざまな商品を作ることに対して権限移譲はしていますが、売り方によって売上・利益が大きく変わるので最終的には社長決裁となります。商品を出すかどうか、最終判断でひっくり返ることもありますが、必ず理由は言います。

 人事異動も含めて、社内で起きることには必ず理由があるので、はっきり理由を伝えないと人間は腹落ちしません。自分の判断が外れたら謝るしかないのですが、その時の自分の感覚に対して悔いを残したくないんです。

 例えば、商品をつくるときに100かゼロのデータが出てきたら分かりやすいのですが、パターンごとにニーズの予想が4割、3割、2割みたいなデータが出てきたときに、4割のパターンで決めてしまったら他社と同じになってしまいます。私としては「いや、3割のニーズを取りこぼすのか」と、そこで考えてしまいます。

―― 海外市場に力を入れていく方針とのことですが、国内とは見せ方や売り方が変わってくるのでしょうか。

川端 日本でも北海道と沖縄では好まれる商品は異なるし、海外ならその差はもっと大きくなります。日本人と外国人では、生活習慣や好む香りなども違ってきます。日本で一番人気の商品だからといって、それが海外で売れるとは限りません。そこはさきほど言った五感が大事になってくるので、現地での調査をもっと生かしていく形にしたいと思っています。

 日本でも海外でも、共通しているのは生活の悩み解決を行うという部分だけであり、商品が共通である必要はありません。ただ、基礎研究のプラットフォームは共有しておいて、実際の商品は現地に合う形で展開するということです。

アース製薬の課題と川端克宜社長のリーダーシップ

社内コミュニケーションを重視

―― アース製薬の社風や改善したい点などについて。

川端 社員同士の距離感が近い会社だと思いますね。とにかく口酸っぱく何度も言っているのは、社員同士のコミュニケーションを深めてほしいということです。失敗したときの要因として、必ず出てくるのがコミュニケーション不足だからです。

 一方で社員時代から感じてきた課題は、オーナー企業だったがために、以前は何でも社長が決める会社だったということです。スピード感があるのはトップダウンの良い面ですが、社員の自主性があまりないので物事を決められないという面もあります。僕はどちらかと言えば、勝手にいろいろやって怒られてきたほうなので、そういう人をもう少し増やしていかなければいけないなと感じています。

―― 大塚前社長と、自身のリーダーシップのスタイルで異なると感じる点はありますか。

川端 大塚会長はカリスマ性があって尊敬しているので、そこと勝負しても勝てると思っていません。だから、自分のやり方でやるしかないし、比較してどうこうというのはこれからもないと思っています。ただ、物事の決断の仕方は似ているところが多い気がします。決断は早いし、一度決めたことは曲げない。会長に相談することもありますが、それでもめたことはないですし、私がやろうとしたことを「やめろ」と言われたことは一度もありません。

 社長就任直後に白元を買収したときも、完全に自分にお任せでした。会長としては社長の座を譲ると権限を決めたときから、社長に与える権限の範囲を決めていたのでしょう。頑固だからこそ、一度任せると決めたら口を出さない。そこは大いに見習うべきところだと思っています。いろいろ口を出されたら半分責任逃れもできるかもしれませんが、口出しされない分、数字だけはしっかり達成しないといけないという思いがあります。

川端克宜・アース製薬社長
「失敗したときには必ずコミュニケーション不足がある」と語る川端氏

中期経営計画に込めた社員へのメッセージ

―― 2023年までの中期経営計画を策定しましたが、この数年で最も力を入れたいことは。

川端 中期経営計画については、以前から社内で策定しているものがあっても特に公表してこなかったのですが、会社がどこに向かって進んでいるのか曖昧な部分が社員時代から引っ掛かっていました。自分が社長になってから公表しだしましたが、自分たちが乗っている船がどの方向を向いているのか、いつまでに港にたどり着くのか社員は知っておきたいと思うんです。

 投資家への情報発信ももちろん大事ですが、そういう意味では中計の発表は社内向けをより意識しています。途中で嵐が来て、トラブルが起きて、延着することはあっても沈むことだけはしない。着実に港に向かって走っていこうという意図を込めています。

 ありがたいことに、会社の規模は大きくなり社員の数も増え続けています。会社が成長しているこの時に、いいところを残していきたい。そのために社内で正直に話をしてコミュニケーションを取ったうえで、気付いたことをやっていく。結局は人が一番重要なんだと思います。