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ニトリの島忠TOBで流通業界の大再編時代が到来

ニトリホールディングスの似鳥昭雄会長

少子高齢化で市場が伸びない日本では、各業界3グループに集約されると見られている。流通ではコンビニエンスストアが既に3社に絞られた。ドラッグストア業界とホームセンター業界でも合従連衡が進む。中でもホームセンターではニトリが参戦、様相は混沌としてきた。文=ジャーナリスト/下田健司(『経済界』2021年1月号より加筆・転載)

島忠争奪戦で始まるホームセンター業界再編

市場の伸び悩みが再編のきっかけに

 ホームセンター業界が大再編期に突入した。2020年6月、アークランドサカモト(新潟県)がLIXILビバ(埼玉県)をTOB(株式公開買い付け)によって完全子会社化することを発表。10月にはDCMホールディングス(東京都)が島忠(埼玉県)をTOBで完全子会社化すると発表した。

 その後、DCMがTOBを開始すると、それに対抗して家具・インテリアのニトリホールディングス(北海道)がTOBによる島忠買収を表明、島忠争奪戦に発展した。DCMによるTOB期間は11月16日まで。ニトリはDCMのTOBが成立しないことを条件にDCMの1株4200円の買い付け価格を上回る1株5500円を提示し、11月中旬からTOBを開始すると発表した。どう決着がつくにせよ、業界再編が一気に加速しそうな情勢だ。

 ホームセンターは建築資材やDIY(日曜大工)、住居関連、園芸などを扱う。店舗数は国内5千店舗弱で、スーパーやコンビニエンスストア、ドラッグストアなどと比べるとそれほど身近にある店舗ではない。

 業界団体の日本DIY協会によると19年度の市場規模は3兆9890億円。11兆円を超えるコンビニエンスストア、8兆円に迫るドラッグストアなどと比べるとかなりの開きがある。新型コロナウイルス感染拡大に伴う巣ごもり需要を追い風に足元の売り上げはおおむね好調だが、長期的には成長は頭打ちで、過去20間年で2千億円程度しか市場規模は伸びていない。

 そんな成熟市場だから、かねて自力出店よりもM&A(合併・買収)でシェア拡大を図ろうと考える経営者が多く、M&Aを重要な経営戦略の一つとしてとらえてきた。

ホームセンター各社の最新動向

 島忠買収に乗り出したDCMは、カーマ(愛知県)、ダイキ(愛媛県)、ホーマック(北海道)が06年に経営統合して発足した企業だ。ここ数年は、15年にサンワドー(青森県)、16年にくろがねや(山梨県)を傘下に収め、17年にはかつて業界最大手だったケーヨー(千葉県)を持分法適用関連会社にしている。

 近年、活発な動きをみせていたのがコーナン商事(大阪府)だ。もっぱら中小の取り込みで、17年小田急電鉄系のビーバートザン(神奈川県)を完全子会社化、18年にはホームインプルーブメントひろせ(大分県)に10%出資した。19年6月にはLIXIL系の会員制建材卸店の建デポ(東京都)を240億円で買収、20年2月にはドン・キホーテを擁するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス傘下のドイト(埼玉県)のホームセンター事業を買収している。

 中堅では、16年にダイユーエイト(福島県)とリックコーポレーション(岡山県)の経営統合により発足したダイユー・リックホールディングスが、19年にホームセンターバロー(岐阜県)と経営統合し、アレンザホールディングス(福島県)を発足させている。

 そんな中で業界をざわつかせたのが、アークランドサカモトによるLIXILビバの買収発表だ。

 アークランドサカモトの20年2月期連結売上高は1126億円だが、「かつや」などの外食事業、卸売事業なども手掛けており、小売事業に限ってみれば売上高は686億円にとどまる。LIXILビバの20年3月期売上高は1885億円だから、小が大を飲み込む買収で、しかもアークランドサカモトはこれまでM&Aには無縁の企業だったからだ。

 アークランド・ビバ連合の売上高は単純合算で3千億円規模となる。21年度に持ち株会社体制に移行し、さらなるM&Aにも意欲満々。10年以内に連結売上高5千億円を目指すとしている。

 LIXILビバ買収には、ジョイフル本田(茨城県)も名乗りを挙げていたようだ。ジョイフル本田はかつて巨艦店舗で名を馳せたが、苦戦が続き売り上げは伸び悩んでいる。アークランドサカモトはジョイフル本田の筆頭株主で、6%強を保有する。アークランド・ビバ連合にジョイフル本田が合流する可能性もあり、そうなれば一気に上位に食い込む売り上げ規模になる。

 他の大手を見るとカインズ(群馬県)は自力出店で成長してきたし、コメリ(新潟県)も2000年代初頭に中小を数社取り込んだくらいで、近年M&Aは手掛けていない。ナフコ(福岡県)もM&Aには無縁だ。

 これをみると再編の受け皿になる大手はDCM、コーナン商事、アークランド・ビバ連合あたりに絞られてくる。

 島忠獲得に乗り出したニトリは昨年、LIXILビバ買収にも動いたようだ。22年に連結売上高1兆円を目指すニトリだが、20年2月期連結売上高は6422億円。縮小する国内家具・インテリア市場で大きな成長は見込みにくいし、中国事業も苦戦している。家具・インテリア以外の領域を取り込むことで成長が期待できる、ホームセンターのM&Aをかねて検討してきたという。ホームセンター業界はニトリが新たに加わり、激しく流動化することも予想される。

ニトリホールディングスの似鳥昭雄会長
島忠に対してTOBを仕掛けたニトリホールディングスの似鳥昭雄会長

一気に集約化が進んだドラッグストア業界

ドラッグストア業界再編の経緯

 ホームセンター業界に先駆けて大型再編が進み始めたのがドラッグストア業界だ。21年10月に業界5位のマツモトキヨシホールディングス(千葉県)と7位のココカラファイン(神奈川)が経営統合する。ここに至る過程では、6位のスギホールディングス(愛知県)もココカラファイン獲得に乗り出すなど、ココカラファイン争奪戦が繰り広げられた。

 業界の歴史を振り返ると、ドラッグストア大手の多くはM&Aを重ねて売り上げ規模を拡大してきた。

 最大手のウエルシアホールディングス(東京都)は、埼玉県と東京都のドラッグストアが合併して発足したグリーンクロス・コアが前身だ。1999年にツルハ(北海道)と、2000年にはイオンと業務資本提携した。08年に高田薬局(静岡県)と経営統合。13年に寺島薬局(茨城県)を買収すると、16年にはCFSコーポレーション(静岡県)を吸収合併した。

 2位のツルハホールディングスも、1995年にイオンと業務・資本提携。2000年にドラッグトマト(岩手県)を買収、以降全国各地のドラッグストアを買収していく。17年に杏林堂グループ・ホールディングス(静岡県)を買収。20年も5月にJR九州ドラッグイレブン(福岡県)を買収するなどM&Aの手を緩めていない。

勢力争いの台風の目はイオングループ

 かつての業界最大手マツモトキヨシも全国各地のドラッグストアを取り込んできた。同業へのM&Aに乗り出したのは09年。この年ミドリ薬品(福岡県)を買収すると、10年ラブドラッグス(岡山県)、12年ダルマ薬局(宮城県)、13年杉浦薬品(愛知県)、示野薬局(石川県)など全国各地のドラッグストアを相次いで取り込んでいった。

 ココカラファインは08年にセガミメディクス(大阪府)とセイジョー(東京都)が経営統合してココカラファインホールディングスが発足したのがスタートだ。10年にアライドハーツ・ホールディングス(兵庫県)と合併し、その後も、全国各地のドラッグストアを買収している。

 ココカラファインにラブコールを送ったスギは00年にイオン、ツルハと資本・業務提携したが、06年に提携を解消。05年にディスカウントストアのジャパン(大阪府)、07年に飯塚薬品(群馬県)を買収している。

 売上高1兆円規模で業界首位に??マツモトキヨシとココカラファインの経営統合は発表時のインパクトは大きかったが、ここへきて雲行きが怪しくなっている。

 両社の21年3月期売上高は、マツモトキヨシが5700億円、ココカラファインが3879億円でともに減収の見通しだ。コロナ禍でインバウンド売り上げが落ち込んでいるほか、両社は都市部に店舗が多く化粧品のウエートが高いためコロナの影響を大きく受けているからだ。

 一方、最大手のウエルシアはコロナを追い風に21年2月期売上高は9541億円と前の期から10%近く伸びる見通しだ。

 マツキヨ・ココカラ連合の売上高は単純合算で9579億円だから、ウエルシアとの差はほとんどなくなる。もし来年もコロナ禍が続くとなれば、21年10月の経営統合後、ウエルシアを抜いて首位の座に立てるか危うくなる。

 現在、ドラッグストア業界の一大勢力はイオン系だ。イオンは業界再編の歴史の陰の主役と言ってもいい存在だ。ウエルシア株式の過半を持ち、ツルハには13%を出資する筆頭株主。10位のクスリのアオキホールディングス(石川県)にはツルハが約5%を出資しており、イオンのドラッグストア連合のメンバー企業でもある。イオン系の売上高は単純合算で2兆円を超える。

 イオン系の追い上げに対して、マツキヨ・ココカラ連合としては新たに手を組む相手がどうしても欲しいところ。かつてイオンと袂を分かつことになったスギを含めてどれだけの企業を引きつけられる存在になれるかがポイントになってくるだろう。

 1千億円台の企業群にも再編の核になりそうな企業がある。米投資ファンドのベインキャピタルと組んでMBO(経営陣による自社買収)を実施したキリン堂ホールディングス(大阪府)だ。上場廃止となるが、ベインキャピタルのネットワークを生かしM&Aを目指す戦略を打ち出しており、相手次第では上位に食い込む売り上げ規模になる可能性も出てくる。

 混沌としてきたドラッグストア業界の再編は第二幕、第三幕へと続いていきそうだ。