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「継続的な幸福を実現する教育を新たな日本の国家ビジョンに」―下村博文 (衆議院議員)

菅義偉新政権は矢継ぎ早に政策を打ち出し、国民の注目度も高い。しかし、それらは各論が多く、その先にある「どんな国にしていくのか」はまだおぼろげだ。特に新型コロナ後の時代には経済、社会保障などの変革も迫られる。そうした中で、与党である自民党が、どんな国家ビジョンを打ち出すのか。それをまとめ上げる政務調査会の会長に、それまで選対委員長だった下村博文氏が就いた。下村氏と言えば「教育」がライフワーク。「教育」も柱にしながらどんなポスト・コロナの日本を描いているのか訊いた。(『経済界』2021年1月号より加筆・転載)

下村博文氏プロフィール

(しもむら・はくぶん)群馬県生まれ。早稲田大学教育学部卒業。89年東京都議会議員に初当選。自民党都連青年部長、都議会厚生文教委員会委員長などを歴任し2期7年を務める。96年第41回衆議院総選挙において東京11区より初当選。自民党青年局長、法務大臣政務官、議院運営委員会理事議事進行係(第70代目)、文部科学大臣政務官、自民党国対副委員長、第一次安倍内閣の内閣官房副長官、文部科学大臣、教育再生担当大臣、東京オリンピック、パラリンピック担当大臣、自由民主党総裁特別補佐兼特命担当副幹事長、自由民主党幹事長代行などを歴任。20020年9月、菅義偉内閣発足に伴う党役員人事で政務調査会長に就任。

菅政権の政策に対する政調会長としての認識

「政高党低」の状況をどこまで変えられるか

―― 新政権の政策を与党側として任されたが、基本的な考え方は。

下村 菅総理は非常に国民から分かりやすい政策を掲げています。例えばデジタル庁などもそうですが、新型コロナの際の給付金がデジタル化によって改善されるというように、身近に感じることができる政策です。

 ドイツでは申請して次の日には振り込まれるわけですから。新型コロナによって、改めて日本はデジタル化が遅れているとみんなが気づいた。また、携帯料金の値下げにしても、今の時代ほとんどの方が毎日スマホに依存しなければならないのに、他国に比べて料金が非常に高い。印鑑の廃止もそうです。時代に合った改革で、なおかつ効率性もあって、非常に分かりやすい。

―― 菅首相からは実現のスピードも求められているようだが。

下村 党としても、私のもとに100くらいの委員会や部会があって、それを統括しながら菅政権に合わせた委員会などを作って対応して行こうと。

 あと、与党と政府の連携を今まで以上に強化するため、行革担当の河野太郎大臣と、デジタル庁担当の平井卓也大臣と自民党行革推進本部の棚橋泰文本部長、そして私の4人で定期的に会いながら情報交換して、スピード感を出して行く体制をつくりました。

―― 安倍前政権は気象用語をもじって「政高党低」などと言われ、官邸主導で党は追従している印象があったがこれを変えられるか。

下村 デジタル庁の設置にも法律案が来年7~8本必要なんです。与党なしで法律案は作れない。行革110番も河野大臣が担当していますが、関係団体への根回し、説明をせずに一方的に突っ走って行っても、国民の反発があるかもしれない。それをわれわれ自民党のほうでサポートしていかなければいけない。政府与党の一体化が今まで以上に必要だと思います。

経済対策には経済安全保障の視点を

―― 政府は、経済も回して行くとしているが経済対策は。

下村 新型コロナ対応をしながら、経済対策もやらないといけない。倒産、または商売を止めざるを得ない業界もあることを忘れてはなりません。それについては、今ある持続化給付金、雇用調整助成金はもちろん、観光業やそれに関連する業界に対してはGoToキャンペーンを必要に応じてさらに延期するなど、とにかく新型コロナ対応と経済対応を共存させる。

 それからオリンピックはやるという前提で考えていますが、海外から観客に来てもらうための対応として、人の移動がしやすい環境づくりとしてのPCR検査や水際対策を、党として議論して政府に求めていきます。

―― ポストコロナという次の時代は、新しい経済対策のビジョンが必要ではないか。

下村 これまでの日本は、サプライチェーンについて効率性を考えて海外に依存してきました。でも、マスク生産を中国に頼っていたから不足したように、新型コロナでいろんな現実に直面しました。

 そこで、これからの経済はサプライチェーンにしても生産にしても、海外依存ではなく、あらゆるものを国内で対応できるようにする。企業が国内で対応していくために、国が補助して行くという形が必要です。これをもっと進めたい。いわば経済安全保障という視点ですね。

 米中に翻弄されないために、新たに日本が国際社会における新たなルール作りをしながら、日本の経済の発展を経済安全保障という観点から考えていきます。党内で議論していますが、今後の日本経済の大きなビジョンですから、できるだけ早くまとめたいと思っています。

―― 経済安保について、もう少し具体的に。

下村 サプライチェーンで考えると分かりやすいかもしれません。今までは海外の安いところで部品など作ってもらい、それを輸入する形でした。

 しかし、こういう国家の危機において、その仕組み自体の脆弱性が明らかになりました。輸出入ができないことによって、製造業が止まってしまったんです。世界は自国中心主義へと動いていますから、日本への輸出を平気で止める。経済危機のとき、日本も止まってしまうということになってはなりません。

 そこで必要なのは極端な保護主義ではなく、経済安全保障という新たな自前のモノを作っていくという観点です。サプライチェーンについては国外でいくつかの拠点を持ちながらも、国内でも製品作りを行ってもらい、国がそれを補助して行こうということです。これに関する予算と法律を議論しています。

―― 有事に備え、税金を投じてでも経済に安保という視点を持つのは腑に落ちる。

下村 2020年6月に「ウィズコロナ、アフターコロナ新たな国家ビジョン」という議員連盟を作りました。今後ももはやコロナ前の状態には戻らない、これからはウィズコロナかもしれないし、収束すればアフターコロナかもしれない。元には戻らないから新たな国家ビジョンを作ろうと呼び掛けた議連で185人も加わってくれました。これを14の分科会に分けて政策提言をしています。

 その中の一つとして地方分散社会を考える分科会がありました。今までの東京一極集中の時代というのはあらゆる分野で効率的だったが、地震などの災害リスクをはじめ今回のコロナのようなケースを考えれば脆弱です。テレワークも進んでいる中で、地方が元気になっていくためにも分散型を進める。地方にも人材や経済を分散させていこうと政策提言する分科会があったのですが、政調会長になって早速それを党の中の特命委員会として正式に作りました。

―― 議連を格上げしたのか。

下村 そうです。議連に185人も集まって突きつけられている数々の問題をそのままにしていたら、この国の加速度的な衰退につながるという危機感を持っているからです。今は平時になかなかやれなかったことを、思い切ってやっていける。ビジョンづくりが政治家の役割ですから、それを今果たさずして何のために議員バッジを付けているのか。そうみんな感じているんだと思います。

下村博文

政調会長として打ち出す「下村博文らしさ」とは

根本は国家を支える人材づくりと教育立国

―― 新たな国家ビジョンついてはどういう方向が考えられるか。

下村 菅内閣がとても具体的なことをしているのに対して、党は中長期的なビジョンづくりをしていく必要があります。

 先日も経団連が持続可能な資本主義について研究していくということで、私もお話を伺いました。金融経済、株主資本主義的な色合いが濃いダボス会議の場でも、これからはステークホルダーの資本主義、関係者が利益を得るような資本主義の在り方を考える方向性が打ち出されました。

 21年から渋沢栄一の新札が発行されますが、渋沢も『論語と算盤』という本の中で「道徳なき経済は犯罪である。経済なき道徳は寝言である」と述べています。

 つまり、ただ金儲けするだけがいいんじゃない。みんながプラスになっていくあるべき資本主義とは何なのか議論を進めていきたい。その中で大事なのは人材。例えばデジタル化の先にどんな人材が必要なのかと考えたときに、重要なのは教育です。根本は国家を支える人材づくり、教育立国です。

―― 下村さんと言えば、やはり「教育」を柱にした国家像の印象が強い。

下村 政調会長としての私らしさとあえて言えば2つあります。ひとつは政調会長になって「日本Well-being特命委員会」を作ることにしました。Well-beingとは幸福という意味なんですが、ハピネスとは違うんです。ハピネスは主観的な幸福で、あくまでも感情的で一時しか続かない幸福です。でもWell-beingは持続する幸せで、世界でも今この概念が注目されています。

 これまで経済は成長率を表すGDPが唯一のものさしでしたが、これからは少子高齢化でGDPを上げていくのは容易ではない。1990年頃は日本は1人当たりの労働生産性は世界2位でしたが、今では30位。ではどう考えていけばいいのか。

 これは働き方改革や教育につながりますが、例えば教育も効率的な社会の歯車として人材を供給するだけでなく、一人一人が人間力をつけて能力を伸ばし、継続的な幸福を実現するための教育が必要です。これを党の中で新たな指標として、新たな日本の国家ビジョンとして取り組みます。

―― 確かに、例えば幸福とは何かを国会での論戦などで聞いてみたい気がする。

下村 例えば女性にとって、高齢者にとって、障害者にとって、今の日本のままで幸せなのかという視点から、政治を行うことが必要だと思います。それがかわいそうだとか、ハンデキャップがあるという見方ではなくて、みなさん一人一人をバックアップして能力を発揮できるように、政治が動かなければなりません。

 働くということは、経産省的に言うと生産性を上げろというふうに聞こえるかもしれませんが、それは違います。一人一人の幸せの中に働ける、働きたいということがまず先にあって、もしハンデがあるなら政治がバックアップする。一億総活躍というのは、本来はそういう意味ではないでしょうか。

科学技術とイノベーションへの支援

―― バックアップはまだまだ十分ではないと。

下村 もう1つの私らしさを言えば、科学技術、教育、イノベーションに対する積極的な姿勢です。個々の企業の努力を越えて、国が全体的に資金面でのバックアップをしていかなくてはいけないということです。

 特に科学技術、イノベーションについては、10兆円の基金を21年に作りたいと考えています。既に骨太の方針には入れていますが、財源に関して財務省はまだ了承していません。これを実現したい。

 今、日本学術会議について議論されていますが、任命権の問題は政府が説明することだと思っています。党としては科学技術、イノベーションを資金的に援助したい。大学院に行って博士号を取得しても、わが国では経済的にも身分的にもちゃんと処遇されない。そのことで他国よりも後れを取り続けている。これは財源、経済的な問題なんです。

 大学等ファンドで10兆円の基金を作って、そこから活性化するための政策を作っていきたいと考えています。日本学術会議の歴代の会長3人とお会いしたときに、今の話をしました。研究者や学者と対立するわけではなく応援するところはしっかりすると。問題の本質はあまりにも少ない研究費など、そういったところにもあるんじゃないでしょうか。

教育は人材をつくり国をつくるという「教育立国」が下村氏の国家像だ。これを語る絶好のチャンスが先の自民党総裁選だったのではないかと私は考える。下村氏は、安倍前首相と同じ清和会所属で、本来なら退陣後の後継者として手を挙げてよかったはずだ。下村氏自身もいったん意欲を示したが、最後は派閥の力学で菅氏への一本化が行われた。今回政調会長として話を聞いたが、下村カラーが垣間見えたのはやはり「教育」だった。来年秋の総裁選。経済や外交といった国家観を語る総裁候補は多いが、「教育」を語り挑んでほしいものだ。(鈴木哲夫)