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「客足遠のくコロナ禍こそ企画力で新規顧客を獲得する」―元谷外志雄(アパグループ代表)

「やっぱり企画力でね、乗り切っていかないと」――。アパグループの元谷外志雄代表によれば、新型コロナウイルス感染症でもたらされている現状は、会社を経営していれば10年に1度は訪れる苦境の1つだ。それを乗り切るために、同社は企画力を発揮して、新規顧客を増やすための攻めの取り組みを展開しているという。聞き手=唐島明子 Photo=山内信也(『経済界』2021年1月号より加筆・転載)

元谷外志雄・アパグループ代表プロフィール

(もとや・としお)1943年石川県生まれ。小松信用金庫(現・北陸信用金庫)を経て27歳で独立し、注文住宅販売会社「信金開発株式会社」(アパグループの前身)を設立。現在、ホテル、マンション、リゾート事業など、21社からなるアパグループの代表を務める。          

アパホテルの新型コロナ対応

軽症者をホテルに受け入れた経緯

―― アパホテルは4月、新型コロナ無症状者・軽症者(以下、軽症者等)を受け入れる方針を明らかにしました。現在も継続して受け入れていますか。

元谷 軽症者等の受け入れについては、まずはじめに政府筋から打診がありました。私たちとしては、軽症者等と一般のお客さまを同じ施設で受け入れることはできませんので、「一棟借り上げ方式なら宿泊療養施設として貸せます」と返事をしたところ、その後、各自治体から次々と一棟借り上げの依頼が来ました。一時期は10棟以上を提供していましたが、10月1日時点では9棟になりました。

 運営中のホテルを一棟借り上げで提供する場合、既に入っている何百件、何千件の予約をすべて別のホテルに振り替えなければなりません。1週間から10日ほどの猶予をもらい、予約をいただいていたお客さま一人一人に連絡し、承諾を得て、宿泊先を変更する作業を行いました。

 自治体は、感染者がいきなり増えてしまうような非常時に備えて一棟借り上げで部屋を確保していたという側面もあるようで、実際には全客室の1割ほどしか利用していなかったみたいです。風評被害を防ぎ、安心してお客さまに入っていただくためにも、一棟貸しが終了した後は1~2週間かけて専門業者に全館の除菌作業をしてもらっています。

厳しい時代はあって当たり前

―― 通常のホテル業務でのコロナ対策はどうしていますか。

元谷 コロナ騒動が起きた初期の段階で、うがい、手洗い、消毒、検温、マスク着用、空気清浄機の利用のほか、入り口などには消毒液を置き、フロントに飛沫飛散防止用の衝立を設けるなど、社内衛生基準を見直しました。また各ホテルに特別衛生検査官を配置し、衛生基準を守れているかチェックしており、今のところ社員から感染者は出していません。

―― 宿泊の需要など、実際のビジネスの状況はいかがですか。

元谷 今年2月まではほとんど影響はありませんでした。しかし、3月は50%、緊急事態宣言が発令された4月は30%、5月は45%になり、例年であればほぼ100%の稼働率が見込める時期にもかかわらず非常に厳しい状況でした。宣言が解除された6月以降は、コロナの感染状況などの影響を受けながら、50%台後半から70%台を推移しています。

―― かなり厳しい状況ですね。

元谷 10年に1度はこういう厳しい時代があって当たり前です。そして10年に1度の危機をどう乗り切るかが、企業経営で最も大事なことです。そのためにも、会社として基礎体力をつけておかなければなりません。

 私たちは最初にホテルを開業した1984年に会員システムを立ち上げており、現在の会員数は累積約1900万人です。このコアな顧客層をキャッシュバック付きの会員システムでつかんでいます。

 また過去3年間、売り上げの3割にあたる利益を出してきました。その額は毎年350億円、合計1050億円です。今年度はコロナの影響はありますが、なんとか50億円の利益を出すのが目標で、いろいろなキャンペーンを展開しています。

厳しい状況を企画力で乗り切る

―― どんなキャンペーンですか。

元谷 ひとつは「コロナに負けるなキャンペーン」です。他のホテルを定宿としている方々をアパに引き込むことが狙いです。5月10日から6月30日までのキャンペーン第1弾では、シングル1泊1室2500円というインパクトのある採算割れの料金を提示したところ、アパを利用したことがないお客さまの宿泊を増やすことに成功し、約30%だった稼働率が70%台まで上昇しました。

 やっぱり企画力でね、乗り切っていかないと。キャンペーン第2弾では8月7日から9月30日まで都内全店でシングルを1泊1室3500円で提供し、都内での稼働率の回復を図りました。また、私たちの主なお客さまであるビジネスマンを対象に、新需要の創出を目指して「テレワーク応援プラン」を他社に先駆けて期間限定で販売し始めたりしました。

アパホテルの事業展開はどうなるか

一か国あたり10%を超える宿泊予約は受けない

―― 今後の需要回復などについて、どう見ていますか。

元谷 低迷していた稼働率も、今は回復の過程にあります。感染症はおおむね2年で収束すると考えた場合、新型コロナ発生から半年が経過していますので、この状況は長くてもあと1年半で収まると予測しています。

 日本の一番の成長産業は観光産業であり、ホテルはその中核事業です。日本は治安が良くて風光明媚、長い歴史があり、食べ物もおいしく、周辺のアジア諸国にとってあこがれの旅先です。アジア諸国の所得水準が上がれば海外旅行ブームが起き、訪日観光客が増えるはずです。ホテルはまだまだ将来需要が見込めます。

 新型コロナの感染が拡大する前、アパのお客さまの3割ほどが訪日観光客でしたが、今後も積極的にインバウンド需要を取り込んでいきます。ただ、いかなる国でも1カ国あたり10%を超える宿泊予約は受けないという「10%ルール」を設けていて、特定の国からの観光客が激減することなどのリスクにも備えています。

一過性のイベントには期待せず

―― インバウンドの一環では、延期された東京五輪も気になります。

元谷 アパとしては一過性のイベントには期待していません。五輪は2週間ほどで終わりますが、ホテルは20年、30年と長期で運用するものです。私たちはコロナ禍でも投資は計画通り進めていて、2023年秋までに開業予定のホテルは合計34棟あります。主要顧客であるビジネスマン需要を念頭に交通の便がいい大都市圏にどんどん建てています。

―― 五輪はアパにとってラッキーボーナスということですね。

元谷 あればいいし、なくてもいい。ただ、来年の東京五輪は開催されるべきだし、たぶん開催されるでしょう。世界各国から多くの観光客が来てくれてこそ、各業界にとって開催するメリットがあります。選手と五輪関係者のみが海外から来るような限定的な開催ではなく、メリットがある形で開催してほしいです。