経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

低価格より独自性重視へとシフトする観光ツアー

四季倶楽部旅の土屋俊一社長

新型コロナ禍のダメージから巻き返しを図りたい観光業界。GoToキャンペーンでは、普段なかなか参加できない高額ツアーから売れていったが、もう1つ明暗を分けているのがこれまで行ってきた顧客との関係づくりだ。旅行というものの価値が人々に再認識される中、オリジナリティや顧客本位の姿勢がますます問われることになる。文=吉田 浩(『経済界』2021年1月号より加筆・転載)

人気の観光ツアーの特長

安価なスキーツアーとの差別化を徹底

 「当社の場合、お客さまの囲い込みができていてリピーターが多いので、状況が落ち着けばツアーに戻ってきてくれることは分かっていました」

 こう語るのは、40年以上前からスキーツアーを実施してきた四季倶楽部旅の土屋俊一社長だ。コロナ禍が依然として終息しない状況にありながら、冬場のスキーツアーへの申し込みが順調に増えているという。

 Go Toキャンペーンの効果があるのは確かだが、土屋氏が語るように四季倶楽部旅の場合は顧客基盤がしっかりとしていた点が大きい。スキー・スノーボードのツアーは価格競争に陥っており、送迎バスと宿泊込みで1万円台といった商品もザラ。同社ではそこから一線を画し、資金的余裕のあるシニア層をターゲットとして、他社より高額なツアーを展開してきた。

 安価なツアーとの差別化要素は、余裕のあるスケジューリングとホテルのクオリティ、そして添乗員によるきめ細かなケアだ。

 他のツアーでよくあるパターンとしては、座席に余裕のないバスに押し込められて夜中に出発し、朝方に現地着。疲れた体でスキーをした後、夕方にはまた帰るといったもの。一方、四季倶楽部旅のツアーは、夕方に余裕をもって出発して夜に現地着、ぐっすり眠ってスキーを満喫した後、参加者同士で宴会も楽しめるといった内容になっている。

 こうしたツアーが人気となり、約20年間リピーターとして参加したり、1シーズンに10回近く参加したりするゲストもいるという。また、経済的余裕があるため、平日から連泊するゲストが多いのもシニア向けツアーの特徴だ。

四季倶楽部旅の土屋俊一社長
四季倶楽部旅の土屋俊一社長

おひとり様歓迎を謳う

 もう1つ独特なのが、おひとり様歓迎を謳っている点だ。若いころにスキーを楽しんだ人々の多くは、会社勤めや子育てを終えて時間的余裕ができたものの、かつてのスキー仲間はそれぞれの事情があって集まりにくい。そうした点を考慮して、5年ほど前から1人での参加OKという点を強調するようにした。

 1人で参加しても、ツアーを通じて新たなスキー仲間ができるのも大きな魅力だ。初めて参加する人でも孤立しないよう、添乗員やツアー常連客が他のゲストの輪に入れるよう誘導することもある。希望によって個室に宿泊したり、宴会に参加しなかったりするのも自由。こうした柔軟な対応も人気となっている。

 「これまでもオフシーズンにはツアーの説明会を行ったり、けがをしないよう参加者を集めて神社にお参りに行ったりと、会員に向けたケアを行ってきました。2月下旬にツアーを中止したときには、常連のお客さまから支援の声をたくさんいただき、動画や写真を送ってもらって会員同士でシェアするようなこともしました。これらの取り組みもあって、想定より早くお客さまが戻ってきた感じです。10月に入ってからは、既に前年比2割増のご予約をいただいています」と、土屋氏は言う。

 ただ、根強いファンに支えられているとはいえ、日本の人口が減っていくに伴いスキーツアーの需要も今後は縮小していく。今後の展望について、土屋氏はこう語る。

 「これまでシニアに特化したツアーに集中してきましたが、次の世代を何とか引き込みたいと思っています。スキーの楽しさを子どもや孫に伝えているシニアはたくさんいますし、これからはキッズ向けのスキースクールに無料バスを出すなどして、啓もう活動のようなこともできればと考えています」

 3年前に、本社を東京駅付近からスキーショップが集積する御茶ノ水に移転。御茶ノ水はスキーショップが多数集まっている都内でも有数の街であるため、あえて選んだと土屋氏は言う。ツアーバスも新宿駅や東京駅ではなく、御茶ノ水から出発するようにした。自社だけでなく、スキーに関わる他の業者も巻き込んで、ムーブメントを起こそうと意気込んでいる。

女性一人客が増えるパワースポット巡り

 一方、花火見学、ハイキング、富士山登山などのツアーが軒並み中止となる中、夏場の売り上げを支えたのが、別会社である四季の旅が運営している神社仏閣などのパワースポットを巡るツアーだ。

 こちらも薄利多売ではなく、添乗員の腕と口コミでコアなファンを作るスタイル。以前は低価格を売りにしていたが、6年ほど前から参加者の満足度をより高める方向に舵を切った。

 「他社のツアーより高い料金設定にしていますが、もともとパワースポット好きの添乗員が企画し、その知識をマニュアル化しているので、神社仏閣の歴史について深く学べる点が特徴です。低価格の時は若い人や男性の参加者が多かったのですが、今は30代後半から60代までの女性が中心で、40代で仕事をしていて自由にお金を使える方の1人参加も増えています」と、土屋氏は説明する。

パワースポット巡り
人気を維持するパワースポット巡りツアー

観光ツアーを充実させるための添乗員の心構えとは

 ツアー旅行の場合、参加者が添乗員個人のファンになって、リピーターとなるケースがよくある。四季の旅では添乗員に自由に使える予算を持たせて、例えばあまり知られていない土地のお菓子を購入して参加者に配るなど、個人の裁量で動ける範囲を広げている。

 「添乗員教育については、社内マニュアルはあるものの細かいことには口出ししません。ただ1つ、お客さまは自分の親だと思うようにとは伝えています。親を旅行に連れて行くときは、おいしい食べ物を勧めてみたり、車内の温度に気を使ったり、自然にできますよね。こうした当たり前のことが、仕事だとなかなかできないんです」

 コロナ禍の自粛によって、旅行の価値を再認識した人々は多い。貴重な体験への期待に見合うサービスをどれだけ提供できるかが、ツアー会社にとっての勝負どころだ。