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「菅政権に代わって、野党が国家ビジョンを示すときが来た」―泉健太(衆議院議員)

泉健太・衆議院議員

2020年9月、菅義偉新政権発足と時期を同じくして野党が合流を果たし、新・立憲民主党が結成された。本当に「ようやく」だった。問題は、現政権に対して違う国家像や社会の姿を示すという政策の部分だ。スキャンダル追及だけでは国民の期待は萎んでしまう。安倍政権を引き継いだ菅政権も新自由主義的な経済政策が色濃く出ているが、これにどんな対抗軸を示すか。その大役を背負うのが政調会長の泉健太衆議院議員。21年中に総選挙を控える中、争点となる新型コロナ禍の経済、混迷へ向かう社会保障、そして地方活性化などを聞いた。(『経済界』2021年2月号より加筆・転載)
Photo=幸田 森

泉健太・衆議院議員プロフィール

泉健太・衆議院議員
(いずみ・けんた)1974年生まれ。京都3区。98年立命館大学法学部卒業後、参議院議員秘書を経て、2000年総選挙に25歳で出馬。03年総選挙で初当選以来当選7回。民主党政権発足時の鳩山内閣では内閣府大臣政務官(担当分野:行政刷新、公務員制度改革、防災、沖縄・北方、男女共同参画、少子化対策、消費者行政、食品安全)を務める。国民民主党で国対委員長、政調会長を経た後、合流後の新・立憲民主党代表選に出馬。初代政務調査会長に就任。

泉健太氏が政策責任者と考えること

政調会長としての菅政権への評価

―― 野党再編で新・立憲民主党がスタートした。政策責任者としてどんな実感を持っているか。

 所属議員151人の野党第一党になりました。規模が大きくなってすべての政策を網羅する全体感も出て、役所の対応なども随分変わってきたなと思います。旧立憲と旧国民を主にした合流でスタンス的にも中道に広がりました。産業界の皆様との対話も増えており、次期総選挙に向けた政策づくりにも生きてくると思います。

―― 新党になって初の臨時国会の手応えはどうだったか。

 臨時国会での戦いは日本学術会議の任命問題からスタートしましたが、やはり最も重要な新型コロナ対策が議論の中心でした。全体的に見て菅政権は準備不足だったのではないでしょうか。

 新型コロナ対策でも新しい施策がなく、安倍前政権からの継続。しかも追加支援もない継続だけです。患者も増えてきているし、経済も年末にかけ厳しい環境に近づく。各種制度の期限も迫っている中で次の手を打ち出せずにいます。

 学術会議問題でも、学術会議側と協議ができていなかったと認めた。政権移行期でバタバタしていたのか、これまでのような協議を行わずに突然の任命拒否に至った。準備不足がたたり、対応に追われていると感じています。

―― 菅政権は各論先行。ブレーンの一人と言われる竹中平蔵氏などはそれでいいと公言しているが……。

 デジタル庁の設置、携帯料金値下げ、不妊治療が目玉として出されました。でも、結局デジタル庁の設置は早くても来年後半。携帯はドコモのみが新プランをつくり、あとは格安スマホを使ってくださいといった内容です。不妊治療への保険適用も時間がかかる。やっているように見えて、実は成果らしい成果が見えないスタートです。

 所信表明演説でもビジョンが語られず、各論だけでした。その後、突如、2050年のカーボンニュートラル宣言というのはありましたが、それもプロセスは不明確です。そうした意味で、野党が菅政権に変わって、国家ビジョンを示す局面が来たと思います。

実体経済を回復させるため可処分所得が増える環境を

―― 経済政策では自民党にどう対峙するか。

 党に経済政策調査会を発足させて、次期総選挙に向けた経済政策を検討しています。アベノミクスの中でも、国民生活は向上しなかった。特にGDPの6割を占める消費が浮上してこなかった。

 アベノミクスは金融緩和でマクロ経済をよく見せるという状態を作れたと思いますが、実体経済にそれが及んでいませんでした。実体経済を良くするには、可処分所得が増えていく環境を作らなければなりません。伸ばしていく産業としてはグリーン・環境系の産業、次にライフ・医療・介護・社会保障系、そしてデジタル系です。この3本柱の分野について積極的に投資し、技術革新による新たな市場づくりに取り組んで行きたいと考えています。

―― 税対策なども考えているか。

 法人税についてですが、経営者の方々には可能な限り働く人への分配率を高めていただき、賃金に回してほしい。そして消費に回って行けばいい。ですから、賃上げを行っている企業に対しての優遇は考えられるかなと思っています。中小企業においては社会保険料の助成など支援を行いながら、最低賃金の引き上げなどもやりたい。あまりに急激に引き上げると韓国のように逆効果も考えられるので、徐々にやっていきたいと思っています。

―― 経済政策では、新型コロナという有事も加味しなければならないと思うが。
 何といっても今は新型コロナ対応です。枝野幸男代表は短期的のものとしてハイブリッドな経済政策を打ち出しています。新型コロナで冷え込んだ経済への対応策として、消費税を時限的に引き下げる、あるいは所得税の減免、また生活困窮者に対する定額給付金の再給付、これらを組み合わせながら、経済政策を進めて行くということです。

 私は枝野代表と党代表選を戦った際に、コロナにかかわらずインフレ率2%になるまで消費税をゼロにすべきと訴えました。枝野さんが勝利したわけですから、私の持論は横に置いていますが、ただいずれ経済を回復させていくのであれば、消費税引き下げは考えなくてはならないと思います。今、党の税制調査会で議論しているのは、平成の30年間の税制を再検証し、抜本的な見直しを考えていくというものです。消費税については、改めてその中でも議論して行きます。

泉健太氏が描く立憲民主の政策構想とは

立憲の年金、社会保障、少子化対策

―― 少子高齢化や人口減が止まらない。社会保障制度はいまのままで持つのか。

 例えば年金制度一つとっても、旧民主党は最低保障年金構想を時間をかけて作ってきました。ただ、それも実現をするには、制度の移行で40年くらいかかってしまうような構想でなかなか踏み切れませんでした。今後、一部ベーシックインカム的な給付などの改革はあると思いますが、いまの年金制度を大きく変えるような全面展開は難しいと思います。

 しかし、そうした中でもこれからの社会保障の方向性は二つあります。一つは経済格差が広がっていることから、ある程度の応能負担が必要だということ。資産や所得が高い人の窓口医療費などが対象です。

 もう一つは、ベーシックサービスである医療・介護・保育・教育分野を支える人々の待遇改善と質の向上です。そして自民党と立憲民主党の大きな違いは多様性を認めるということ。家族の在り方でいえば選択的夫婦別姓やひとり親支援の推進、また担い手という意味では外国人材の採用などを積極的に行い、地域においても外国人世帯と共存していくということです。多様な価値観を許容し、そうした人々も暮らしやすい環境を作ることです。

―― 子育てや少子化対策は?

 男女の所得格差が縮まっているとはいえ、双方とも賃金が上がっているわけではなく、依然として共働きが強いられ、出産となれば一方は収入を閉ざされてしまう状況です。出産後も生活が不安定な中で、月額1万~1万5千円の給付が中学生までというのはあまりにも少ない。しかも、菅政権は所得制限を厳しくして、それを待機児童対策に回しますというけれど、約60万人の人が手当が減る可能性があります。

 これは少子化対策にはおよそ逆効果の政策です。親が何歳で子を生んでも、損をしない、未来が明るい、そういう社会を作らないといけません。20代で結婚・出産しにくい経済環境、労働環境があることも晩婚化、晩産化の理由です。たとえ大学生でも、子どもが産まれたら学費が無料になる。それくらいの大きな政策を行う必要があります。

地域主権と地方創生をもう一度進める

―― 人口減に加えて東京一極集中は止まらない。このままでは地方が消滅する。地方をどうするか。

 安倍前政権は地方創生という言葉は作ったものの、相変わらず都市部への流入傾向は変わらず、企業本社の地方への移転も少なく、人口減少は各地で続いています。新型コロナによって初めて東京から地方への転出者が5千人増えたというニュースがありましたが、全体的には都市部への流入や、もしくは県庁所在地が小東京化し、そこだけが人口を保つような状態です。

 その間の自民党の政策というのは、例えば郵政民営化、農協改革、郊外の大規模店舗など、地域の共同体の中で生活や雇用や食の拠点になっていた商店などの衰退が続きました。日本全体を見れば、地方には豊かな自然と持続可能な生活ができる環境が存在しています。そこに今の時代にふさわしいインフラを整え、さらに収入が得られる環境を作っていければいいと思います。

―― 具体的には?

 ひとつはエネルギーも地域で電力を作り消費する地産地消を進めることで、地域の経済がより活性化するのではないでしょうか。またエッセンシャルワーカーの待遇改善です。保育・幼児教育・介護などの業界の方々の待遇を改善することで、地域での消費が増えることが期待されます。

―― 新型コロナにより、地方にもっと権限と予算を渡すべきという議論のきっかけができたのではないか。

 民主党政権のときは一度国と地方を対等な関係に整理して、権限と財源を地方に渡して行こうとしました。それが地域主権改革です。これが自民党政権で上下関係に戻ってしまい、権限・財源の移譲も停滞してしまいました。地方は中央省庁に何度も陳情し、予算や許可を取りに行かなくてはならず、自由度やスピード感が失われます。

 例えば洋上風力発電が注目されてもう20年たっていますが、その間に諸外国とはるかに差ができてしまいました。ようやく日本政府も動き始めたと思ったら、わざわざ国が計画を認定して、国主導でやりたがる。でも、本当にその場所が洋上風力発電にふさわしいのであれば、地域ごとに事業化できるように権限を渡して行けばいい話です。

―― 地方分権に向けて本腰を入れた法改正やインフラ整備が必要ではないか。

 もう一つ新型コロナで分かったのは、地方の活性化のためにWi-Fiや5Gなどの通信環境を整えなければいけないということです。若い世代は地方移住に積極的で、会社経営や仕事をオンラインで行いながら、自然豊かなライフスタイルを模索しています。携帯電話料金の値下げもいいですが、オンライン教育やテレワークも含めて、地方の通信インフラについて都会と比べて遜色ないものになることによって地方の魅力もぐんと上がると思います。

―― 政権交代を目指す政策本位の野党としての決意を聞かせてほしい。

 これまで野党は行政監視能力、政権追及力については、国民に認知していただいていると思います。しかし、その二本柱だけでは信頼は得られないし、国民に愛されない。私は新しい立憲民主を国民に信頼され、愛される政党にしなければいけないという思いで参画しました。まさにそこは、政策を国民に提案していくことで示していきたいと思います。

 立憲民主は何を考えているのか、環境、地域、生活、多様性が大事だ、国民の生活が大事だといったことを訴えてまいります。政権追及だけではなく政策提案の政党であるということ。それが政権交代への道だと思うのです。

政策的には俗に言われる中道路線だろう。しかし、過去の政治活動の中で、高齢者、子ども、過労死問題などに関して積極的に取り組んできた人権政治家でもある。旧立憲と旧国民の政策的融合には適役かもしれない。泉氏は合流新党のときの代表選に出馬し枝野氏と論戦を繰り広げた。実は私はそのときの代表選討論番組の司会をさせてもらった。番組の最後に泉氏のほうから枝野氏に対してさっと手を出し握手を求めた。爽やかな印象が残った。新しい野党も次の課題は世代交代だ。期待したい。(鈴木哲夫)