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「外食産業にとって今こそビジネスモデル開発の大チャンス」―菊地唯夫 ロイヤルホールディングス会長

ファミリーレストランの「ロイヤルホスト」などを運営するロイヤルホールディングスの菊地唯夫会長は外食業界きっての論客として知られるが、「2~3月が一番厳しい」と危機感を募らせる。しかしその一方で、「夜明け前が一番暗い」とも。夜が明けた時、外食産業にはどのような変化が訪れるのだろうか。
聞き手=外食ジャーナリスト/中村芳平 Photo=横溝 敦(『経済界』2021年3月号より加筆・転載)

菊地唯夫・ロイヤルホールディングス会長プロフィール

菊地唯夫・ロイヤルホールディングス会長
(きくち・ただお)1965年、神奈川県生まれ。早稲田大学を卒業し、日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)に入行後、ドイツ証券投資銀行を経て、2004年、ロイヤルホールディングスに入社、10年3月同社社長、16年3月、会長に就任した。16~18年に日本フードサービス協会会長を務めた。

外食最大の危機は2~3月に訪れる

―― ロイヤルホールディングス(HD)の2020年12月期決算の第3四半期累計は新型コロナウイルスに直撃され、売上高は前期の42・0%減の611億5100万円、最終損益は186億2900万円の大幅な赤字でした。

菊地 われわれのグループは外食事業(ロイヤルホスト、てんや、専門店)、コントラクト事業(空港ターミナル、高速道路、事業所内)、機内食事業、ホテル事業(リッチモンドホテル)の4つの事業を展開しています。いろいろなブームや波、トレンドがあるので事業を多様化することで乗り切っていこうと考えているのですが、すべての事業が基本的に人の移動に依存しています。

 このため人の移動が制限されるコロナ禍にズボリとはまってしまい、前期で1400億円以上あった売上高が今期(20年12月期)は550億円程度吹っ飛んでしまう見込みです。GoToトラベル、GoToイートで人が動き活気が戻ろうとしていたのですが、「第三波」の到来で局面が一気に悪化してしまいました。今はこのコロナ禍の中でどのように会社を存続していくのかが、1つの大きな課題です。そして、もう1つの課題がこのコロナ禍によって外食産業がどのように変わっていくのか。これを今ずっと考えているところです。

 会社を存続させるという意味では、上期(4―9月)は、キャッシュフローの問題でした。ほとんどの企業が銀行からお金を借りてキャッシュを潤沢にして対応していました。そのため第3四半期(10―12月)のキャッシュフローはポジティブに戻りましたが、今度は損失が計上されるので、自己資本が大きく毀損してしまいます。ですから次は恐らく自己資本の回復というステージに入ってくると思います。その次に来るのが損益計算書の議論になっていくと、私は財務的には見ています。

 当社は500億円の自己資本があり、自己資本比率は約50%でしたが、その半分以上を1年間で消失してしまう状況です。自己資本比率は期末になってみないと分かりませんが、それでも20%前後はあるので、すぐに問題にはならないと思いますが、コロナ禍の長期化を考えると、今後は意識しなければならないポイントだと思います。

 米、英などでワクチンの接種が始まり日本でも2月から接種が始まると言われていますが、その有効性がまだ確認できていないところもあり、現段階では判断が非常に難しいところです。コロナが長期化すれば、キャッシュが底をつく企業も出てくると思います。

外食産業のビジネスモデルが崩れる

―― 稼ぎ時の忘年会・新年会が不発に終わりました。そのため正月までは乗り切っても4月ぐらいまでの間に閉店・廃業、倒産が続くという見方もあります。

菊地 外食業界は先にお客さんからお金を頂き、2カ月遅れぐらいで仕入れ代金を払います。つまり12月の売り上げのピークの時の支払いが2月―3月にきます。忘年会・新年会が不発だと、その支払いができなくなってしまい、破綻してしまうわけです。

 これまで外食業界というのは店を開けることが社会貢献でした。東日本大震災の後、被災地では店を開けることで多くの方に喜んでもらえました。ところが今回は、お店を開けることが社会から否定をされてしまったために、精神的なプレッシャーはとても大きなものがあります。

 震災の時は、「絆」や「連帯」という言葉がキーワードでしたが、コロナ禍で社会は「分断」されてしまいました。外食のビジネスモデルは連帯です。でもこれを否定されてしまったため、居酒屋の経営者などは心が折れてしまう。それで店を閉める人が徐々に増えているのが現状だと思います。

外食産業の今後とロイヤルホールディングスの立て直し策

人件費の固定化がマイナスに作用

―― ここからどうやって立て直していけばいいのでしょうか。

菊地 今われわれが置かれている現状には2つの見方があります。1つはコロナの前は問題がなかったのに、コロナによっておかしくなったという見方。もう1つは、実はコロナ前から問題を抱えていて、コロナによって顕在化したという見方です。

 外食業界は以前、人件費を変動費としてきましたが、ここ数年、人手不足が続いたことで人件費を固定費化してしまいました。そのため損益分岐点が90%前後まで上がってしまったのです。その結果、コロナ禍で10%売り上げが落ちただけで、赤字になってしまう。実際は売り上げが50~60%も落ちたので、一気に苦しい状況に追い込まれたのです。

 コロナが終わった後に売り上げが100%戻るのであれば、一時的な問題ですませることができます。しかしテークアウト、デリバリー、ECサイトなどが一般化したために、今後、戻ったとしてもせいぜい90%がいいところです。これではビジネスが成り立たないのが外食産業の現状です。この10%の喪失という大きな変化がもたらす影響を、外食産業の経営者は頭に入れておく必要があると思います。

食事する時間と場所から解放されるイノベーション

―― だからでしょうか。居酒屋の大手チェーンなどは、コロナ後すぐに大量閉店を発表しています。

菊地 あれはコロナの前から悪かった店を、復活の見通しがないから閉めたということだと思います。これから起きてくるのは、コロナの前は良かったけれども、コロナでおかしくなった店をどうするかということです。テレワークの普及でビジネス街、繁華街、駅前好立地といった家賃の高い一流立地にお客さまが戻っていません。その分、二流、三流立地とされた郊外や住宅街隣接地、ロードサイドなどに流れています。コロナが収束した時、再び一流立地に人が戻るのか、この判断が非常に難しい。

 これまで外食というのは集客が大きな問題でした。ですから一流立地に出店したがった。ところが今は、テークアウトやデリバリーの普及でお客さまを呼ばなくてもよくなったわけです。

 ちなみに食市場は、外食25兆円、中食10兆円、内食35兆円、合計70兆円市場といわれてきました。コロナ前、コンビニやスーパーがイートインを強化するなど、中食・内食のプレーヤーが外食市場に攻勢をかけるという流れがありました。それがコロナ禍で、外食がテークアウト、デリバリーを強化することで中食へ参入、ECサイトで内食への展開を行い、業界の垣根が一気に崩れました。とどのつまり、お客さまは外食、中食、内食にこだわらず、自分が好きなときに好きな食べ方を選べる自由を得ました。これは時間と場所からの解放です。

 これまで人類が起こしたイノベーションをひと言で言えば、人が時間と場所の制約から解放されるということでした。コロナ禍で食の世界にもイノベーションの波がやってきた。これまで外食、なかでも居酒屋は立地が良くて、そこそこの接客と料理があれば成り立つビジネスモデルだったと思います。しかし、これからはお客さまがわざわざお店に行く動機、お店側からすれば、わざわざお客さまに食べに来てもらう価値とは何かが問われるようになります。

M&Aをするには高すぎる株価

―― ロイヤルは過去最大規模の200人の希望退職を募集するなど、コロナ禍に対応したリストラに踏み切りました。今後の外食産業の展望をどう見ていますか。

菊地 夜明け前が一番暗いと言いますが、3月ごろがそのピークではないかと思います。重要なのは、コロナ禍が収束したときに外食産業が進化できるかどうか。外食に関わる多くの人たちが、将来の予測が立たない今、新業態を開発したり、業態転換を図るなどのチャレンジをしています。その一方で、コロナ禍にもかかわらず業績の良い外食チェーンは、不動産価格が値下がりしている今、出店ラッシュをかけようとしています。

―― M&Aも活発になるのではないですか。

菊地 リーマンショックの時と違って、企業の株価が実態以上に高くなっています。そのためM&Aは難しい。投資ファンドにしても、外食企業の株価が高すぎて買おうとしません。企業合併という手段もありますが、赤字企業同士が一緒になってもうまくいくとは思えません。

新たなフードサービス誕生に期待

―― 今後どのような変化が起きると予測しますか。

菊地 ピンチはチャンスという言い方は不適切かもしれませんが、今まで時間がありすぎて変化を起こせなかったところがあります。それがコロナを契機に時間軸は一気に消え、待ったなしの変化が求められます。

 外食産業は結構ダイナミズムがある業界です。ライバルが撤退したら、そのあとにすぐに新しい業態が登場するなど新陳代謝が激しい。外食ランキング上位企業が落ち込み、中堅企業が台頭、コロナ禍によって世代交代が始まったという人もいます。

 現在、日本の人口は1億2700万人ですが、50年には9700万人になると予測されています。コロナ禍で市場が縮小した今は、30年後の世界を先取りしていると言っていいかもしれません。そういう意味では縮小した市場で成り立つビジネスモデルとは何かを考える非常に大きなチャンスだと思います。

 例えばテークアウトやデリバリー比率が40%ぐらいの外食モデルとは何かと想像するのも面白い。30年後から逆算してみれば、もう少し違った視点でコロナ禍を見ることができるのではないでしょうか。

 コロナもいつかは収束します。その時に新しいフードビジネスが誕生することを祈念しています。

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